1つの家で生活する時代は終わった!2つの生活拠点を構える新ライフスタイル

「子育ては、自然豊かな場所がいい。仕事があるときだけ東京に行きます」「ネット環境さえあれば、地方の家でも仕事はできる。会議がある曜日だけ出社します」など、最近、東京と地方に2つの拠点を持つという話を聞くようになった。「二地域居住」という言葉を聞いたことはあるだろうか。文字通り、「東京と茨城」や「東京と福岡」など、2つの地域に住宅を構え、生活をしていることをいう。芸能人や作家など、お金と時間に余裕のある特別な人々が行っているイメージがあったが、実は近年、事情が変わってきているらしい。過疎化や空き家問題が進む中、地方自治体なども二地域居住や移住を推進するための仕掛けを行っている。国土交通省も二地域居住を勧奨し、2007年度から自治体への調査(2014年、2015年除く)を行い、2016年度、2017年度は、積極的に「二地域居住等の推進に向けた先進事例構築推進調査」を行った。その中の一事例が「NPO法人南房総リパブリック」。その代表を務める馬場未織さんは、二地域居住をしている一人だ。

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寒さ対策には自らの手で断熱DIY

11年前の2007年から馬場さんは、東京と南房総市で二地域居住をしている。3人の子どもがいるとは思えないほどスレンダーで凛とした雰囲気のある美人だ。平日は仕事があるため東京で、土日は千葉県南房総市で生活を送っている。金曜日の夜に子ども3人とともに車で約1時間半かけて南房総へ移動し、夫は仕事後合流するというスタイルを11年間も続けているのだ。

「私も夫も東京出身で田舎がありません。そのことがきっかけの一つで今の生活を送っています。私が選んだ二地域居住生活は、大変度で言ったら最高レベルですが、もっと手軽に、もっと簡単に二地域居住はできると思います。しかし、やってみて思ったことは、ポンっと行って生活が成り立つものではないということです。田舎という場所で生活をしていくには、近所の人、地域の人との関わりが重要になります。私自身、地域が好きになったことで、最初の頃では考えてもしなかった活動をしています」と馬場さんは、柔和ながらハッキリとした口調で話す。

「大変度、最高レベル」の馬場さんが出会った南房総の「我が家」は、南房総市の約8,700坪の土地だ。2007年に家と畑付きで購入した。8,700坪とは、想像しにくいが、約2万8,760㎡で、東京ドームの半分くらい。ちなみに東京ドームは、4万7,000㎡だ。その土地には、築100年以上の一戸建てと2,900坪の農地が付いていただけで、あたり一面、緑が生い茂っていた。

立地は、車でしかいけない場所で、最寄駅からでも車で15分ほどかかるという。都心の感覚だとまず、住み手がつかない土地だ。また、「何より大変!」と馬場さんが苦笑いするのが、草刈り、農地の手入れ。刈っても刈っても慣れないという。

また、築100年以上の家では「寒さ問題」にも直面した。最初こそ、「家の中で白い息が出るねー」など、寒さ自体がイベントだった。しかし、10年も住むとさすがに文明的な生活を望むようになった。調べてみると、一軒屋を断熱リフォームすると、おおよそ700万円の費用がかかることがわかった。建築設計事務所で働いた経験を持ち、建築ライターとしても活躍している馬場さんは、「本当にそんなにかかるの?」と疑問を持ったという。ちょうど同じ時期に、たまたま東京の自宅の近所で省エネ住宅の見学会が開かれた。興味を持ち、参加した馬場さんは、そこで出会った建築士に「お金をかけずに安価に断熱効果を立てる方法はないのでしょうか。お金がない人は、暖かい家に住めないのでしょうか。みんなで作ることはできないのでしょうか」と訴えたそうだ。すると「DIYでできる方法、リノベーションできる方法を考えてみましょう」という返事が返ってきた。

前出の南房総リパブリックでは、2016年から「南房総DIYエコリノベワークショップ」を開催している。このワークショップでは断熱性能をあげるDIYを行っている。1回目は幼稚園、2回目は馬場家、今年の初めに行った3回目は、南房総市内の民家でDIYを施し、断熱性能アップを実現したという。

「なんとなーく変わったでは、意味がないと思っています。すごく変わった、暖かくなったと感じてもらえる断熱リノベーションにしたいと準備しました。また、きちんとしたデータを残すため、効果測定も行っています。実際に冬を越してみて本当に暖かいと感じました。体調もよくなりました」(馬場さん)

※取材日:2018年4月20日

自産自消”で料理も勉強中

東京都三鷹市と茨城県笠間市で二地域居住をしているのは、堀池喜一郎さんだ。堀池さんのもう一つの「家」は、馬場さんとは異なり、一般財団法人笠間市農業公社が運営している「クラインガルテン」。賃貸で借りている。クラインガルテンとは、滞在型市民農園と言われており、笠間市以外でも長野県や群馬県にもあるという。

堀池さんは、恩歳77。2年前から二地域居住を始めた。大手家電メーカー退職後も様々な活動を行っており、住んでいる三鷹市を活性化させるための「多摩CBネットワーク」や、高齢者が働くために必要な知識提供する「好齢ビジネスパートナーズ」などの立ち上げに携わってきた。そんな時に言われた知人の一言、「笠間で田舎暮らしをしてみないか」をきっかけにスタートしたのが今の暮らしだ。

38年前、勤務先の工場が日立市にあり、そこに17年間勤務し、茨城県に所縁はあった。とはいえ、“笠間市”というと何もない場所というイメージしかなかったという。しかし、実際に笠間を訪れてみると気持ちが一転。畑や田んぼなどの緑の残る光景に、なんとも言えない懐かしさを感じ、クラインガルテンに暮らすことを決意したという。

馬場さんのように平日仕事があるわけではないので、三鷹市と笠間市の行き来は、基本的には、自由だという。1週間滞在する時もあれば、2週間の時もある。移動には費用も体力もかかるため、1度行ったら1週間くらいは居ることが多い。交通手段も友人の車、バス、電車と使い分けしている。三鷹市からはどの交通手段でも約3時間はかかり、小旅行となるのだ。

第二の我が家は、約300m²の土地に約37m²の家と、約100m²の庭が付いている。その庭で堀池さんは、小さな農園を作っている。

「田舎に住んだら農業をやりたいと考え、さっそく野菜を作りました。最初に作った小松菜、カブはうまくいったんです。“農業、簡単だ!”と思ったのですが、そのあとが大変でした。虫は出る、雑草は生える、霜は降りるで四苦八苦。周辺の農家の方に色々アドバイスをもらいながら、日々、勉強しています」と語る。

また、笠間の魅力に惹かれ、笠間をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いから独自の活動も行っている。笠間市役所の役員とともに「地方プロボノプロジェクト 笠間フィールドワーク」を主催。東京から自分とつながりのある人を笠間に招き、笠間の散策やイベント巡りを行っているのだ。またそれだけではなく、課題を抱えている町の店や団体と、コラボし活性化させるためのディスカッションを行うなど精力的に活動している。

「今の夢は、自身で食べていけるだけの野菜を作り、その野菜で料理を作り、暮らしていく“自産自消”です。料理は只今勉強中。ラタトゥイユとポテトサラダは、得意料理になりました。これから夏が楽しみ。先日も早速、自分の庭で採れた野菜だけでラタトュイユを作りました。これが絶品なんです」と満面の笑みで話した。

※取材日:2018年4月24日

地域も自分も元気に

二人に共通して言えることは、その土地に住むことで、好きになっていった地域とそこに住む人々を元気にしたい、という想いがあることだ。

「住んでもらって、税収を得るだけが地域活性化、創成ではないと思うのです。実態としての活性化が大切です。何度も来てもらうこと、定住と観光のちょうど中間くらいを目指したいです。人が来るだけで経済効果が生まれるので、地域にとって良いことばかりです。」(馬場さん)

「せっかくいいところなのだから、都会の人々に知られていないのがもったいない。いろんな人にこの自然を味わってもらいたい。二地域居住をして、苦労しながら野菜を作っていますが、何よりこれだけは言えます。健康になりました。体だけでなく、心も。私のようにリタイアした人だけでなく、それ以外の人にもぜひお勧めしたいです」(堀池さん)

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