[この人に会いたい]賃貸オーナー澤藤勝衛さん(岩手県紫波郡):仲間を大切に、地域で愛される物件をつくる!<取材・執筆 池口直子>

取材・執筆

株式会社地球王国 代表取締役
池口 直子 / いけぐち なおこ

「故郷に、みんながワクワクする賃貸住宅を増やしていきたいです!」
歯に衣着せず、楽しそうに語る賃貸オーナーの澤藤勝衛さん。テンポのよいお話しに引き込まれる。
東京で仕事をしていた澤藤さんが岩手に帰郷したのは25歳の時。紆余曲折を経てお父様が所有していた賃貸物件の経営に携わることに。しかし、いざフタを開けてみると管理も財務も問題が山積みだった!覚悟を決め、一つ一つの業務に丁寧に向き合い、解決に向けて爆進。承継2年目には土地を購入して新築物件を建てる。以後、岩手に賃貸の新しい風を起こしていく。
経験ゼロの澤藤さんが、どう現実に向き合ったのか?
そして見つけた「住む人と地域に愛される賃貸住宅」のつくり方とは?
体当たりエピソードとともにお届けする。

賃貸オーナーの澤藤勝衛さん
新築アパートの見学会に併せて餅まきを実施。地域の皆さんから沢山の「おめでとう」をもらった!(2021年築、盛岡市)

目次

決算書をかかえて銀行まわり

澤藤さんは大学卒業後、東京のアパレルメーカーに就職するが、ほどなくして退職し帰郷。「独立して故郷で起業したい」との思いからだった。しかし、神は微笑まず、お父様が所有していたアパートの経営に携わる。
 
お父様がアパート経営を始めたのは、祖父から相続した土地の有効活用が目的で、副業的なものでもあり、あまり熱心でなかった。
当時、保有物件はアパート4棟と貸家4戸。管理は不動産会社にお任せで、家賃滞納があっても気にもとめず、家賃収入や返済金、修繕費などお金の出入りを通帳で確認する程度だった。
 
どこから手をつけてよいかわからないまま、手探りで調べてみると稼働率は7割。家賃収入はあるが、月の返済比率も高く、純利益は毎月わずか10数万円程度。
家賃管理、修繕費等のコスト管理の甘さも大きな理由だった。
お父様は管理会社も設立していたが、全く活用していなかった。この管理会社を足がかりに事業の立て直しに着手。まずは財務の健全化を目指した。
「お金がまわっていない上、金利も高い。そこで、先ずは金利の低いところに借り換えるため、銀行との関係性を再構築する事から始めました。決算書3期分をかかえて新規の銀行を何行か回り、なんとか支出の圧縮に漕ぎ着けました!」

自分でできることは、なんでもトライ!

経費の削減にも徹底的に取り組んだ。 
事務処理から財政対策、税務署への申告、物件の管理・メンテナンス、雑務に至るまで、自分でできることはなんでも自分で行った。
水栓金具の取り替え、ウォシュレットの交換など簡単な事は業者に依頼せず自分で行った。業者に依頼した現場には必ず行き、仕事の仕方を学んだ。
管理も自主管理に切り替え、入居者さんと直接繋がった。盆暮れには入居者宛てに手紙を配布し、自分の携帯番号、アドレスを記載。要望があればいつでも連絡をとれるようにした。
 
こうして大小を問わず、賃貸経営に関わる全業務の把握に努め、問題点を洗い出し、体当たりで解決していった。
「この時の体験が、賃貸事業健全化のターニングポイントになりました」
何も分からなかった賃貸経営の実際が見え始め、腑に落ちていった。
経営の基本、大家の仕事、管理の大切さ、入居者にとっての物件の価値、賃貸事業に関わる人の役割など、様々なことを学び、その面白み、可能性に気づき、澤藤さんの賃貸事業は本格始動していった。
 
そもそも、大学卒業後、アパレル会社に就職したのはファッションを通じて人のライフスタイルに関わることが好きだったからだ。
思わぬ形で賃貸事業に携わることになったが、居住空間作りこそ、その最たるものだと仕事を思いっきり楽しんでいる。

やがて、敷地からゴミが消えていった

自分で管理したことでコスト削減だけでなく、良いことがいっぱい起きた。
共有部の掃除の際には入居者さんに積極的に挨拶し、自然に話を交わす間柄の入居者が増えた。その会話の中に管理の大きな肝があった。
そのコミュニケーションの効果は、ゴミが敷地から消えることにも繋がった。
不動産会社からも評価されるようになった。
「熱心な大家と認識してくれたのか、物件を積極的に紹介してもらえるようになり、入居率も上昇、生活に意識のある入居者さんが増えるなど、どんどん好循環が生まれていきました」
 
事業継承後2年目からはランドセットからの新築や中古物件の取得を積極的に展開、物件数を増やしていった。築古物件のリノベーションも多く手掛けている。
現在、アパート24棟、マンション1棟、貸家4棟、区分所有1戸、計185戸を運営。そのうち空室はわずか2戸(2023年7月) 。また、今秋にはアパート2棟、19世帯が完成する。
5年前まで全物件を自主管理していたが、今、管理は委託している。
「いずれ管理は委託したいと思っていました。自分は大家のプロですが、管理はセミプロ(笑)。物件数も増えてきましたし、新たな事業展開にも乗り出したので委託するようにしました。とは言え、全入居者さんに自分の携帯番号をお伝えしているのは変わりません」 

2020、21年に新築したアパートの内外装。盛岡市、北上市。

土地によって、集まってくる人は異なる

この10年以上、入居率が9割5分を切ったことはない。その秘訣は?
「農業に適地適作という言葉がありますが、賃貸物件も同じです。
土地によって集まってくる人は異なります。その点を見極めて物件づくりを行うことが大切だと思います」
具体的にはどういうことを行うのか?
「例えば新しい物件を建てる時、まずその土地を好みそうな人を想定し、その人たちにとって必要最適な設備や間取り、仕様、生活導線なども絞りこんでいく。すると具体的なアイデアがいろいろ湧いてきます」
その結果、必ずと言ってよいほどターゲットとして想定した人が入居してくれるという。
 
この人たちは入居後も愛着を持って部屋を使ってくれるので、退去後のリフォームは最低限で済むことが多い。
また地域の人とのコミュニケーションも普通にできる人が多く、地域と繋がった賃貸物件になることが多いという。
 
他にも、良いことが。
広い部屋に転居を考えていた入居者が、澤藤さんの別の広い物件に入居を決めてくれたり、後釜として友だちを紹介してくれることも珍しくない。
 
故郷で賃貸事業を行う者として、また「入居者に親しまれ、かつ地域で愛される物件づくり」を信条とする澤藤さんにとって、こんな嬉しいことはない。
「適地適作」は入居者と故郷を結ぶこの人の、Win-Winのビジネスモデルともいえる。

仲間とともに、仕事を楽しむ

築48年の木造戸建て(2017.2019年)、築30年の区分所有マンションをリノベーション(2021.2022年)。
それぞれスケルトンにして再構築。チーム澤藤の総力を結集!

令和元年には仲間と不動産会社(株)Asobo不動産を立ち上げた。
環境が大きく変化するなか、この会社をキーに大家・入居者・管理会社の健全な関係をつくり、賃貸事業の可能性を広げていきたいという。
関係者の健全な関係とは?その狙いとは?
「仲間と共に、ワクワクする賃貸住宅、自分達らしい居住空間を作っていきたいと思います。賃貸事業は大工、電気、水道、ガス、内装、清掃など多くの仲間に支えられています。
仲間一人一人が力を存分に発揮し表現できるチーム澤藤の存在は、事業の大きな力、根幹になっています。仲間と話をしているとアイデアが沢山湧いてきます。机上では、しっかり頭に汗をかいて知恵を出し合い、現場では、それぞれのプロが技を持ち寄り、共に現場を楽しみます。仕事と遊びの垣根がありません。その我々のワクワクはエンドユーザーにしっかり伝わり、結果もついてきます」
 
澤藤さんが思い描く「つくった自分たちも入居者も地域の人も、みんながワクワクする賃貸住宅」。
その夢がこれからどのように育っていくのか、ワクワクだ。

オーナープロフィール

澤藤 勝衛

さわふじ・かつえ / 1973年生まれ。日本大学経済学部卒業、東北大学大学院修士課程修了。(有)北衛 代表取締役。(株)Asobo不動産 代表取締役。
大学卒業後、アパレル会社に就職。26歳の時、父の賃貸事業を継承。これまで専業大家として物件管理、用地取得から地域のニーズにあわせた賃貸住宅の新築、築年数の古い賃貸住宅の再生なども多く手がける。現在、北上市を中心に矢巾町、盛岡市などにアパート24棟、貸家4棟、区分所有1戸(計185戸)を運営。令和元年、不動産会社を設立。大家・入居者・管理会社の健全な関係づくり、暮らしと事業のサポートを行う。故郷をこよなく愛する熱血の人。
(株)Asobo不動産

取材・執筆者プロフィール詳細

池口 直子

兵庫県生まれ。田園のなかで育つ。関西大学文学部卒業。現在、(株)地球王国代表取締役。
雑誌・単行本・Webの企画編集・制作、ライティング、ブログなどを手掛ける。食、不動産(賃貸・購入・住宅)、日本のモノづくりを主に取材執筆多数。また中医学を学び、国際中医師、国際薬膳師、薬膳茶師の資格を取得、予防の薬膳茶を研究中。趣味は金継ぎ、おいしいもの、食物・植物の機能成分の探索。食生活ジャーナリストの会会員、フードアナリスト。
著書に天才画家のドキュメント『色彩は魂のクリスタル』(彩流社)、伝統工芸作家・職人のルポ『房総匠評判』(宝島社)など。


 

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