<前編>リモートワークが変える「働き方」と「住み方」

2019年、新しい元号「令和」の発表とともに、働き方改革関連法が施行開始した。「待ったなし」といわれる働き方改革と、その有効な対策のひとつとして進むリモートワーク。11月は『テレワーク月間』として、 総務省や厚生労働省、経済産業省、国土交通省、学識者、民間事業者などで構成される「テレワーク推進フォーラム」が主体となり、テレワーク普及のためのセミナーやイベントを開催し、テレワーク普及の推進活動を行っている。

リモートワークの広がりによって社会はどう変わっていくのか。住まい方にも影響はあるのか。前編・中編・後編と3回に分けてお伝えする。 

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目次

いま「働き方改革」が待ったなしといわれる理由

まず明確なのは日本の人口、特に労働人口が加速度的に減少する時期に入ったことが挙げられる。2010年から人口カーブがマイナスに転じ、最初の5年間は緩やかだったものの、2017年には団塊の世代が70歳に達してリタイアが始まり、労働人口がいきなり減った。現在、日本の1歳あたりの人口はだいたい110万人くらいだが、団塊の世代は1歳あたり200万人以上いて、一昨年から5年間くらい毎年それだけの労働人口が減っていくということだ。単純計算で1000万人、これは日本の労働人口の15%くらいに当たる。

人生100年構想が提起される中、まだ働き続ける人もいるだろうし、下の世代の労働人口が補充されるから、この先の3年(2022年)までに実際に減るのは400万人くらいだろうか。

労働力が少なくなると、もう時間ではカバーしきれなくなる。年間の労働時間の平均が2000時間とすると、月100時間の残業を毎月やっても3200時間、1.6倍にしかならない。時間で穴埋めしようとしても、追いつかない。そういう時代に入るので、時間で働くという概念を根本から改めないといけない時期に来てしまった。短時間で結果を出す生産性の向上こそが鍵となる。

要点をまとめると

①人口減少、高齢化という前例のない難問に向き合う日本において、最重要課題は労働力の確保。
②そのためにも必要なのが長時間労働の是正と、それに起因する低い生産性を改善すること。

つまり①と②はニワトリと卵だ。

労働力確保と生産性向上を実現する有力なツールとして注目を集める「テレワーク」

ひとりでも多くの人が働けるようにするには、個々の状況に対応できる柔軟な働き方を提供しなければならない。特に、育児や介護などとの仕事の両立を促進するには、残業が無く、すぐに退社できる、あるいは、時短勤務や時間単位の有給休暇など、制約のゆるやかな働き方が求められる。

そこで注目されるのが「テレワーク」だ。これまで労働市場に参加できなかった個々の事情を抱えた労働者のさらなる社会進出の後押しにもつながり、質と量の両面から経済成長に大きな効果をもたらすと期待されているという。

「テレワーク」とは、情報通信技術(ICT※)を活用した、場所や時間にとらわれない働き方のこと。
「リモートワーク」という呼称とは違いがある?
テレ=teleは離れた所を意味する言葉。ワークworkと組み合わせた造語であるテレワークは、言葉の意味そのものは「リモートワーク」とほとんど変わらない。「テレワーク」は大企業や国が、「リモートワーク」はIT業界やベンチャー企業が、それぞれ「オフィスに出社しない働き方」を指す言葉として使う傾向があるようだ。 「リモートワーク」は、仕事をする場所を限定していないが、「テレワーク」のほうは具体的に下記の3つの「働く場所」を想定している(日本テレワーク協会)。
①在宅勤務
②モバイルワーク(移動中や顧客先で、パソコンや携帯電話を使う働き方)
③サテライトオフィス勤務
※ICT(Information and Communication Technology)
は「情報通信技術」の略であり、IT(Information Technology)とほぼ同義の意味を持つが、国際的にICTが定着していることや、コンピューター技術の活用、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーションを重要視することから、日本でも近年ICTがITに代わる言葉として広まりつつある。

総務省 平成30年度版 情報通信白書 「テレワークによる働きやすい職場の実現」 より抜粋

テレワークを主導する総務省の公開資料を見てみよう

時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であるテレワークは、企業にとっても従業員にとっても様々なメリットがある(図表4-4-3-5)。企業側には、産業競争力の維持・向上や人材の離職抑制・就労継続支援の創出などの効果が期待でき、従業員側にはワーク・ライフ・バランスの向上や仕事全体の満足度向上と労働意欲の向上などの効果が期待できる。

図表4-4-3-5 テレワークのメリット

(出典)厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」(2016)

通信利用動向調査によると、企業によるテレワーク導入目的として最も割合が高かったのは「勤務者の移動時間の短縮」(54.1%)であった(図表4-4-3-6)。これは2016年の結果と比較すると、10%高い数値である。そのほかにも、2016年の結果と比較して2017年の回答率が高かった項目は「勤務者にゆとりと健康的な生活の実現」、「通勤弱者への対応」、「優秀な人材の雇用確保」と、いずれも従業員の働きやすい職場の実現に関する項目である。これは企業が働き方改革に取り組む中でより従業員の働きやすさと、人手不足が見込まれる中での従業員の雇用継続のために、テレワークを導入する企業が増えつつあるためと考えられる。

図表4-4-3-6 テレワークの導入目的(企業)

(出典)総務省「通信利用動向調査」(各年)より作成

2017年の調査では、50.1%の企業が「労働生産性の向上」をテレワークの導入目的として挙げている。労働生産性向上を目的としてテレワークを導入した企業のうち、82.1%の企業がテレワーク導入により目的とする効果を得たと回答したことから、テレワーク導入は労働生産性向上に効果があると考えられる(図表4-4-3-7)。

(出典)総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018)より作成

続いて、就労者が感じているテレワークのメリットについて、調査結果を踏まえて考察する。テレワークの利用理由として、利用者が挙げるのは、通勤時間・移動の削減が71.5%、自由に使える時間の増加が68.1%と多かった。性別年代別に見た場合、20代の女性で、52.5%が育児・子育てと仕事の両立と回答しており、子育て世代の女性の社会的な活躍の促進のためにも、テレワークの導入が求められることが明らかになった(図表4-4-3-8)。

図表4-4-3-8 テレワークを利用する/したいと考える理由(複数回答)

(出典)総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018)

実際のところは、どうだろう。身近にいるリモートワーカーに話をうかがった。

インタビュー①

パレットクラウド株式会社 中嶋信哉さん 28歳 Webエンジニア
江戸川区在住 家族構成:奥様、お子様ふたり(3歳と生後3ヶ月の男の子)

求人情報で見つけた「リモートワーク可能」

弊社は、不動産管理会社に特化した「クラウド型入居者管理システム」の開発をしていますが、私の業務はその機能開発と改善です。具体的に申しますと、当社提供サービス「パレット電気」の申込、物件管理Webシステムの開発と、オンライン退去申込機能の開発を担当しています。

私は昨年4月に入社(当初の雇用形態は業務委託)しました。求人情報をみて応募した際、その業務内容に加え、「リモートワーク可能」という前提条件が付いていたことにも惹かれました。というのも、前職では同じく業務委託でも定時制で、会社に詰めての勤務でしたので、子育てに苦労していたからです。妻は保育士をしており、シフト勤務です。遅番の時には帰宅できるのが20時頃になりますので、そういう時には私が会社を早退して、保育園に子どもを迎えに行かなくてはなりませんでした。

そんな中、フリーランスで働いている同業の先輩からリモートワークを薦められていました。先輩というより師匠みたいな方で、最初からそういう働き方をしていたので、私も将来はそういう働き方がしたいな、と思っていたのです。

入社1カ月後の昨年5月にリモートワークを開始しました。コミュニケーションはチャットツール(Slackやgoogleハングアウト)を使用するほか、必要に応じては通話もします。仕事を始めるとき、席を外すとき、仕事を終えるときに報告をしています。週に2日(毎週火曜と金曜)は、全員出社をするので、その時に、会議をしたり全体での確認事項など、コミュニケーションをはかっています。

昨年10月には正社員となり、現在リモートワークをはじめて1年半ほど経過しました。実感としては、通勤時間がない分、余計な疲れがなく快適です。集中して仕事ができています。独りなので雑談する相手がいない(笑)わけで、効率はいいですね。夕方は早い時間に仕事を終わらせることができていますので、ワークライフバランスが取れていると思います。

リモートワークに向くのはオンオフの切り替えが上手い人

妻は現在、下の子の産休・育休中ですが、私が在宅で仕事をしていても、業務時間内に家事をお願いされることはほとんどないですね、妻もそのあたりは理解してくれているのだと思います。妻は来年4月には仕事に復帰する予定なので、それ以降は私がふたりの子どもの保育園への迎えをすることになり、リモートワークによってそれがスムースにできる準備が整いました。

余談ですが、上の子(3歳)は、父親が2階で仕事をしている(在宅している)と知ると、仕事中とはいえ遊んでほしいとやってくることは目に見えているので、今のところ外で仕事していることになっています(笑)。保育園から帰ったところへ、忍び足で階段を下りて「ただいま~」と言うのです(笑)。

オンとオフの区切りをつけることが上手な人ほど、リモートワークは向いていると思います。私が経験上感じているリモートワークのメリットは、何といっても通勤時間を他の時間に当てられること、プライベートの諸事情に対応しやすいことです。デメリットを強いて言うなら、人と頻繁に話せないこと、オフィス内の雰囲気が読めないことでしょうか。自宅にあったらいいなと思うもの(あえて言うなら)は、会社の様子がわかるようなカメラのようなもの(?)でしょうか。

でも前述のように、週2回の出社日がありますからコミュニケーションはまとめて図れますので、取り残されるようなことはありません。飲み会などのコミュニケーションも、たまにありますよ。

 将来的に、子どもたちが成長して手が離れたら、ワークライフバランスのプライベート部分を趣味の音楽に充て、楽しみたいと思っています。 現在の住まいは2LDKのメゾネットタイプの賃貸住宅です。1階にリビング、キッチン、お風呂、2階に二部屋の洋室があり、その一つを仕事場にしています。パソコンとネット環境さえあれば、場所を選ばない仕事なので、自宅に特別なしつらえは必要ありません。

次回はさらに取材を重ね、複数の声をご紹介する。

Hello News編集部

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