大手民泊仲介サイトが違法物件を一斉削除
6月15日の住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)施行により、大手民泊仲介サイト「Airbnb」が、6月7日時点で届出番号や許認可の記載がない違法物件を一斉削除した。同時に、6月15日~19日に入っていた予約も強制キャンセルし、世間に衝撃を与えた。さらに、19日以降の予約についても、届け出番号が確認されない限り、宿泊日の10日前に自動キャンセルになるという。Airbnbのデータ解析を行うエアラボの統計によると、17年1月時点で物件の掲載数は4万5871件あったが、18年6月8日時点で2万2200件まで減っており、半分以上が削除されたことになる。
では、突然予約をキャンセルされてしまったゲストはどうなるのか。同社が6月7日に発表した声明によると、キャンセル対象者には全額返金し、予約金相当額のクーポンにプラスして、茶道や瞑想といった体験イベントに利用できる約1万1000円分のクーポンを配布するという。また、専門チームがメールにて24時間サポートを行うほか、代替の宿泊施設がAirbnbで見つからない場合、旅行代理店大手のJTBがその確保を手伝うことになっている。キャンセルの見返りとして、11億円を特別予算に組み込んだ格好で相応の補償を行うことを約束した形となる。
今回の一連の対応についてAirbnbは、民泊新法を支持した結果だとし、「従来の旅館業法に沿って民泊を行う場合、曖昧な点が多かった。しかし今回の法施行により、それらの点を解消できる」という見解を示している。
無料の広告型掲示板「ジモティ―」には、 撤退を余儀なくされたホストらとみられる人々が家具を大量に出品している。その数は2018年6月現在で、600件以上にのぼる。
マンションでの民泊営業は減少
では民泊新法施行後、民泊業界はどのような展開になっていくのだろうか。民泊新法は、無秩序な状況下での民泊運営を防止し、「健全な民泊の普及を図る」という目的のもと、施行されることになった。しかし、民泊新法のみならず、市区町村ごとに定められた条例も加わり、民泊営業への規制は厳しいものになった。例えば、大田区では住宅専用地域での民泊が全面禁止された。一方、中央区や荒川区では月曜正午から土曜正午まで民泊営業が禁止となり、事業収支を合わせることは事実上、困難な状況といえる。
また、マンション管理業協会(東京都港区)が18年2月に全国の分譲マンションの管理組合に行った調査で、民泊を容認しているマンションはわずか0.3%に留まった。そして、残りの80%は禁止、19%は検討中という結果となり、今後は検討中とある19%のマンションも禁止に向かう可能性は否定できない。このような状況で、本当に民泊の普及は進むのだろうか。
ヤミ民泊の監視サービスを提供している株式会社オスカーの中込元伸社長は「施行後は条件や条例による規制から辞めざるおえない人が多いのではないでしょうか」とし、全体数は減るのではないかと予測。一方で、旅館業法が緩和され参入障壁が下がったこともあり、この旅館業法での宿泊施設数は増える可能性があると言及。また、多くのマンションでは民泊ができなくなるため、今後は1軒家もしくは簡宿・旅館業法に則った民泊営業が主流になるのではないかと語った。
中込社長は「今まではマンションを中心にした投資目的の民泊運営が目立ちました。ですが、今後は民泊本来のホームスティ型が増えるのではないかと思います」と語り、民泊が良い方向へ変わることへの期待を表した。
6月15日以降にホストとして営業を行うためには、各市区町村で住宅宿泊管理業者登録を申請し登録しなければならない。届け出さえ出せば、一般の民家でも簡宿を取らずに年間180日以下の営業と各自治体の条例に沿った合法的な営業が可能となる。
とはいえ、国土交通省が発行した住宅宿泊事業法施行要領によれば、申請を受けてからの標準処理期間は、なんと「90日」もかかることになっている。申請したその日から営業開始というわけにはいかないので、その点については注意が必要だ。
ヤミ民泊と“いたちごっこ”の可能性も
民泊新法施行を境に、ヤミ民泊はなくなるのか。前出の中込社長に問うと「完全になくすことは難しいのではないか」という答え。というのも、現時点で全ての民泊仲介サイトが違法物件の一斉削除を行っているわけではないからだ。
「例えば、海外法人の民泊仲介サイトが、日本のヤミ民泊物件を掲載していても、国外になってしまうと日本の法律が及ばないため、法的に掲載を辞めさせる手立てはありません。できるとしたら、掲載をやめるよう依頼をするくらいです」(中込社長)
さらに、民泊運営代行業者がヤミ民泊に手を貸す可能性も指摘した。民泊運営代行業者は定期的に管理物件についての報告を国にしなければならない。しかし、合法物件と違法物件の両方を管理していた場合、合法物件しか報告しないという可能性も否定できないという。続けて中込社長は「すべての運営物件を報告しなかったとしても、決算書を見た上で売上額と報告内容を照合しない限り、報告漏れを発見することは困難でしょう」とも付け加えた。
法を犯し、懲役6カ月以下もしくは罰金100万円以下というリスクを負いながらも、バレなければヤミ民泊を続けるという考えのホストや代行業者がどのくらい存在するかは疑問だ。しかし、増え続ける外国人旅行者を前に、抜け道探しに躍起になる輩は少なからずいるのだろう。
Hello News編集部 須藤恵弥子
コメント