<中編>リモートワークが変える「働き方」と「住み方」

(2019年11月28日号)

前編では、施行開始した働き方改革関連法と、その有力なツールとして注目を集める「リモートワーク」(※本コラムではテレワークとほぼ同義とする)について、総務省の公開資料を基にメリットを考察した。そして実際のリモートワーカーにインタビューを試み、生の声をご紹介した。

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本編では、さらにお二人の方にインタビューし、ご紹介する。

目次

インタビュー②


株式会社リクルート住まいカンパニー 編集部 カウンター集客Gマネージャー 小野木美保さん(30代)
家族構成:夫、子供ふたり(5才女の子、3才男の子)

2017年3月に第二子の育休後復職してからリモートワークの利用を始めました。といっても、終日固定のリモートワークではなく、フレキシブルに取り入れています。私の場合は、基本毎日出社していますが、17時半には子供のお迎えのために退社しなくてはならず、会社で終わらなかった業務は帰宅後自宅でのリモートワークで補っています。

リモートワークの制度が整ってなかった頃は、家では会社と同じ環境で仕事ができませんでした。外部からは共通ドライブにアクセスできなかったからです。今は、会社にいても家にいても、ほぼ同じ状況で仕事ができるので、業務が滞らず、とても効率がいいと感じています。

弊社は2015年から準備を始め、2016年にリモートワークを制度化しました。しっかりした運用ルールと、セキュリティ対策を含めたインフラを整えました。さらに、運用する中で見えてきた課題を柔軟に解決してきた結果、現在があります。特に編集部の仕事は、形なきものを作っていく、正解がないものをすり合わせながら作っていくので、細かいニュアンスの部分は対面コミュニケーションじゃないと難しいこともあります。実際にリモートワークを利用してみて、場合によっては組織の生産性をあげることが難しくなることもあると感じました。

弊社ではほぼ全員がリモートワークの対象者となっており、社外で業務をした方が効率的である場合は、申請の上、リモートワークを利用することが可能です。たとえば、アポとアポの合間の時間に、サテライトオフィスやカフェなどで、必要な業務を行うことができます。

そのほか、私の所属する編集部はワーキングマザーが多いので、私のように子供のお迎えや保護者会への参加などの際にリモートワーク申請を出すメンバーが多いですね。ルールが明確化されているので、申請と承認の場面で摩擦が起きるというようなことはないです。

リモートワークがなければフルタイムは選択してなかったと語る小野木さん。

私はマネージャーなので、自分一人で作業を進める業務より、メンバーとコミュニケーションをとる業務が多いのですが、メンバーの業務の中には私の承認を踏まないと進まないものもあります。

そのため、私が会社にいない状況でもリモートワークで対応できるということは、チームとしての生産性を高めることにもつながっていると感じます。

社内メンバーとのコミュニケーションには、マイクロソフト「Teams」を使っています。緊急の際は電話もきますが、基本はこまごまチャットしているので、情報共有は充分できており、業務が滞ることはないですね。

今のところ、リモートワークには前述のようにメリットをたくさん感じていますが、デメリットというか、向かない作業をあえて探すなら、発散・ブレスト・収束を、数人集まってホワイトボードや模造紙にアウトプットしながら形にしていく作業は、リモートではまだ難しいのでは?と思うので、そういった業務は対面がよいと思います。また、ローキャリアはリモートワークは向いてないかな、と思います。「これはどうしたらいいんだろう?」という、メールするほどでもないちょっとした質問など、横に誰かが居ればすぐ聞けるけど、それができずにモヤモヤしてしまったりして、それで作業が遅れていってしまうのは生産性が低いと思うからです。

プライベートの友人達(保育園のママ友とか)にはリモートワークを羨ましがられています。彼女達は、子供の行事の時は会社を休まないといけなかったり、行事参加の前後で残業して(保育園も延長して)業務をこなすとか、大変なんです。私が「保護者会の前に、ちょっとそこのカフェで仕事して来た」と言うと、「会社と同じ環境でできるの?働き方が進んでるね!」と口々に言い、興味津々の様子です。

私にとって、リモートワークという制度がなければフルタイムは選択していなかったと思うし、マネージャーの打診があっても受けていなかったと思いますね。それほど、リモートワーク制度の恩恵は大きいです。そして、リモートワークがなければ、社内にフルタイムのワーキングマザーは増えていないと思います。

                    インタビュー日:2019年10月11日

インタビュー③

ITオペレーター キョウコさん(30代)
つくば市在住 家族構成:夫と二人暮らし 

都心から1時間半くらいの場所に構えた新居への引っ越しを機に、それまでの仕事を辞め、新たな職を探し始めました。都内へ通勤となると体力的にも厳しく、往復3時間以上の通勤時間がもったいないと感じました。かと言って、地元で探すにも地方では職種が限られており、なかなか希望する仕事が見つかりませんでした。

そんな折、「都心に通うには遠い」「希望する仕事が地元にはない」という、ふたつの課題を解決できるのが“リモートワーク”ではないかと考え、それからはリモートワーク社員を募集する企業に的を絞って就職活動をしました。そして、今年8月、運よく現在の会社に完全リモートワークの正社員として採用してもらうことができたのです。

私の職務は仮想デスクトップ(リモートデスクトップ)での作業に限られており、有線LANでのインターネット接続が必要なため、自宅に固定するよう会社から求められています。さらに、会社の機密事項も扱うので公共の場での作業は禁止されています。

リモートワークを始めて3カ月が経ちますが、とても快適です。私の場合、文書や資料の作成など集中して進める作業が多く、リモートワークは最適と感じます。近くの席の会話が気になったり、作業中に声をかけられたりなど、オフィスに出社していた時に感じていた“周囲の雑音”によるストレスは軽減したと思います。

新築した家の中2階部分にワークスペースを設けています。プライベート空間と繋がっているものの、程よくセパレートできているところが気に入っています。

ワークライフバランスは非常に取れていると感じます。朝、始業時間にパソコンの電源を入れ、12時になったらぴったり1時間の休憩。昼食はコンビニや食堂へ急ぐことなく、前の晩のおかずの残りを食べられるので節約にもなります。終業時間もぴったり決まっており、パソコンの電源を切るだけ。帰りの電車やバスの時間を気にすることなく、そのままプライベート時間に入ることができます。都内に通勤する場合の往復3時間分を家事や趣味、勉強などに費やすことができ、とても有意義です。

社内とのコミュニケーションには、G Suite(メール、カレンダー、ドライブ、ハングアウト)のほか、テレビ会議ツール「Zoom」を1日中チームメンバーと接続していますので、常に隣に誰かがいる感覚です。ちょっとした世間話をすることもできるし、業務に関する質疑応答に困ることもありません。ほかにもチャットツール「Slack」やgoogleハングアウトで、リアルタイムのコミュニケーションを図れますので、情報共有は充分にできていると感じています。

例えば、Googleドライブ上の資料(スプレッドやスライドなど)は、同時編集ができ、相手が今どこを作業しているのか即時確認できますし、「Zoom」と併用すれば不明点などもすぐに解決します。さらに「Zoom」には画面共有機能があるので、複数人での会議の際、発言者の資料は画面で確認することができます。

私はこのようにリモートワークのメリットをたくさん感じていますが、向き不向きは人によってあるように思います。主にインターネットを利用して様々なツールを使いこなす必要がありますので、ある程度のITリテラシーがある人、さらに「変わること」「新しいこと」に抵抗がない人が前提になると思います。さらに、テレビ会議で繋がっていようとも、現場には「自分ひとり」しかいませんので、それを孤独と感じない人、受動的ではなく能動的に仕事を進められる人に向いていると思います。また、ある程度社会経験を積んでいる人の方が、社会通念を理解しながら状況に応じた動きができると思います。

                     インタビュー日:2019年10月12日

インタビューに答えてくださった方々は、それぞれにリモートワークのメリットを享受していた。そして同時にリモートワークを実施するには、雇用する企業がしっかりとルールを作り、システムとセキュリティを構築し、コミュニケーションと管理のためのツールを導入していることもわかった。

リモートワーカーと職場をつなぐICT(情報通信技術)のいろいろ

インタビューの中にもいくつか登場していたシステムとコミュニケーションツール。「日本テレワーク協会」では、リモートワーク(テレワーク)環境を構築するためのツールを以下の3つの区分ごとに紹介している。

テレワーカーの職場とのコミュニケーションについては、テレワーカーのコミュニケーション不足を防ぐために、テレワークと併せてビジネスICTツールや制度の導入を行っている企業が87.5%ある(図表4-4-3-10)。導入しているという回答の割合が最も高かったのは「ビデオ会議システムの導入」(49.0%)で、その後に「チャットの導入」(39.6%)が続いた。企業側として、まずは、音声や顔の見えるコミュニケーションツールを導入していることがわかる。

ビジネスICTツール以外の対応としては、「自社によるサテライトオフィスの整備」が24.0%あり、テレワークと組み合わせることでの効果を期待していることが分かる。

テレワークの際の社内コミュニケーションについては、現実の職場でも重要となる同僚や上司との情報共有を、できる限り同程度に行えるような環境整備が重要である。

図表4-4-3-10 テレワーカーのコミュニケーション確保のための対策(複数回答、企業)

職場からの孤立感を和らげるツールとしては、チャットやTV会議などの「コミュニケーションツール」以外にも、たとえば「在籍管理(プレゼンス管理)ツール」のひとつ「Sococo Virtual Office」等がある。

このツールは、クラウド上の仮想オフィス内に人を配置し、誰が在籍しているのか、誰が会議中なのか等を、仮想オフィス内のアバターを見ればひと目でわかるようにしたソフトウェア。独りで仕事しながらも、同僚がすぐ傍らに居る気配を感じることができると好評のようだ。話しかけて良い状態なのか、作業に集中したい状況なのか等もわかりやすく表示される。Web会議機能やテキストチャット機能等も備え、コミュニケーションを円滑に行うことを支援する。

通信内容は業界標準のAES128ビット技術で暗号化される。

次回は、リモートワークの今後と、「住み方」への影響について考察したい。

Hello News編集部

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