目指せ!!アジアのハワイ。ダナンの不動産市況

羽田空港発の深夜便で、5月中旬、ベトナム・ホーチミンシティへ向かった。JAL便の搭乗率は50%といったところ。隣の席も空いている。客層は、観光客風が多く、スーツ姿はほとんどいない。ベトナム時間の朝5時にホーチミンシティに到着し、国内線に乗り換えてダナン行きに乗り込むと、日本人らしき姿は一人も見当たらなくなっていた。「アジアのハワイ」と期待されるベトナム第三の都市、ダナン。現地の様子をレポートする。

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5年で20倍になった不動産価格

〈ネット通販世界大手、米アマゾン・ドット・コムがベトナムに進出する準備に入った。1億人近い人口を持ち、スマートフォンが普及した同国はネット通販がこれから急拡大するのは事実で、2020年には市場規模が1兆円に達するとの試算もある〉(日本経済新聞 2018/03/14)

〈世界経済の回復を背景に東南アジアが高成長を続けている。ベトナムとタイの2017年の実質国内総生産(GDP)がそれぞれ過去10年、過去5年で最も高い伸び率となり、マレーシアやシンガポールの成長率も前年も上回った〉(日本経済新聞 2018/02/20)

 東南アジア、とりわけベトナム経済の好調を耳にする機会が増えた。日本企業の進出も相次いでいるが、賃貸業界で“ベトナム”と聞くと、もっぱら話題は、「家賃滞納が多い」だろう。

今回訪れたのは、ベトナムの中でも三番目に大きな都市・ダナン。南北に長いベトナムのちょうど真ん中あたりに位置し、「アジアのハワイ」の呼び声もある。ホーチミンからダナン行きの飛行機に日本人の姿はなかったが、リゾートスタイルの欧米人夫婦や家族連れの中国・韓国人観光客は大勢いて、これから向かうダナンが観光地として認知されているのを物語っていた。

「ダナンはきっとアジアのハワイになる!」

そう信じる地元の人々に理由を聞くと、「東シナ海に面した海岸線が20キロも続く。ここは間違いなくワイキキビーチのようになる」とか「市街地から世界遺産・ホイアンまで車で40分。ダナン空港までは車で10分。この立地はほかにないよ」、また「シンガポールから大量の投資マネーが入っている。土地の値段も家賃もどんどん上がっていてその成長ぶりには目を見張るよ」といった声が上がった。

土地はもう遅い

ダナンで海外進出のサポートやコンサルティング、不動産仲介を行う、川又愛子さんは、こんな声をよく耳にする。

「土地はもう遅い」

リゾート開発が進むダナンでは土地の価格が高騰し、これから購入するのでは遅い、という意味だ。

「20代や30代の若い世代も土地を買っています。ベトナムは銀行融資が降りにくいため、買うときは親戚中から借金をして現金で買っているみたいです。それでも上がることがわかっているから投資しやすい」(川又愛子さん)

実際、欧米からの旅行者が宿泊するホテルが多い、AnThuong(アントゥン)地区のように、土地価格が5年で20倍になったエリアもある。海に近く、洒落たカフェや飲食店が多数出店しているこの場所は、白人の移住者が多く住んでいる。IT企業に勤める技術者や英語教師、ライターなど、フリーランスが多く、観光ビザを利用して、自分の国とダナンとを行ったり来たりする生活をしている者もいる。そのため、サービスアパートメントで空室が出ると、2〜3日で借り手がついてしまうという。

このAnThuong(アントゥン)地区で、自宅兼お店を建築中のベトナム人男性に会った。39歳のチャオさんだ。旅行代理店に勤務しながら、休みの日は、Grab(シンガポール本社の配送アプリ運営会社)の運転手をしているという。英語も堪能だ。

「土地は10年間の借地です。その上に自宅兼お店を建築中で2カ月後に完成します。地代は月5万円。1階でコーヒーショップ、2階でマッサージ店を経営する予定で、どちらも観光客向けです」(チャオさん)2階建ての建物を新築するのに投じた費用は200万円。チャオさんはまもなく始まるオーナー生活に胸を膨らませている、といった様子だ。目の前にあるBar(昼間はコーヒーショップ)の1日の売り上げが最高30万円だったという情報もあり、自身の店もそうなればいいと語る。ベトナム人の平均月収は3万円ほど。事業が成功すれば、収入は大幅にアップする。

とはいえ、地代は1年ごとに更新される予定だ。「(借地期間の)10年を待たず土地の返却を求められる可能性もある。その際の違約金は建設費用の3倍の600万円という契約になっている。オーナーからはそれを払ってもいいから土地を返してくれ、と言われるリスクはある」とチャオさん。このため、購入したばかりのマツダの新車を使ったGrab運転手の副業は当面続ける予定だ。

貸さなくてもいい

ハン川を臨むバクダン通りには、戦前から続いているというバーや飲み屋が何件も軒を連ねている。一年前に、一人1万円の寿司料理店もオープンしたが、連日超満員だという。夜になると様々な国の観光客がアルコールを楽しむ賑やかな通りだ。そこから1本入ったチャンフー通り、そこと交差するハンバチャー通りに立つ中古ビルを訪れた。3階建てで黄色の外壁。改修工事をして間もないようで、新しく見える。最近まで全フロアにカラオケ店が入居していたが、撤退したらしい。

「空室あり」「賃貸募集」の張り紙はなかったが、1階のシャッターがいつも閉まったままだったことから、川又愛子さんはオーナーへの接触の機会を狙っていた。しかしいつ行っても閉まったまま。

ある日、隣の屋台の椅子に座って水を飲んでいるとき、思い切って店主に「お隣さんを知りませんか」と話しかけてみた。「う〜ん、知らないなあ」との返事だったがすぐに周囲にいた人たちに聞いてくれたようで、数分後、「知り合いを見つけたぞ〜」。愛子さんはすぐに連絡を取り、アポを取り付けた。

現れたオーナーは、30代前半の男性で、ノリのきいたシャツとスボンに身を包んでいた。ハノイ出身者だという。ベトナムには、「政治家はハノイ出身者しかなれない」という言葉あるそうで、首都・ハノイの人は一段格上に見られているそうだ。

話を聞くと、前述のビルは2カ月前の3月、4000万円で購入したばかりとのこと。「いずれ値上がりするから、無理に貸す必要はない。無収入でもいいんだ」。そのスタンスにベトナム不動産の好況ぶりを感じるばかりだったが、「日本人が見学したいと言っている」と聞くと、内見を許可してくれた。

建物は3階建てで、各フロアは100㎡あり、広さは合計300㎡。中階段でつながっており、賃料は1棟で19万円と提示された。おそらくオーナーが変わり、賃料の見直しを行ったのだろう。前入居者のカラオケ店は変更後の賃料に耐えきれなくなり撤退したと、推測された。

毎日民家に飛び込み50軒

ダナンでの不動産案内は大変だ。物件の住所と地図があっていないことがよくあるからだ。そんなとき、強い味方になってくれるのが「Grab」だ。川又愛子さんは「Grab」のハードユーザーで、案内や日頃の移動時もよく利用する。タクシーより安く、配車、行き先の指示、決済がすべてスマホででき、ベトナム語で悪戦苦闘するといったことは皆無だ。

日本企業のダナン進出をサポートする愛子さんの仕事は、事務所や工場、テナントに適した不動産への案内が多い。同時に行っているのが、オーナー探しだ。

ダナンには、商業ビルが多くない。そのため、一軒ずつ個人宅を訪問して、「1階の空いているスペースや部屋を、店舗用に貸し出しませんか」、と提案することから始める必要がある。それに気づいた愛子さんは、毎日50軒の民家に飛び込み訪問をし、「空いているスペースで賃貸業をしませんか」と提案している。

コミュニケーションにはスマホが必須だ。英語で話すと自動でベトナム語にトランスレーションされるアプリを使い、自分の要望や意向を伝える。それを聞いたベトナムの人々は、スマホ画面にベトナム語を入力し、英語に変換された文章を愛子さんが画面で確認する、という流れだ。 https://www.youtube.com/embed/RQkqzRhsNZg

この日、訪れたのは若い夫婦の一軒家。1階の一部屋を使っていないという。

奥さんは、自宅で手縫いの子供服を作り、オンラインで販売しているそう。こちらの売り上げはかなり好調とのことだが、副業で賃貸経営もはじめてみようと思ったという。家賃は、月4万円で、敷金は6カ月。日本でいうホームズやスーモのような仕組みがないため、所有者との直接交渉で家賃が決まっていく。

ダナンはアジアのハワイになれるか

不動産価格の上昇が続くダナン。愛子さんの住む公営賃貸の家賃は、3万円から6万円になり、フォー店を営むご主人の店の家賃は、8万円から15万円になった。バス代はわずか半年で170円から200円に値上がりしたという。経済の成長を肌で感じる毎日だ。 https://youtube.com/embed/5SANppQzl-A

ダナンを訪れる外国人で最も多いのは、順番に中国人、韓国人、ドイツ人だという。韓国では有名な芸能人が何人もダナンを訪れていて、その影響で若者に人気が広がったそうだ。ドイツではリタイヤ後に住みたい街としてダナンを挙げる人が多いという。

街全体が世界遺産になっている古都・ホイアンが近く、外国人旅行者も年々増加している。季節に関係なく、観光客は、年間を通じ安定してやってくるという。

ダナンからホイアンまでは車で40分。その間、左側には海に面したビーチホテルの建設予定地がおよそ10キロに渡って続く。まさに建設真っ只中の建物もあれば、まっさらな土地に完成予定図の載った大きな看板だけが、どんと立っている場所もある。日本企業の名前はなく、ほとんどがシンガポール資本やインドネシア資本ということだ。

最も目立っていたのが「COCOBAY」。シンガポールのデベロッパーだという。ダナン空港に巨大な看板を出し、ダナン市内ではラッピング広告の描かれたバスを何台も走らせていた。バス代は無料というから完全にPRを狙ったものだろう。

「こんなにホテルが立って、本当に埋まるのでしょうか?」

Grabの運転手に尋ねると、「まだ建ってもいない、基礎すらできていないホテルでも1年先まで予約が入っているらしいよ」という答えがかえってきてビックリ。

このような急激な都市化やリゾート開発に対し、地元から不安の声が上がっていない訳ではない。自然破壊や治安の観点から急速な開発と供給を止めるよう、声を荒げる人々も多いという。行政はこれらの声を聞きながら、バランスのとれたインフラ整備を進めるという姿勢を打ち出している。

ベトナム最大手のIT企業、FPTは、ダナンをスマートシティ(環境配慮型都市)にする計画を発表した。すでに2016年には、1万人のエンジニアが常駐するIT拠点を開設し、2020年のスマートシティ化を目指すという。「ハワイよりもシリコンバレー」という評価もあるほどで、IT都市とリゾート都市双方を叶える未来都市になれるか、期待が集まる。

Hello News編集部 吉松こころ
取材日 2018年5月11日〜13日

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