「LINE」も「YouTube」も使えない中国の最新ITサービス事情

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独自路線で進む中国のITサービスとは

中国について、知っているようで知らないことがたくさんあった。

ある時、ハローニュース編集部で働く中国人デザイナー、エイミーに「中国の友達と連絡を取る時は、LINEを使っているのか」と尋ねると、「中国にLINEはない」と言われた。

またある時は、「中国ではどんなユーチューバーが流行っているのか」と聞くと、「中国でYouTubeは見れない」と言われた。

またほかの機会に、「ネットショッピングはやっぱりAmazon?」と聞くと、「中国人はAmazonを使わない」と返された。

世界中で何億人というユーザーを抱えるIT企業が、なぜ中国ではサービスを展開していないのだろうか。理由のひとつが、中国政府の監視。政府は、ネット上で自分たちにとって不都合な情報が流れないよう目を光らせている。

そこで浮かんだ、素朴な疑問。このようなITサービスの利用を国が認めていないのであれば、中国人は日常生活において、一体どのようなITサービスを使って暮らしているのだろうか。

もちろん中国のIT企業は私も知っている。

去年の11月11日、独身の日に4兆1000億円をたった1日で売り上げた「阿里巴巴集団(アリババグループ)」やGoogleに次ぐプラットフォーム企業の「百度(バイドゥ)」、SNSやゲーム事業で最近よく耳にする「騰訊(テンセント)」など。しかし、こういった超有名企業でなくとも、中国で一般的に使われているサービスはまだまだあるとエイミーは言う。

その一例が下記になる。日本でもっとも使われているサービスと中国で使われているサービスと世界における月間アクティブユーザー数を比較してみた。

ちなみに中国の動画投稿サイトにも、ユーチューバーのように動画配信でお金を稼ぐユーザーは存在するそうだ。「Weibo(ウェイボー)」の女性ユーザー「Papi醤(パピジャン)」は、フォロワー数が2871万(2018年9月時点)おり、パピジャンが投稿した動画の視聴回数は数億回を超えるという。彼女の投稿動画の広告枠には、なんと3億7000万円の値が付いたというから驚きである。

主なサービスの月間アクティブユーザー数
<世界>
LINE:2億1700万人(2019年12月まで)
Facebook:23億8000万人(2019年3月時点)
Twitter:3億3300万(2019年4月時点)
<中国>
WeChat:10億8200万人(2018年9月まで)
Weibo:3億9200万人(2017年時点)

主なサービスの売上高
<世界>
Amazon:約6兆8914億円(2019年)
楽天市場:1兆1015億円(2018年度)
<中国>
アリババグループ:1兆9042.72億円(2019年)

WeiboのTOP画面

また、ネット上で様々な人と自由に質問や討論ができる「知乎(チーフ―)」、スキルシェアができる「小紅書(シャオフォンシュウ)」などがあり、中国では主に「人」と「人」をネットで繋ぎ、「時間」と「役務」をシェアするサービスが人気だという。エイミーの友人も、こうしたシェアサービスを利用して毎月40万円ほど稼いでおり、お小遣い稼ぎ程度に誰でもやっていることだと教えてくれた。

知りたいことを気軽に聞ける(知乎)
依頼したいことを投稿する(小紅書)

他には、中国人はお腹が空いたらスマホで宅配サービス「餓了么(ウーラマ)」にアクセスし、職場までランチを届けてもらうのが一般的とのこと。日本でも人気の「Uber Eats」のようなサービスだが、配送員に厳しい登録条件などはなく、気軽な気持ちで「家が近いから届けてあげよう」という親切心で配達している人がほとんどだという。また、大衆料理はもちろん、オーガニックや糖質制限といった様々なメニューから料理を選べることがユーザーに人気で、利用者数は2.6億人(2017年)に上る。

エイミーは「中国人は日本人のように毎日決まったコンビニで、同じようなランチを食べたいとは思わない。決められた商品しか売っていないコンビニでは満足できないから」と言い、ウーラマを利用して毎日違った料理を注文し、ランチを楽しんでいるんだと笑った。

このように、中国人は日本人よりもITサービスを気軽に利用し、日常生活に役立てている。

チャットスタイルで会話ができる(Wechat)

浸透しているキャッシュレス文化

ここまでITサービスが拡大しているのには理由がある。アリババグループが提供する「ALIPAY(アリペイ)」やテンセントが提供する「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」などが提供しているスマホ決済サービスの普及だ。

中国は昔から偽札問題により自国通貨に対して信頼性が低いうえ、省ごとに銀行の決済システムが異なっていたことから、送金トラブルが頻発していた過去がある。そこで中国政府が主導となり、2002年に「銀聯(ぎんれん)カード」という、いわゆるデビットカードを発行。以後、現金よりもカード決済が増え、2015年には発行枚数55億枚、決済額が1兆9000億ドルで世界1位になるなど、中国にキャッシュレス文化が根付いた。

そんな中で、スマホ決済サービスが登場し、ショッピングはもちろん、公共機関の支払いや友人とのお金のやり取りですらスマホひとつで行えるようになった。事実、中国の調査機関「iiメディアリサーチ」によると、2019年のスマホ決済による消費額は、中国では消費全体の65%を占め、2位のイギリスの23%を大きく上回っている。また、取引規模は約4383.5兆円(2018年)で、前年比137%増加。7億人近い利用者数がおり、年々拡大している。

スマホに表示されたQRコードを提示するだけで、支払いが完了する

ITと親和性の高いキャッシュレス文化が浸透しているからこそ、中国人は様々なITサービスを気軽に利用できるのだろう。支払い方法をひとつにまとめることができ、明瞭、かつ簡潔に済ませられることは、利用者側にとって大きなメリットになりうるからだ。加えて、サービスのほとんどを中国企業が提供していることで、決済システムの違いによるトラブルも起きにくい。

「スマホ決済ならスマホ上に表示されたボタンを押すだけで支払いできます。クレジットカードとは違い、スマホさえあればいつでもどこでも決済できるので、外出先でも気軽にITサービスが利用できるんです」(エイミー)

中国のITサービスはいまだ発展途上段階

日本は、江戸時代に鎖国政策を取ってきた。およそ260年の間、他国の文化に触れなかったことで、日本独自の文化が発展してきたと言われている。

中国も今、国の政策により外国から入ってくる情報を一部シャットアウトし、ITサービスの利用を制限している。結果、国内企業の台頭があり、独自のITサービスが急激に発展してきた。

カテゴリーごとに商品を検索できる(淘宝)

しかし一方で、こうした囲い込み政策には「井の中の蛙大海を知らず」というデメリットも少なからず生まれる。例えば、日本がスマホの開発面で世界から遅れをとるきっかけとなった、ガラケー問題だ。メーカーごとに独自のOSを搭載していたことで世界標準から外れ、海外市場に進出できずに孤立してしまった。

今後、中国のデジタル文化はどのような結果をもたらすのだろうか。今回はエイミーとの何気ない会話の中から中国のデジタル事情を知ることができたが、これからの行方については私自ら興味を持って追っていきたいと思う。

Hello News編集部 鈴木規文

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