「2040年までに、1,741ある市区町村のうち896市区町村に消滅の可能性がある」
2014年5月、民間研究機関「日本創成会議」はこのように発表した。同機関はこれらの自治体を“消滅可能性都市”と呼び、対象となる条件には「2040年までに20歳~39歳の女性の数が2010年と比べて半減する」と推測される自治体を挙げている。
都道府県別でみると、消滅可能性都市に選ばれた都市の割合が96%で最も高かったのは秋田県だった。25市町村のうち、大潟村を除いた24の市町村に消滅の恐れがあると予測されている。また、2010年と比べてこの30年間で人口が約36%減って3分の2以下になるとみられ、さらに43.8%が65歳以上になるという。
「日本創成会議」からこのような発表を受け、個人ブログやSNSを中心に「日本から秋田県が消滅してしまうかもしれない」という話題が瞬く間に広がった。実際にデータで見てみると、その可能性はあながち誇張されていたものではないということが見て取れる。
こうした現状に対し、秋田県あきた未来戦略課の髙橋央さんは「東京一極集中が進む中、人口減少のトップランナーと言われる本県において、人口減少対策は最重要課題です。しかし、昭和31年の135万人をピークにして、人口減少に歯止めがかかっていないのも事実です」と語った。
このような問題に対し、秋田県としてはどのように考えているのだろうか。髙橋さんは次のように話す。
「未婚化や晩婚化の傾向に伴い、今後も大幅な人口増加は見込めず、“経済的・社会的に豊かな暮らし”を実現するには人口減少問題と向き合うことが何より大切です。そこで私たちは、秋田で結婚し、秋田で家庭を持ち、秋田で子どもを育てる、といった流れを定着させ、活力ある地域づくりを目指していきたいと考えました。まずは高校生の就職希望者の県内企業への就職率の向上、県外大学等へ進学した出身学生の県内就職、県外就職した若年層のふるさと回帰などの取り組みを推進していきたいです」
また、具体的な対策を県民に示すため、秋田県は2015年10月に「あきた未来総合戦略」を打ち立て、人口問題対策プロジェクトチームを組んだ。今回は、以下の3つを取り上げる。
①東京圏等への人口流出に歯止めをかける
②東京圏等から秋田への人の流れをつくる
③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
令和元年度の予算として約93億円をかけ、人口減少問題の解決に取り組む本プロジェクトでは、実際どのようなことが行われているのか、①~③について詳しく紹介していく。
①東京圏等への人口流出に歯止めをかける
人口が流出する大きな要因のひとつに、「雇用機会の不足」が挙げられる。総務省によると「若者にとって魅力的な就業機会が地方に不足していることが、地方から東京圏への若者の流出を招いていると考えられる」とのことだ。
そこで秋田県では、今後の成長が見込まれる産業への設備投資の支援や育成を行い、産業拠点の形成を進めて地元の人材雇用を促進している。実際に、この3年間で県外から誘致した企業の数は28社あり、中京圏や首都圏等からの輸送機産業、ICT(情報通信技術)関連企業が秋田に集まりだしている。
秋田の未来を担う若者に対しては、県が主体となって起業塾などを開催し、地元で起業家を目指す人材養成を行い、地域社会に貢献するという理念の育成を図っている。他にも、高校生が秋田県内での就職を希望するよう早期求人や職場見学会の実施を企業に促し、若者の職場定着に意欲的な企業を支援している。
「若者が県内で働く魅力ある仕事づくりをしたいと思っています。航空機や自動車産業、新エネルギー産業の振興など、自然災害が比較的少ない気象条件や地勢を生かして成長分野の競争力強化に努めています」(髙橋さん)
②東京圏等から秋田への人の流れをつくる
一般社団法人移住・交流推進機構「『若者の移住』調査」によると、東京から移住する予定、または移住を検討したいと思っている人は、20代~30代の既婚男女500人のうちの約4割に及んだ。そう思った理由として「自然にあふれた魅力的な環境」や「子育てに適した自然環境」などが挙げられた。
秋田県ではこうした移住希望者に対し、秋田ならではの魅力をアピールすることに力を入れている。その第一歩として、秋田県移住・定住総合ポータルサイト「“秋田暮らし”初めの一歩」を立ち上げた。ここでは、秋田の住宅情報や求人情報、移住者の声などを掲載している。
また、2019年度は、東京や名古屋、仙台、秋田で県外在住者を対象とした就職相談会や移住相談を行う「Aターン・フェア」を8回実施。他にも秋田との継続的な関係づくりを促進し、移住情報の拡散を図るため、秋田を応援する団体や秋田への関心が高い層へ向けた交流会「秋田ファンミーティング」を東京で2回開催するなど、様々な移住窓口を設けている。
こうしたイベントでは、移住希望者に対し犯罪率の低さや自然の多さも合わせてPRすることで、子育て世帯の移住も呼び込む狙いがある。2019年の目標は、移住相談件数を2014年の53件から10倍以上の680件。興味を持ってくれた人には咄嗟のニーズにも応えられるよう、県内の市町村や関係機関と連携も進めている。
移住後は、各市町村に移住相談員を置き、地域のコミュニティとより良い関係を構築できるよう生活のサポートを行うことで、定住してもらえるような取り組みを行っている。
③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
若者の未婚、晩婚化により、全国で少子化の波が広がっている。そこで秋田県では、まず学生たちに学ぶ機会を与えようと、高校家庭科副読本「考えようライフプランと地域の未来」を発行。結婚から妊娠、出産、子育てまでを高校の授業として行うことで、早いうちから将来のライフプランについて考える機会を持ってもらうことを目的としている。
次に子育てについては、2019年10月から国の幼児教育・保育の無償化がスタートしたことにより、秋田県では認可外保育施設等においても国の上限を超える部分に一定の嵩上げ補助を行ったり、第一子から副食費の補助をしたりするなど、全国でもトップクラスの支援を行っている。
また、支援団体「あきた結婚支援センター」による会員登録制のマッチング事業の充実を図り、結婚機会の創出も行う。ニーズに応じた出会いの場を提供できるよう出会いをコーディネートしている。
出産については、高額になりがちな不妊治療費は、国の制度以上の助成を行うという。また、子育て世帯が行う住宅や空き家のリフォームに対する支援を実施し、安心して暮らせる住居を提供している。
“消滅可能性都市”が抱える不安
今回は秋田県の例を挙げたが、このような人口減少への対策については、秋田県だけではなく多くの地方都市で行われている。ところが、「行政だけでは人口減少問題の克服は困難です」と髙橋さんが言うように、すぐに成果を得られる施策は少ない。このような施策が成功か失敗か、その結果が出るのはまだ先の話だろう。実際、秋田県では5年計画として、こうしたプランを打ち立てている。
人口が減ればサービス産業の撤退が始まる。すると、利便性を求めてさらに人口が流出し、一気に過疎化が進んでしまう。家が捨てられ空き家となって犯罪が増え、働き手が不足し交通インフラが衰え、税収が減り行政サービス水準の低下が起きる…。こうなると自治体が機能しなくなり、都市自体が消滅しかねない。
冒頭に話した“消滅可能性都市”は、こうした可能性を含んでいる。髙橋さんは「まずは人口減少という問題に対して、民間企業・団体、県民の3者が危機感を共有する必要があります」と言う。すでにひとつの機関だけでは対応できなくなっているほど、問題解決の糸口は複雑化してしまっている。このままでは、いつか本当に“消滅”してしまう街が出てしまうのではないだろうか。日本から都市が消える日が来ないためには、すべてを行政任せにはせず、そこに住む人や企業が自ら解決に向けて動くことが重要なことなのかもしれない。
Hello News編集部 鈴木規文
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