中小企業こそ取り組むべき「健康経営®」という経営戦略

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

3月の記事「少子化の先にあるのは、静かな消滅か、それとも再生か」でも触れたが、日本の人口は減少を続け、少子高齢化が加速。2025年は団塊の世代がすべて後期高齢者となる年だ。医療費の増大や労働人口の急減といった課題が、いよいよ現実味を帯びてくる。そんな少子高齢社会に対応するため、政府が重要な政策として位置づけていることのひとつが「健康経営」だ。

今回は、健康経営アドバイザーとして活躍する市岡めぐみさんに、健康経営の意義と、中小企業におけるメリットや注意点について聞いてみた。

市岡めぐみ
健康経営プランナー/EnLinks代表

セラピスト歴16年。個人支援で培った解決志向アプローチをもとに、現在は中小企業の健康経営支援に注力。愛知県を拠点に、東海エリアを中心に活動し、「認証取得」で終わらせない実装型の伴走支援を行っている。離職防止・組織改善・広報戦略までを一体で設計し、経営課題に現場からアプローチ。医療・心理・食・運動など各分野の専門職と連携しながら、経営戦略としての健康経営を多角的にサポートする。女性のライフステージ支援や、地域資源を活かしたウェルネスリトリート事業にも取り組んでいる。

目次

「健康経営」が必要なワケ

団塊の世代が、医療費負担が一割である75歳になると、医療費は必然的にひっ迫する。医療や社会保障を保つためには、「健康で長く働く人を増やす」ことが求められている。すなわち、寝たきりや生活習慣病を未然に防ぐ「予防」の視点が、これまで以上に重視されているというわけだ。
加えて、仕事によるメンタルヘルス不調は増加傾向にあり、特に若年層で顕著。企業には、従業員のメンタルヘルスを守るための対策を強化することが求められている。

これまで個人が行っていた健康管理を、企業が経営的な視点で考え、戦略的に実践する取り組みが「健康経営」だ。

企業の義務「ストレスチェック」

政府は2015年12月1日から従業員50人以上の事業所に対して、毎年1回以上のストレスチェックの実施を義務付けている。これまで、50人未満の事業場については努力義務とされていたが、2025年5月8日に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が衆議院で可決・成立し、50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務化されることになった。これにより、遅くとも2028年5月までにすべての事業場でのメンタルヘルス対策が強化される見込み。

「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析すること。労働者が自分のストレスの状態を知り、ストレスが高い状態にある場合は医師の面接を受けたり、会社側に仕事の軽減などの措置をお願いするなど、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みである。

「チェックするだけかよ」とあなどるなかれ、長年セラピストとして活躍してきた市岡さんの経験では「予防」が大切だという。メンタルに不調をきたし、「治療」が必要になる前に、「もっと早く来てくれれば」ということが多いそうだ。まずは予防。そして、ちょっと不調だと感じたら、早めの対策を心がけよう。

中小企業の注意点

ストレスチェック制度が義務化される前に、ぜひ確認しておきたいのは「高ストレス判定者の取り扱い」。制度上、個人の判定結果は本人にのみ通知され、企業は個別の回答内容にアクセスすることはできない。
しかし、もし労働者が意図的に高ストレス回答を選び、面接を希望した場合、医師から何らかの診断が下される可能性がある。その結果、長期の休職が発生すると、特に小規模事業所では経営に大きな負担になりかねない。

対策ポイント

  1. 就業規則の見直し
    休職期間の上限を明確にし、更新手続きや復職条件を定める。
  2. 予防的ケアの導入
    ストレスチェック後の職場改善計画を策定し、産業医やカウンセラーによるフォロー面談を活用。
  3. 社内コミュニケーション強化
    定期的な意識調査やハラスメント研修を実施し、未然にリスクを把握・対処。

これらを事前に整備しておくことで、休職リスクを最小化し、健全な職場づくりにつながる。

健康経営優良法人に認定されるメリット

健康経営には顕彰制度がある。優良な健康経営を実践している企業を、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人認定制度」だ。大規模の企業等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門を設けている。
また、「健康経営銘柄」は健康経営度調査を受けた上場企業のなかで、特に評価の高い企業を選定する制度で、東京証券取引所と経済産業省が共同で選定している。

【認定制度の種類と対象企業】
健康経営優良法人…基準を満たした全ての会社が認定対象
健康経営優良法人 ブライト500…中小規模法人部門における上位500社が認定対象
健康経営優良法人 ホワイト500…大規模法人部門における上位500社が認定対象
健康経営銘柄…33業種中、原則1社ずつ※が選定対象
※特に優れた会社が多い場合には、1業種につき最大5社まで認定。ただし同率企業が6社以上の場合は、そのすべてを認定。

「健康経営優良法人」に認定されると、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となり、健康経営に取り組む企業であることを見える化し、世間にPRすることができる。

出典:経済産業省「これからの健康経営について」(2025年4月)

「健康経営優良法人」に認定されている企業は、社会的な評価を得られ、新規採用では「安心して働ける会社」であると認識されるほか、国や公共団体・公法人等の補助金申請時に加点などの優遇措置が受けられたり、融資で優遇利率が適用されたりするしくみもある。

中小規模法人部門の認定基準

2016年の制度開始以降、健康経営に取り組む企業の裾野が急速に拡大し、健康経営優良法人認定制度に申請する法人数は約2万社にのぼる(2024年)。
評価項目は、さほど難しくはない。

下図は2025年認定基準案だ。1.は、健康宣言を発信し、経営者が健康診断を受けていればクリア。2.は、担当者を決める。ただし、担当者の負担とならないよう細かいところは外部のサポーターに依頼することをおすすめする。
3.(1)③のストレスチェックの実施は、前述のとおり、今後は必須になってくる。
例えば会社でマラソン大会を企画したとする。それは、(3)⑩の運動機会の増進に該当し、3.(2)⑥コミュニケーションの増進にも該当する。3.(3)受動喫煙対策としては、喫煙するときは喫煙場所に行くことを会社のルールにする、といった具合。

データヘルスの視点を取り入れ、健診結果やストレスチェックの集計結果を活用した課題分析・改善提案が求められるようになってきており、健康経営の実効性を高める手段として重要視されている。

注意していただきたいのは、これらの要件に対して、労働者の意向を汲むこと。よかれと思った健康経営で反感を買ってしまったら本末転倒だ。だからこそ、市岡さんのような外部のサポーターが存在する。

認定の有無が人材確保に影響?!

健康経営は、企業が従業員の健康を経営の視点でとらえ、戦略的に実践すること。10年先も存続する企業であるための、攻めの投資だともいえる。

少子高齢化と人材不足が進む中で“選ばれる企業”になるためには、健康経営の認証の有無が基準のひとつとなるだろう。特に若い世代ほど、メンタルヘルスやワークライフバランス、心理的安全性への関心が高く、企業の健康への取り組みに敏感だ。採用だけでなく、健康経営によって従業員のストレスや体調不良が減れば、離職率の低下にもつながっていくだろう。

健康経営を行うことにより、社員の病欠日数が減ったり、社員の生産性が向上したりするなど、会社の利益につながる成果が期待できる。また、“人を大切にする会社”という信頼が、次の人材を引き寄せる。健康経営は、ブランディング戦略のひとつにもなる。
健康経営は企業が成長するための経営戦略と言えるだろう。

Hello News 編集部 柳原 幸代

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