<後編>災害のリスクヘッジに「2地域居住のススメ」

本連載は、アメリカ人とニッポン人、双方の感覚を併せ持つ寅さんこと励さんが、リアルで痛快な「多地域居住ライフ」を紹介する本邦初の手引書である。今回は、前回に引き続き、自然災害について私が感じたことをお伝えする。

梅沢励
日本に2つ、アメリカに4つ、合計6つの家を持ち、4台のマイカーを乗りこなして自由な移動を繰り返す“現代版フーテンの寅”こと、梅沢励さん。東京、千葉、マイアミ(フロリダ州)、オーランド(フロリダ州)、ジャクソンビル(フロリダ州)、アトランタ(ジョージア州)を行き来する「多地域居住」の暮らしは、今年で16年目に突入した。5年前、グリーンカード(永住権)を手に入れ、生涯アメリカ居住を宣言。オンラインアパレルショップで生計を立てながら、週末は、アメリカ国内の催事場で日本から運んだ飴玉やグミ、チョコレートを売りさばく気ままな暮らしを楽しんでいる。

目次

甚大な被害を及ぼすハリケーン

9月1日にカリブ海にあるバハマ、そして9月2日から3日にフロリダを襲ったハリケーン「ドリアン」は最大級のカテゴリー5で各地域に壊滅的な打撃を与えました。2年前のハリケーン「ハービー」はテキサス州で恐ろしい被害を与え、14年前の「カトリーナ」の被害も甚大でした。ニューヨークまで被害を及ぼした「サンディー」もありました。昨年は、メキシコ湾沿いに突然、ハリケーンが生じてフロリダの都市を直撃しました。ハリケーン「イルマ」は個人的には一番恐ろしかったのを覚えています。

こうして写真を見ると、ハリケーンっていうものは、ものすごく恐ろしいものだという印象を与えてしまいます。しかし、災害というのは最悪の事態を想定して対応するべきものなので、ハリケーンっていうのは、こういうものだということを理解しておく必要があります。

ただ、写真での報道は最も被害の大きかったところを表していますし、嘘の情報もたくさん流れます。本当に正しい情報なのだろうかという判断能力の不足も拡散の原因になると思います。

インターネット頼みの現代人

現代人は、インターネットがなくなると至極弱いです。電気がなくなればもちろんインターネットも失われるわけで、普段からインターネットに頼り続けている現代人は、災害時に困難に陥り、混乱に襲われる可能性が高いでしょう。普段から災害時にどのような行動をとるべきか、その練習をしておくと良いと思います。

ちなみに、私は台風15号がやってくる前日、東京のど真ん中で、インターネットがなく(単にアメリカの携帯でネットにつながらなかっただけ)、家に帰ることに四苦八苦しました。

用事を済ませて、家に帰ろうとするも電車が遅れており、私がいつも使っている最終電車に乗れるかどうか微妙なところでした。急いで乗り換えを済ませましたが、慌てていたため反対方向の電車に乗ってしまいまして…。その後、駅構内にある路線図を見て、ルートを変えて無事に帰宅することはできたのですが、こんなのインターネットがあれば、あくせくすることもなかったのかなと。インターネットがないだけで自由が全く効かなくなるということを身を持って体験しました。

ハリケーンについて知っておきたいこと

さて、話は変わりますが、「ハリケーンと台風って何が違うの?」と聞かれることがあります。

その答えは「違いはありません。アメリカ周辺で発生するのがハリケーンで、日本周辺で発生するのが台風。そして、インド洋周辺で発生するのがサイクロンと名前が違うだけ」なんです。

ハリケーンの方が規模が大きい気がするとも言われますが、基準がちょっと違うだけなんです。

台風は3段階に分かれています。

規模風速
強い秒速33~44m
非常に強い秒速34~54m
猛烈秒速55m以上

ハリケーンは5段階に分かれています。

規模風速
カテゴリー1秒速33~42m
カテゴリー2秒速43~49m
カテゴリー3秒速50~58m
カテゴリー4秒速59~69m
カテゴリー5秒速70m以上

台風15号は、「強い台風が上陸」という発表なので、アメリカで言うとカテゴリー1~2のハリケーンがやってきているということになります。

ハリケーンの名前については、事前に決まっていまして、6年周期で命名される順番が定められています。

また、途中で大きな被害を及ぼすハリケーンが生じた場合、「永久欠番」として次回からはその名前は差し替えられることになります。今回の「ドリアン」は、記録に残るハリケーンだったため、次回以降は使われないということになるでしょう。

ハリケーンが発生すると、移動の経路予想と強さの予想が出ます。道筋はいくつもの予想ラインが発表され、この経路予想は日々刻々と変更されていきます。

この進路予想が「スバゲティーモデル」と呼ばれる理由は、画像の通り、スバゲティーみたいだからです。この予想を見ながら、世の中の人は右往左往するわけです。

例えば、会社や学校が休みになったり、これに合わせて人々はガソリンを満タンにしたり。それから水を買う、食料を買う、電池を買う、プロパンガスを買い揃えたりします。

ハリケーンが近づいてくるとお店は休みになるため、その前に準備が必要なのです。だから、学校も仕事も休みになり、その間に食料を買って、プロパンガスを買うのです。

ただ、実際には何が起きているかというと…

これはですね、BBQの用意と変わらないんです。ハリケーンがヒット(実際にぶつかる)する可能性ってのは意外に少なくて、「ハリケーンが発生した!」というニュースとともに、みんなが準備をするわけですが、多くの場所では杞憂に終わるわけで、そうなると余った食料などを使って完全にBBQの毎日になるのです。

そうは言っても、「どうしようもねーなぁ」って呆れるのは、みんなが先を争って水を奪い合ったり、ガスを奪い合ったりすることです。もちろん暴力的な意味ではありませんが、みんながみんな、必要以上にものを買う訳です。

日本の大地震の時もそうでしたが、コンビニで買い占めたりする人がいたと思います。「そんなに必要ないだろ!」っていうくらい買う人もいます。電気が止まるかもしれないという時に、「冷凍食品を買い占めてどうするの?」と思いますが、みんな血迷ってる感じになってしまいます。

そういう時にスーパーはここぞとばかりに売るわけです。10年前にはガソリン価格が法外に値上がりするということもあったりしましたが、それは政府が価格を吊り上げることを禁止する条例を出したため、最近はそういうことはみられなくなったと思います。とはいえ、水を争って喧嘩なんていうものは、しょっちゅうテレビで流れています。

ちなみに、僕が災害の情報を得るために、個人的に利用しているのは「マイレーダー」というアプリです。雨量情報が出るので、雨を予想できます。

グーグルのハリケーン予想はこちらです。

他にもいくつかのアプリやウエザーニュース、ハリケーンセンターのニュース、CNNのニュースなど逐次、情報を確認します。また、友達などとも連絡を取りあって、万一の時に備えます。

余裕のある人は州外に避難するということは多いです。飛行機が飛んでいる間に州外に出てしまえば命の心配はなくなります。ハリケーンが来る数日前から、便の変更などが簡単にできるようになっていたりもします。

しかしハリケーンが来てしまうと、空港が閉まることもありますし、フライトのキャンセルは普通に起きます。

フロリダ人の反応

私個人としては、災害にあまりあったことはありませんし、楽天的だけれど怖がりであり、石橋を叩くタイプなので、一般的に起きていることを少し悲観的にみている様に感じます。

●ハリケーンが来る時の準備(To Do List)
天気予報を見る、避難キットを用意する、電池を買う、水を買う、もっとニュースを見る、発電機を用意する、窓に板を貼る。

飛翔物で窓が割れないよう窓枠に板を張り付けるため、実際にDIYショップに人が殺到し、板を買っていき、板があっという間に売り切れます。また、ガソリンも売り切れ、水も売り切れ、食料もかなり売り切れます。

「そこまでやる必要あるか?」というくらい僕は悲観的にみていたりします。もちろん備えあれば憂いなしですが…。特に、板を貼るのは、どうかと思ったりしますが、みんな板を家の窓に打ち付けるんです。極度に重い鉄板を窓につけるので、本当に大変な作業です。

この「To Do List」をジョークにしたものがこちらです。

アルコールを買う、友達とパーティーのリストを作る、平日にハリケーンが来て仕事と学校が休みになることを望む、そして実際にハリケーンが近づくと驚く!(笑)

確かにそういう一面もあり得ます。

また、以下のように笑えないジョークもあります。

停泊していた船が吹っ飛ぶ、信号機が止まる落ちる、屋根が飛ぶ、木が倒れる、家がひっくり返る。

これは冗談ではなく実際に見て経験したことです。

それから被害が大きい場合には必ず理由があります。

違法建築で建てられた家や極度に貧困な地域にある家は被害も大きくなります。風に耐えられないような家があったり、大雨に耐えられないような家があるからです。マイアミにハリケーンが近づいた時、やはりそういう地域は被害が大きかったです。今回のバハマの被害もそういう地域に集中しているというのが現地をよく知る人の意見です。

そして、その後の被害も大きいです。自然災害よりも人害(人が招く災害)という2次災害も多いと思います。

残念ながら、地域の復旧だって富裕な地域から始まるわけです。貧困地域は後回しにされます。予算のある地域の復旧は速いです。

こうしたことを常々考えながら、様々なアンテナを張って生きていかなければならないのだと思うのであります。自然災害は甘く見てはいけません。

梅沢励

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