「予約をとる」から「出会いを生む」
不動産、建築会社向けに営業支援ツールを開発・販売するCocolive株式会社(ココリブ/東京都港区)の社長、山本考伸さんは、楽天トラベル出身の43歳。
2013年3月に楽天株式会社に入社し、執行役員を務めながら、楽天トラベル株式会社の常務執行役員(プロダクト、マーケティング担当)を兼務。同年6月末に代表取締役に就任。2014年4月、楽天トラベルが楽天に吸収されるまでの9カ月、陣頭指揮をとった。吸収後は、執行役員トラベル事業部長となり、2016年12月の退職まで勤め上げた。
「グループ会社の社長といっても、事業部長みたいなものでしたよ。楽天という大企業の中で一つのビジネスを任せられた部長の位置付けです」と屈託のない笑顔で話す山本さん。そのキャリアは華々しく、京都大学大学院工学研究科を卒業後、渡米。スタンフォード大学に学びMBAを取得したのち、日本に戻り、NTTドコモ、TripAdvisor(トリップアドバイザー)を経ての楽天だった。
もともと、データを使ったマッチングやマーケティングを得意としており、そのスキルは、楽天トラベル時代、「こういうページ見ている人なら、こういう旅館とかホテルが画面に出てくるとかなりの確率で成約するのではないか」など、予約サイトの開発場面で発揮された。
開発の過程で手を加えればすぐに反響率アップにつながり手応えを感じるようになっていったが、だんだんと、ただ単に「予約を取る」というデータ処理系のサイトから、データを使い「出会いを生む」サイトを作らなければいけないと考えるようになっていった。
そう思うようになった背景には、“Airbnb”の日本上陸が少なからず影響している。
「旅行先で私が求めているのは、ホテルでの至れり尽くせりのサービスではなくて、家族でのんびり過ごせる時間であり空間です。“Airbnb”は、まさしくそれを叶えてくれました。“Airbnb”の『STAY AS YOU LIVE』、暮らすように旅しようという言葉を聞いた時、なんてことを考える人がいるんだと思いました」
そして山本さんは、“Airbnb”とは逆の、『旅するように暮らしたい』を叶えるサイトがあってもいいのではないかと思うようになった。
「暮らしの中に常にワクワク、ドキドキ、発見があるようなイメージです。ずっと旅をしているような気持ちで生活できる場を提供したいという思いが沸いてきました」(山本さん)
これが旅行業界から不動産業界へ舵を切る第一歩となった。
自分のこれまでの経験と相性とを考えた時、旅行よりも長い期間暮らす家を「借りる」・「買う」のユーザーを顧客とする方が良いと思ったのも、不動産の世界を目指した理由の一つだった。家探しは、旅行以上に真剣さが増す、また、選ぶのがとても難しい。
山本さんの心の中に、「サイトを見ている人の要望にピタリ合う住宅を提供できるシステムを作ればきっと不動産業界で役立つ人間になれるはずだ」という思いが高まっていった。
「旅行の予約サイトであれば、3日間とか1週間との短期で暮らす場所を最適化してきたが、この切り口を2年間、10年間、20年間に延長して考えればいいのだ。「買う」や「借りる」にの場面に置き換えデータを使い、うまくマッチングできたらきっと面白いはずだ」
そう思った時、会社を辞めて起業することを決意する。2016年12月、41歳の時だった。
独立に際しては楽天時代の三木谷浩史会長兼社長の言葉も大きく影響した。
「これから成功するサイトは、“便利に使えるサイト”ではなくて“新しい発見が見つかるサイト”でなくてはならない」
1997年、ショッピングサイトから始まった楽天だが、今は、単に買い物をするだけでなく、良い商品を探すことができるサイトを目指しているという。楽天トラベルも同じだ。「こんな旅館があったんだ」「こんなビジネスホテルがあったなんて」と消費者の予想を上回る情報を提供し、発見を楽しめるサイトにしていかなければ生き残ることはできない。
それを住宅に当てはめた時、「ココに住みたいという場所を見つけてもらう」サイトを作ろうと考えた。それが同社の社名、ココリブの由来にもなった。
誰でも使える営業支援ツール
ココリブが提供しているシステムは、不動産販売会社、建築会社に特化した自動マーケティング・営業支援ツール「KASIKA(可視化)」だ。今の形になるまでには、紆余曲折があった。
2017年1月設立と同時に販売をスタートしたシステムは、不動産会社や建築会社が持つ自社のサイトの分析をするというもの。顧客(ユーザー)が、どのページを、いつ、どのくらいの時間をかけて閲覧したか、が一目で把握できるというものだった。
この仕組みを構築するにあたっては、楽天トラベルのスキームを参考にした。宿泊予約サイトでは、利用者がどのようにホテルや旅館を探しているのか、またどこを閲覧しているのかといった行動を分析し、最適化したプランを提示する。住宅に置き換えれば、旅行が短期から長期になっただけであり、十分応用できると考えのだ。
しかし、営業を開始して8カ月が経過した2017年9月、問題点が浮き彫りになった。
それは、今のままでは自社サイトへの集客に成功している不動産会社しか使えない、ということだ。
「不動産業界では、不動産会社がそれぞれ自前の部屋探しサイトを持っていますから、ユーザーは、それを見て探しているとばかり思っていました。しかし、蓋を開けてみると全く違った。各不動産会社のサイトにたどり着いていないばかりか、サイトがあったとしてもほとんど閲覧されていないことに気がつきました」と山本さん。
そもそも自前のサイトに来てもらうことから始めなければならないということにハッと気付かされた。同時に、 “マーケティングオートメーション”、つまりマーケティング業務を自動化することが不動産業界には必要だと考えついた。マーケティング業務を自動化とは、ユーザーの行動履歴の可視化、よく見ている物件のランキング化、見込み顧客のスコアリング、休眠顧客の掘り起こしを意味し、今まで時間と労力を掛けて分析してきたことを自動で行うというものだ。
まずは「KASIKA」をベースに改良を重ねた。不動産会社社員が誰でも使えるツールを考え、定型メールやメルマガを送れる機能を追加した。
膨大な顧客リストの活かし方
山本さんが不動産業界で感じたのは、自社サイトがあるにもかかわらず、アクセスが少ない反面、顧客リストが膨大にあることだった。ポータルサイト経由の問い合わせが多く、見込み客リストだけは充実している。しかし、間違えたタイミングで、営業をかけるケースがあまりに多く、成約に至っていない現状を目の当たりにした。特に購入検討者に対して、それが顕著だった。
そこでココリブでは、当初の方針を変え、「KASIKA」を利用し、マーケティングオートメーションを行うことで営業が変わるということを提案している。ポイントは、は大きく分けると3つだ。
1つ目は、「急がば回れ」。ポータルサイト経由で集まった顧客リストをすぐ営業をする人、しない人を問い合わせの内容により自動で振り分けていく。そして、営業すべき人を中心に提案をしていく。
2つ目は、「楽して回れ」。営業を仕掛けるにはまだ早い「そのうち顧客」に対してお役立ち情報や業界ニュースを定期的に送ることを促し、購入意欲を刺激する。不動産販売会社や建築会社は、システムを利用することで楽して、顧客の”買いたい気持ち”を育てることができる。
3つ目は、「機が熟したら本気で刈りとれ」。ターゲットとなる顧客が、どのページを見ているのか、どのような行動をしているのかがわかるため、“買う”という意識になった顧客を瞬間的に見分けることができる。またその顧客がどのような物件を好んでみているかを分析することで、的確な物件を提案することができる。
この3つのポイントを採り入れ実行した不動産会社の業績は、目に見えてよくなった。改善して本格的に営業を再稼働したのが2018年2月のこと。採用を決める不動産会社の数は、20社増え、全体で30社に広がった。
「弊社のKASHIKAは、売買、分譲、注文住宅を購入した層との相性が良いので、現在は、デベロッパー、工務店、売買不動産会社に提案しています。このシステムを業界にとって当たり前のものにしたい。ユーザーがやってくるのはポータルサイト。しかしそこから自社のサイトに誘導し、“育てる”、“良いものを提案する”のは、『KASIKA』のサポートとした。Airbnbの出現で旅行のあり方がガラリ変わったように、住宅業界を変えたいのです」(山本さん)
前半で紹介した梶谷さん、そして後半の山本さんのふたりの共通点は、大手IT会社出身だということ。しかしそのキャリアをあえて捨て、ゼロからのベンチャー創業に挑んだ。
異業種からの参入だったからこそ、不動産業界の中にあった手付かずのビッグデータや、膨大にあった入居者、見込み客など顧客データの活用方法にも着目できた。
また大手企業の看板を捨てたからこそ、臨機応変に顧客の声を聞き、フットワーク軽く動くことができた。
人間の生活に大きく関わる「住」の世界には、古くからある商慣習やしきたりが根強く残る。そこに固執しすぎると、消費者は離れていくだろう。ITの力を活用し、新しい文化を作ろうとする二人の若き経営者の奮闘に学ぶところは大きい。
Hello News編集部 山口晶子
※本記事におきまして、以下に一部誤りがございました。訂正し、お詫び申し上げます。
・Cocolive株式会社の企業日:2017年12月→2016年12月
・山本さんのコメント
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