<第6回>東京・池袋のボロビル再生請負人

山田武男


1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

目次

おいしいオフィスを探すには?~プロが勧める穴場の仕事場探し~

COVID19情勢下の昨今、オフィスビルの賃料が下がってきそうな予感がしているが、当社にも縮小移転の問い合わせが徐々に増えてきた。

会社の縮小移転も起きそうなこの時期、おいしい物件はどのように探せばよいのだろうか。プロ目線でお伝えしたい。

1.好景気、不景気、どちらにしても取引はある

テレビを見ていると、世の中全ての経済活動が止まってしまうかのような不安を覚えるが、どっこい世間はちゃんと動いている。話題のリモートワークを実現できるのは大企業ばかりで、我々のような中小企業は緊急事態宣言中も出社していたわけだ…(おかげで電車が空いていて助かった)。

5月の不動産取引は売買、賃貸ともにかなり減ったが、緊急事態宣言解除後は一転して物件の問い合わせは急増している。仲介会社が5月の売上減を取り戻そうと活発に動いているようだ。

また、中小企業の経営者は来るべき不況に備え、世間よりも半歩先に動いていて、縮小移転のための物件探しに余念がない。

知り合いのビルオーナー(品川区)は、飲食テナント、オフィステナントが同時期に解約が出て焦っていた。聞くとどちらも移転先があるようで、つぶれる前に縮小移転先を確保した賢明なテナントだった。

業者仲間の管理物件(豊島区)では、4件のテナントが解約。うち2件は中国企業が撤退するようだ。

飲食テナントの撤退が相次いでいる

2.居抜きが人気

この数年、居抜き物件が人気だ。

各仲介業者も、居抜き専門サイトを立ち上げ、物件は業者間で取り合いになっている。特に、家具付き、内装付きで、なかでも会議室パーテーションがある物件が人気だ。

20坪程度のオフィスでも100~200万円の初期費用がかかる上、まともなオフィス家具をそろえ、受付、会議室を仕立てていくと、あっという間に内装費は300万円を超える。

景気後退の縮小移転で500万円もかけている場合ではない、という経営者に居抜きは人気だ。

居抜きには2種類あり、テナントが内々で次期テナントを探すものと、オーナー自ら居抜きとして募集するものだ。

家賃が隙間なくもらえるので、オーナーも喜ぶと思いきや、原状回復の引継ぎや、次期テナントの与信によっては嫌われることもあるので注意が必要だ。

居抜き物件が人気

3.複数業者が扱っている物件が狙い目

プロから見た時に、人気のない物件、長く空いている物件はすぐにわかる。それは、複数の業者が扱っている物件だ。

旬な物件は、すぐに成約してしまうので、複数業者が扱う暇もないのだ。

もちろん誰が見てもよい物件は競争になり、複数業者が群がることもあるが、不人気物件は長期間放置されている物件が多いので、だんだん取扱い業者が増えていくのだ。

長期間空いているということは、交渉にも応じる可能性がある。

4.申込を出すことが交渉のはじまり

前述のような物件を見つけ、気に入ったらまず申し込みをしよう。

いつもご案内時に伝えるのは「契約ではないので大丈夫です」ということ。実際、契約書に判子をつくまでが契約なので、そこまではキャンセルのチャンスがあるし、我々にとって申し込み後のキャンセルは日常茶飯事だ。

ちなみに、申込書を出さずに交渉しても、良い回答は得られない。へたなことを言って、噂が広まらないとも限らない(あのビルの腹値はこれくらい…、など)。
※腹値とは「このくらいでならいいかな」と貸し主が考えている値段のこと

仲介業者と相談の上、ぎりぎりいっぱいの希望値、希望条件を申込書に書いてみよう。

申し込みが交渉のはじまり

5.ブツモトを狙え

わりと高度なテクニックだが、つきあうなら「ブツモト」が良い。

ブツモトとは、オーナーのために客を探す業者のことで、客のために物件を探す立場(客付け)とは考え方や活動の内容までかなり違っている。
(筆者は15年間、業界にいて、その差が大きいことに気が付いた)

世間の不動産屋は客付けとブツモトに分かれていて、一般的には客付けが多い。管理会社や、地主とのつながりが強い地元業者は、ブツモトであることが多いだろう。

ちなみに当社はブツモトだ。

ブツモトは、オーナーの腹値や応じそうな条件、好む業種まで熟知しているので、情報量が多い。惚れた物件なら、管理会社や現地看板などの業者に連絡をとると、ブツモトと出会える可能性が高くなるので、注意してみよう。

注:自分の好みの物件を探すなら客付業者がオススメだ。

6.出世ビルか?

世の中には「出世ビル」というものが存在する。

「運」のようなものに近いが、そのビルに入居すると企業が成長するビルだ。

ベンチャー企業界隈では、あの企業の居ぬきに入居したいとか、あの会社が出たビルなら…、とかいって、人気が出ることがある(一時の六本木ヒルズがそうかもしれない)。

筆者も数多くの物件に関わってきて、そのビルから何社も上場企業が生まれたとか、すぐに拡張移転していくようなビルを何度も見てきた。

いくつか要因があり、与信審査が良かったり、オーナーの面倒見が良いとか、共用部の修繕・改修が定期的になされていたり、居心地が良いビルであることが多いのはたしかだ。ベンチャー企業や外資系に寛容だったりすることも要因のひとつかもしれない。

面白いテーマで本稿ではすべてを語りつくせないので、また書きたいと思う。

出世ビルが成長の鍵?

いずれにしても、不動産業界は大きく変化するだろう。

冒頭にも書いたように、常に賃貸ニーズはあり、出店を強めている業種もある。

ここ数カ月では、プライベートジムやYouTube配信スタジオの案件が多くなっていて、この情勢下ならではの業種と感じ、不動産の奥深さを改めて感じている。

次回は、本社オフィス「借りるか、買うか」についてお伝えしたい。

ボロビル再生請負人 山田武男

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