2020年4月、日本国内では120年ぶりに民法改正が行われ、敷金のルールの明文化や賃料減額請求の見直しなど、賃貸業界において大きな改革が行われたのは多くの人が知るところ。
ところ変わってイギリスでは、2023年5月17日、議会に「賃貸人(改革)法案」が提出された。「より安全で、より公平で、より高品質の賃貸住宅を提供することを目的とし、賃借人にとってより良い契約をもたらすものになる」と、政府は期待を寄せている。
法案提出の背景には、イギリスにおける賃貸市場の成長が挙げられる。
2023年5月、民間に貸し出されている賃貸物件の戸数はおよそ400万戸(440万世帯)で、2004年と比べて約2倍に増えるなど、2016年以降、安定的に供給し続けている。
日本からイギリスに移住して2年目の女性に、現在のイギリスの賃貸住宅について話を聞いた。
「ロンドンに引っ越してきてから1年で3万5000円も家賃が値上がりしました。今の家賃は80㎡、(ベッドルーム1/ Workroom 1/バスルーム2/ダイニングルーム1/リビングルーム1/キッチン1 balcony1)月々42万円です。それはとても辛いですが、共有スペースに緑がいっぱいあったり、祝日に敷地内でイベントしていたり、コーヒーやお菓子を無料で配っていたりと、日本よりも入居者サービスが豊富だと感じています。また、定期的にマンション全体と窓の清掃をやってくれることにも満足しています」
こうした声もある通り、イギリス政府はこの成長分野にさらなる発展を期待しているが、一方で賃借人を不安にさせている現在の法律に危惧している。それは、住宅法第21条「無過失」立ち退きの存在だ。
第21条とは、賃借人に過失がなかったとしても、家主の一存で入居者を部屋から追い出すことができる制度で、もし行使された場合、その家の住民は急な引っ越しを余儀なくされる。仕事や学校を辞めざるを得ないという事態に直面することにもなるだろう。それでは安心して賃貸住宅に住み続けることはできない。
そこで、第21条「無過失」立ち退きを廃止するために、政府は賃貸人(改革)法案の改正を進めている。
また、同法案では、家主に明確な理由がない限り、賃貸住宅においてペットの飼育を禁止することができなくなることも定められる。
現状440万世帯ある賃貸住宅の中で、ペットを飼育できる物件は、全体の7%に過ぎない。つまり、ペットを飼いたい、またはペットを飼っていた場合、ペット可の賃貸住宅に住むことは競争倍率が高く、非常に困難となっていたが、今後はそうしたニーズにも対応できる賃貸住宅が増えていくことだろう。
他にも、住宅の品質についても改正が行われる。
イギリス政府によると、現在、賃貸住宅の4分の1近くが「基本的な良識の基準を満たしていない」という。
その理由は、イギリス特有の湿気の多さと寒さだ。さらに、新築住宅は取引数全体の1割にも満たないため、既存住宅の多くは木造やレンガ造りの湿気・寒さ対策がとられていない築古物件であることも関係している。
そこで、この問題を解決するために、新たに住宅の建築基準を定め、賃借人に対して、不動産会社はより安全で快適な住宅を提供する義務があると促していく。
新たに定められる住宅の建築基準は次の通りだ。
現在は基準の内容を精査している段階にある。
全体的に家の状態がよく、賃借人が快適に住むために修理の必要がない。
十分な遮音性と、広さがあるキッチン、設置後30年以内のバスルーム、また、パブリックなエントランスエリアのスペースの確保。
2部屋以上を同時に暖めることができるエアコンなどの暖房システムの設置。
大家にとっては負担が重そうにも見える賃貸人(改革)法案の成立によって、イギリスの賃貸市場がどのように変わっていくか、その動向に注目したい。
Hello News編集部 鈴木 規文
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