<後編>地方都市で簡易宿所をスタートして1年の男性が少しずつわかってきたホストの役割

「地方都市で簡易宿泊所をスタートして1年の男性が少しずつわかってきたホストの役割」(後編)では、Mさんが考える今後の展望について紹介する。

前編はこちら

目次

九州に600棟の民泊作りたい

Mさんは、九州に600カ所、簡易宿泊所を作りたいと考えている。

この1年間、熊本市内で民泊経営をしてきてわかってきたことのひとつに、外国人旅行者から見た時の九州の捉え方がある。

「私たちは、福岡とか熊本とか鹿児島とか県単位で分けて考えますが、外国人から見たら、九州は一つの大きな島なのです。日本人がオアフ島とかオーストラリアに行く時の感覚と似ているかもしれません。“九州アイランド”という一つの大きな島の中には、熊本城もあれば、阿蘇、高千穂といった大自然、別府や湯布院、指宿の温泉地、長崎のハウステンボスや天草のイルカウォッチングといったエンタメに、長崎の出島など歴史的な名所もあります。鳥栖にはアウトレットモールもあるし、福岡に行けば博多ラーメンが食べられる。すべての県に2泊くらいずつして、10日~2週間くらいかけて、九州をぐるっと回る、そういう旅の仕方をしている人が多いです」

そういった外国人旅行者たちの姿を見ながら感じたことは、「安い宿が必要だ」ということだったという。

「体験や食事にお金を使いたい」、一方で「宿泊に関する費用はできるだけ抑えたい」、そういったニーズがあるのを旅行者たちとの会話から感じ取るようになった。

それは飛行機に大手航空会社とLCCがあるのと似ている。民泊は、宿泊のLCCのようなものだ。

LCCが広がったことによって気軽に旅を楽しむ人が増えた。大手航空会社に乗る人と、LCCを利用する層は明確に分かれ、当初懸念された客の取り合いは起きなかった。そればかりか旅行者の総数が増えことで、旅行業界全体の盛り上がりにつながったというのが一般的な見方。

「LCCが生まれてたくさんの人が旅をするようになりました。中でも九州は、日本にやってくる2,800万人の旅行者のうち15%、420万人くらいの人達を引き寄せるほどのポテンシャルを持った場所だと思っています。そのためのキーワードは、「安く泊まれる宿」。今はまだ少ないヨーロッパからの観光客も来るようになれば、地方都市はもっと活性化し、経済的にも潤うと思います」

地方の空きビルが優良資産になる

そう考えた時、地方に存在する空きビルや、借り手のつかない貸家などは重要な受け皿になるとMさんは語る。すでに空いている方が、明け渡しや立ち退きをせずに、簡易宿泊所への転用や改修工事を行いやすいからだ。

Mさんは現在、オーナーから依頼を受けて、ある飲食ビルのワンフロアを簡易宿泊所2戸にリフォーム中だ。シャワーブースとミニキッチンを新設し、ベッドやテーブルなど家具を置く。ベッドの置き方などレイアウトはMさんが考え、オーナーが投資をする。完成後の集客、清掃など運営はMさんが行う。最近こういったスタイルでの依頼が増えているという。

簡易宿泊所は低投資でありながら、オープン翌日から現金が入ってくるため、オーナーも取り組みやすい。他方、スマートフォンのGPS機能を駆使し、レンタカーや公共交通機関網を利用して旅する旅行者にとって、建物は駅前である必要はない。両者が交わることで、地方都市のこれまで価値がつきにくかった建物にも価値が再創生されていく現場をいくつも見てきた。

「ホテルは駅前にないといけないと思っているのは日本人だけだと思います。駅前に大きな看板を出したところで、日本語が読めない人にはわかりません。私の経営する民泊は、熊本駅から電車を乗り継いで30分くらいかかりますが、ほぼ満室です。駅から遠い建物でも簡易宿泊所にすることで収益を生めるようになる。旅行者にも喜ばれる。安い宿は地方再生の切り札と言えると思う」

Mさんは、九州全体に安く泊まれる宿=民泊を増やし、地域を活性化したいと考えている。

旅館業の許可を得た簡易宿泊所を増やしていく上で課題になるのは、オーナーの理解をどう獲得していくかだ。

Mさんは、「オーナーに民泊をやりませんか、というと大抵渋い顔をします。けれど休眠不動産を活性化して収益をあげましょう、といって嫌な顔をするオーナーはいません。どんな風に話を持って行くかが重要だと思います」

「民泊」と聞いただけで、悪いイメージを持つオーナーは多い。また、積極的に「民泊」を提案する管理会社も少ないため、実績や経験が蓄積されないという現状がある。

Mさんは、「安い宿を増やすことで観光客を誘致でき、清掃スタッフ等の雇用も生み出せるとオーナーには提案したいと思っています。観光客が増えれば、近くの飲食店やお土産屋さんも同時に潤っていくはず。こういった提案をしていくには、オーナーに近い存在である不動産業界の動きも重要になると思います」と語る。

民泊が、外国人旅行者の受け皿となりつつ、地方都市活性の起爆剤になるには、イメージの悪くなってしまった「民泊」という言葉とは別の呼び名が必要かもしれないと感じた。

Hello News編集部 吉松こころ
2018年9月6日:一部、加筆・修正を行いました

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