<後半>「新型コロナ問題で身の回りで起きていることを話し合おう」座談会を開催

「最近、身の回りで起きていることを話してみようよ。点と点の情報が、線になってつながって、そのうち面みたいに広がって行くかもしれないよ」

そんな会話をしてハローニュースのメンバーが集まった。3月30日、「志村けんさん死去」の速報を受け取った朝のことだった。(後半)

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「話し合っていてほしいことがあるんです」

三枝 実は先週、呼吸器内科に通院する父(昨年10月に頸動脈狭窄症で手術)を、いつも通り病院に連れて行った時、お医者さんから言われた言葉を聞いて言葉を失ったんです。

小野 なんて言われたの?

三枝 「親子でよく話し合っていてほしいことがあるんです」と。ひとつは、「人工呼吸器になった場合、延命措置はするのか?」、「万一の場合、心臓マッサージはするのか?」。父は今はとても元気で、何か重篤な症状があるわけではありません。なのに、万が一のことを突きつけられてしまい、改めて医療の現場が大変な状況にあるんだということを見せつけられた気持ちでした。

黒後 つまりそれは、コロナ患者が溢れかえって病院の受け入れ態勢が今の状態を維持できたくなった時のことを想定しているということ?

三枝 「わたしもおそらく最前線に駆り出せられると思うので…」ってしみじみ言った先生の顔が忘れられない。国内では人工呼吸器も足りていないと言うし。医者自体が約31万人くらいで、決して多くない。それに加えてお医者さんの全員が全員、人工呼吸器を使えるわけではないと言ってた。

吉松 そうなってくると、今こそアドバンスケアプランニング、通称「人生会議」について考える時なんでしょうね。一昨年、厚労省のポスター回収で味噌つけてしまったけど。

鈴木 お笑い芸人の小籔千豊さんが載ったポスターですよね。死期が迫った時、家族や大切な人たちに「大事なことを何も伝えていなかった」と後悔するから、早めに「人生会議」をしておこうという啓発ポスターでした。けれど、がんを経験した人や医療関係者、患者さん達の団体から「恐怖をあおっている」とのモーレツな批判を受けて、ポスターが全て回収になった炎上騒動。2019年の11月ごろのことだったかと思います。

黒後 確か製作代に投じた4000万円以上の税金が無駄になったと批判を受けていましたね。

三枝 だけど、「人生会議」自体はとても大切な考え方だということはわかる。確か起用された小籔さんも過去にお母さんを癌で看取っていて、その時にいろんな辛い経験をしたと聞いたことがあります。

吉松 まさしく、あの発想自体はすごく大事なことなんだと思う。ただなんとなく縁起が悪い感じがして、自分や家族の死を考えない傾向があるけれど、こういう非常事態になると、いつ誰がどこでどうなるかも分からない。まさに志村けんさんがそうだけど…。

今こそ「人生会議」を

三枝 女優の樹木希林さんも晩年「死」について語ることが多かったって。そういった姿勢は当時テレビや雑誌でもしきりに特集されていて、「死」をもっと身近に考えていこうと言っていたように思います。

以前、高齢者住宅新聞の小川真二郎記者にインタビューした時、こんなことを言われていた。

「アドバンス・ケア・プランニングは、あらかじめどうしたいかを話し合うケアで、世界ではこれが一般的になってきています。今までは“長生き、長生き”言い過ぎました。けれどこれからは、胃ろうや人工呼吸器などに頼って命を延ばすことより、どう生きたいかを考える医療に変えようとしている。カタカナだとなかなか認知されないから、わかりやすい“人生会議”という通称にしたんだけど、浸透にはまだまだ時間かかるかな」

吉松 もう一つ、小川記者が言うには、日本の制度は、ほぼ家族を前提に作られているそう。手術の同意や入院の保証とか。だけど、2030年には、70歳以上で未婚という人がおよそ140万人になるらしく、「身寄りがない」患者が普通に運ばれてくる可能性もあると言ってた。

小野 どう生きたいかを自分で決めていくことも大事ということですね。

黒後 高齢者住宅に関わる分野では今どんなことが起きているのでしょうか。

吉松 横浜市で地域密着の通所介護事業を行うコンシェルジュ24の中谷公三郎社長に話を聞きました。「fureai」という名称のディサービスを21店舗運営していて、3月前半は、コロナの影響で利用者がぐっと減って、売り上げも2割ほど落ち込んだみたい。だけど3月下旬以降は逆に増えているって。

山口 なぜでしょう?

吉松 家族の意向が強いみたい。つまり、家にいることで体力や身体機能が減退し、介護度が上がってしまうという心配がここに来て急速に表面化してきたみたいなの。「先週まで歩けていた父の足腰が、急にたたなくなった」みたいな家族から電話が相次いだって。感染を恐れて家にいることが、結果として家族が望まない状態を招いてしまっているのです。

黒後 確かにうちの父も、毎日散歩していた代々木公園の散歩コースが閉鎖になったことですっかり塞ぎ込んでしまって…。体力がかなり落ちたようなことを言っていました。

「フレイル」を食い止めよ

吉松 中谷社長によると、そういう状態を「フレイル」と言うらしいよ。一般的に、加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下したところに慢性疾患などの影響もあって、生活機能が障害された状態を言うそう。けれども適切な介入や支援によって、生活機能を維持したり向上させたりできることもできるって。多くは、フレイルを経て要介護状態へ進むことから、フレイルの食い止めは国としても最重要課題らしい。

三枝 うちの両親も自粛で外出せず、テレビばかり見てるから心配…。この際、思い切って猫でも買おうかと思ってるくらい。

小野 「猫共生型賃貸住宅」のニーズが高まるかもね。でもこれで寝たきりになるような人が増えたら、それこそ医療だけでなく、介護の現場も大変なことになってしまいます。ただでさえ介護保険料はひっ迫しているのに。

三枝 寝たきりになると、認知症になるスピードが早まるとも言われていますよね。賃貸マンションなど不動産資産を持っている高齢者の場合、早めに家族信託や遺言などの手を打っておかないと、認知症になってからではできる範囲が狭まります。いわゆる「争族」問題に発展する可能性が高まります。

山口 三枝さんは、さすが「相続支援コンサルタント」の有資格者だけに、目の付け所が違いますね。

吉松 相続対策については、三枝が取得したような「相続支援コンサルタント」という資格があって、第三者の相続のプロが家族の問題を解決していくでしょう。それと同じで、高齢者・介護業界でも例えば、「人生会議プロデューサー」や、「就活プランナー」などの資格ができてもいいよね。逆に言うと、そういう人がいないと家族だけでは話を前に進められない気がする。

鈴木 ただ小川記者はインタビューで、「新たな資格を作るというよりは、医者、介護職の誰かがチームのリーダーになり、その後のケアプランを決めていく形が一番スムーズ」と言っていましたね。

原点回帰の時なのか

黒後 ドイツの致死率が際立っていると3月29日付の日経新聞が報じていました。イタリアが10%、スペインが7%なのに比べ、ドイツは0.7%。これは、元々「ホームドクター制度」というのがあって、家族やエリアの主治医みたいな人がいて、その人が患者の状況を診た上で、「軽症」「中症」「重症」「重篤」などに振り分けて適切に処置しているからだって。

小野 そういうのがない日本では、何かあると診療所にワッと人が押し寄せ、パニックになったり、そこから感染が広がったりとしてしまうんでしょうね。

黒後 父がわかりやすく、「ホームドクター制度」は、「日本の檀家制度みたいなもの」と説明していて、ストンと腹に落ちました。日本もせっかく似たような制度があるわけだから、応用すればいいのにね。

吉松 確かフランスでは、女性はある一定の年齢になった婦人科のかかりつけ医を持つことが義務付けられていて、何かあってからではなく、何もない時から婦人科に通うのが当たり前になっていると聞いたことがあります。日本で「婦人科に行く」なんていったらそれこそ大ごと。だけど普段から相談相手がいることが、合計特殊出生率1.92(2016年)という高い数値を陰で支えているみたい。

小野 婦人科の話が出たからついでだけど、日本生殖医学会が、感染を懸念して「不妊治療の延期」を呼びかけているというのも聞きました。これから医療崩壊なんてことになったら今年出産を控えている妊婦さん達は本当に大変ですよね。

山口 周りにそういう人がいますけど、冗談じゃなく、産婆さんを呼んで自宅で出産するかもなんて話していました。

吉松 手作りマスクに、布おむつ、自給自足の野菜作りに、そして自宅出産か…。なんか偉くなり過ぎた人間様に「原点回帰」しろと言っているような感じですね。ルソーの「自然に還れ(※)」が頭をよぎりました。
※フランスの哲学者・ルソーの「社会の因襲による悪影響から脱し、人間本来の自然の状態に還れ」という呼び掛け。

Hello News編集部

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