空き家を減らすためにアップデートすべき これからのリノベーションの価値観

Photo by Ryota Atarashi

筆者プロフィール

小野寺 美咲


おのでら・みさき / 1995年横浜生まれ。
会社員を経て2023年よりフリーライターとして活動。これまで経営者から市井の方まで400名以上に取材、記事制作を担当。
小説家 石田衣良 出演『大人の放課後ラジオ』Kindle版編集協力なども実施している。

リノベーションは住まい手ありきで行わなければならないもの。そうでなければ、ただきれいにしただけの、誰のためでもない物件ができてしまう。今回の取材を通して、これからのリノベーションにおける重要な価値観が見えてきた。

訪れたのは、JR総武線西荻窪駅から徒歩7分の場所にある、閑静な住宅街の中に建つKICS House。現在、陶芸家の関口さんがアトリエ兼住宅としている。

KICS House外観

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開放感のある広い窓が特徴の1F

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光が差し込む2F。自然と集まりたくなる空間

Photo by Ryota Atarashi

この物件は、元々は空き家だった。それを株式会社オリエンタル・サンの代表取締役・山田武男さんと、H2DO一級建築士事務所代表の久保和樹さんの手によって、蘇らせたのだ。

オリエンタル・サンの代表取締役・山田武男さん

「空き家にはまだまだ可能性があります。古くて一見使い勝手が悪そうに見える建物も、リノベーションによって店鋪併用型や、事務所として再生できます。ニーズにマッチする形で提供できれば、もっと空き家を有効活用することができるでしょう」(山田さん)

築約50年のKICS Houseは、内装の状態も古く、賃貸することもなく放置されていた。これまで、いくつもの業者がリノベーションを試みては、断念してきた経緯があった。

山田さんがこの物件を知った頃、リノベーションを行うために物件を探されていたのが建築家の久保さんだ。

「この空き家にも、可能性がある」。

そう言えるのは、山田さんと久保さんの2人は、これまでともに空き家のリノベーションを手掛けてきた実績があるからだ。2人が共同するのは、KICS Houseで3軒目。

まずは久保さんの奥様がオーナーとなり、再生に向けて工事がスタートした。

目次

密な連携でスピード感を持って進行

不動産の現場では、進行スピードが早ければ早いほど、契約に直結すると山田さんは言う。今回は、オーナーであり建築家の久保さん夫妻、不動産屋の山田さんの連携が取れており、意思決定から着工まで全体の進行がスムーズだった。その結果、不動産サイトに掲載するタイミングが早まり、多くのクリエイターから内見の申し込みを受けた。

全体の流れは次の通り。

まず、山田さんと久保さんは、この空き家をリノベーションすることで、どのくらい採算が取れるか、どんな方に入居して欲しいかを想定。クリエイター向けのアトリエを想定した、店鋪兼住居としてのリノベーションが決定した。

本来であれば、久保さんが設計し、各種業者に発注するのがセオリーだ。しかし予算の都合上、一部のマストな工事のみ業者に依頼する分離発注とDIY施工にてコストダウンを図った。住宅街の中にあるため、道幅が狭くトラックが途中までしか入れない1Fの床工事は、生コンを猫車で運んだ。施工中から賃貸募集を始めたことで、スピード感を失わずに進行することができたという。

さらには、関口さんの契約が完了し、入居日が決定した後の作業も早かった。

一般的には、漏電や鍵の閉め忘れによるトラブルがあった際の責任の所在を明確にするため、契約書に記載のある契約日までは着工を行わない。しかし、いつでも作業を始められるけれど、書面でのお約束どおりの工期で進めた結果、入居日に間に合わない……というトラブルは、業界でよくある話だ。

KICS Houseでは、山田さんと連携をとりつつ、久保さんが施錠や消灯の確認を実施。入居前に自らペンキ塗りなどの作業をした関口さんとも、現場で連携を取りやすかったため、大きなトラブルなく作業が進んでいった。

余白を残しつつ、日当たりと風通しの良さを実現

「この物件なら、自分の思いどおりの空間をつくっていける。自分の中のイメージを形にできると思ったら、ワクワクが止まりませんでした」(関口さん)

クリエイター向け物件を探されていた陶芸家の関口さんは、昨年末、物件を探すにあたり50件以上もの内見を申し込んだという。

その1件目が、KICS Houseだった。まだ資材が積み上がった状態にも関わらず、即決したそうだ。

耐力壁を残して壁を抜いたことで、日が差込み、風がよく通る。さらに山田さんが「木造スケルトン」と呼ぶボードの仕上げなど、住まい手が棚の配置などを自由に決められるようになっていた。この自由度こそが、イメージを反映できる「余白」。空間への愛着、ひいては定着率をグッと高めるポイントだった。

構造部分を残して壁を抜いていく

「いらんコトせんでほしい」が本音

「アトリエや教室として使う空間は、あくまで芸術品がメイン。なので、壁紙や棚などが備えつけてある場合、ごちゃついていると芸術品の意匠と意匠がぶつかり合ってしまう気がして。その点、KICS Houseはいい意味で何もなかった。自分の思い通りにつくっていけたので、とても愛着が湧いています」(関口さん)

1Fは陶芸教室のスペースとして活用

Photo by Ryota Atarashi

20代後半は、投資や住居用に不動産購入を検討しはじめる世代。彼らに支持されるのは、立地のブランドよりも、日当たりと風通しの良さ、そして何より内装をDIYして楽しめる余白のようだ。

しかし、世の中の賃貸物件は、作り手の都合が多く反映されており、ほとんど余白がない。

住まい手のために、時間とコストをかけて、クロスを貼り替え、棚を取り付ける。しかしその工程が余白を奪い、誰の心にも刺さらない物件をつくりあげてしまっているかもしれない。

「なんとなく取りつけられた棚よりも、想定した場所に自分で取りつけていくほうが断然使い勝手がいい。正直、いらんコトせんでほしい」、「取り付けるなら、1円でも価格をさげてくれたほうが嬉しい」と関口さんが語ってくれた本音は、これからのリノベーションにおける重要な価値観を表していると感じた。

関口さんが取り付けた棚。創作用の毛糸がずらり

Photo by Ryota Atarashi

住まい手の世代交代に合わせて、価値観をアップデートしよう

住宅・建築雑誌がこぞってリノベーションを特集する動きがはじまって、早20年。リノベーションは当たり前、自分自身で空間をつくる楽しみを覚えた世代が、物件を借り、購入する時代に突入してきた。

そもそも昔から日本の家屋は、スクラップアンドビルドのスタンスで量産されてきた過去がある。しかし今後、経済が縮小していく中で、同じようにつくり続けていくのは難しい。だからこそ、空き家をリノベーションした有効活用が求められる。

作り手は「住まい手のためにリノベーションを」と考えてしまいがちだ。しかし、そこから価値観をアップデートさせて、「住まい手と一緒にリノベーションしていく」ことが、これからの時代に必要だと強く感じた。

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