木津雄二さんは、この半年、精力的に全国のオーナー会を訪問している。
今年1月から6月までの間で、訪問、時にオンラインで賃貸オーナー向けに行ったセミナーの回数は、60回。
オーナーに対して訴えたい2つのことが、彼を突き動かしている。
- ポータルサイトのメカニズムに詳しくなってください。
- それを自分で操れるようになってください。
「SUUMOを制す者が募集を制す」
「マーケター理論」では、物が売れない理由は次の二つしかないと言われている。
- 商品に魅力がない。
- 存在が知られていない。
賃貸住宅を物と考えた時、売れないというのは、空室状態であることだ。
木津さんが解決したいのは、後者だ。
数字を上げて説明する。
「部屋探しをしている人は3つ内見していません。決め打ちで来ることがほとんどですから、ネットでいかに魅力的に見せるかが大事」
「マイソクはあくまでも補足情報だと思っている人が多い。7割はネットからの反響と思ってください」
「ポータルサイトに掲載するには管理会社や仲介会社が掲載料を払っています。SUUMO、アットホーム、ライフルと載せれば載せるほど、費用がかさみますし、パノラマや動画で載せると別途費用がかかります。ですから、毎月例えば50物件までとか決めている会社が多く、まずは載せてもらえる物件になることが大事です」
管理戸数が多い管理会社であれば、ポータルサイトに、月1000万円単位で掲載料を支払うこともあるそうだ。正直に言って、私も知らなかった。驚いた。
それだけの費用を支払う以上、「効果の上がらない物件=反響の出ない物件」は、すぐに商品棚から降ろさせる。考えてみたら当然のことだ。しかし、商品の提供者であるオーナー自身が、そのことを知らない。
「問い合わせが出ない物件を掲載から落とすのは無理もないんです。お金どぶに捨ててるようなものですから。厳しい言い方ですが、その瞬間、大家さんの空室は市場から消えるんです」(木津さん)
これが、冒頭の
- ポータルサイトのメカニズムに詳しくなってください。
- それを自分で操れるようになってください。
のうち、1の理由だ。2については後述する。
”反響高物件”になるにはコツがある
SUUMOには約730万もの賃貸住宅が掲載されている。
その中できらりと光る反響高物件になるには、実はコツがあると言う。
木津さんは、元リクルート社員という立場から、そうしたことを知っており、オーナーに情報提供している。
例えば、「ヒットしやすい条件(例えば、WIFI無料・宅配ボックス付き等)を必ず記載する」など当たり前のことから、知る人ぞ知るというコツもある。
また、間取り、外観、キッチン、リビング、お風呂の5枚の写真と、別種類の2種類、合計7枚があると、SUUMOから目立つ帯(ハイライト表示)をつけてもらえるため、より画面上で際立つという裏技もある。これで反響率では1.2倍の差が出るという。
さらに重要なのがコメント欄だ。
コメント欄はスペック画像では伝えられないオーナーの思いや物件の良さを文字で使えることのできるコーナーだ。
例えば、こんな文章を載せている女性のオーナーがいる。
「子育て支援、ずっとお家賃5,000円オフ」
子育てファミリーに寄り添いたい、オーナーの想いが伝わるコメントだ。
しかし、多くの物件が、この欄を
「お部屋探しは当店へ」とか「お問い合わせ後10分以内に返信させていただきます」とか「オンライン内見可能です」とか、管理会社の宣伝に使っている。
中には無記入の物件もある。
「せっかく物件の魅力を伝える場があるのに、これほどもったいないことはないんです」木津さんは訴える。
汗流すオーナー達との出会いから生まれたアイデア
「木津っち」の愛称で呼ばれる木津さん(37歳)は、全国を周り、飲み会ともあれば朝まででも、大家さんの悩みや夢をとことん語り合う気さくな男だ。
慶應義塾大学商学部を卒業後、新卒で入社した会社はリクルートコスモスだった。そこでは開発用地の仕入れを経験した。4年後、東京・赤坂の管理会社に転職。担当する管理物件は一人600戸~1000戸で、オーナー対応と物件管理に駆けずり回る日々を過ごした。転機となったのは、リクルートへの入社だった。
リクルートでは、営業として不動産会社を周り、不動産と広告の関係性を学んだ。3年後、新規事業開発室に配属され、営業活動で全国のオーナーと会う機会を得た。オーナーの中には、自ら工夫して入居者募集をする人や、入居後のサービスに熱心に取り組む人がいた。目から鱗の体験だった。
木津さんは、汗を流すオーナーたちと触れ合う過程で、「賃貸経営の主役はオーナーと入居者だ」と実感しつつも、実際にはそうはなっていない構造や慣習を知るようになる。
オーナーに訴えたいことの2つ目である、「それ(ポータルサイト)を自分で操れるようになって下さい」という思いを抱くようになったのはこの頃だ。
「ポータルサイトと物件所有者であるオーナーとの間に、システムを作れば、募集条件や写真の投稿などをオーナーの意思でできるようになるのではないか」
「オーナーが自身でそれをできるようになれば、仲介会社など他人に任せるより、より内容の濃い書き込みができるようになる。そうすれば、より正確に、物件の情報が閲覧者につながるのではないか」
ECHOESの元となるアイデアが生まれた瞬間だった。
2017年頃、リクルート社内で開発することを提案し、実際に動き始めたものの、経営陣の交代などで白紙に。すでに複数のオーナーに開発を宣言していただけに、申し訳ない気持ちと、必ず必要なシステムだという確信とが交錯した。
「それなら自分で作ろう」
木津さんは、2018年12月、退職を決めた。
リクルートを辞めたはいいが、晴れてECHOESの開発に着手するも手持ちの元手は1000万円ほどで、必要な資金には程遠かった。
まずはお金を貯めるのと、実務経験を積もうと、西荻窪駅前のカエルホームズという不動産仲介店舗を知り合いから譲り受けた。そして、自分で物件を見に行き、問い合わせを内見につなげ、成約に至ると、契約書を作って重要事項説明をし引き渡すという日々を、2年間繰り返した。この時の経験が、ECHOESの開発に生きている。
実際のところ、「実務をやってみて、かなりの変更点が生まれた」と振り返る。
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Hello News編集部 吉松こころ
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