少子化の先にあるのは、静かな消滅か、それとも再生か

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2023年の出生率、東京都がついに「1」を下回る

厚生労働省は2024年6月、2023年の人口動態統計を発表した。
2023年に生まれた子どもの数は72万7277人で、前年より4万3482人減少。統計開始以来、最少の出生数となった。
死亡した人の数は157万5936人と、統計開始以来、最も多かった。約8割は75歳以上の高齢者である。

「合計特殊出生率」(以下、出生率)も統計開始以来の最低値を更新し続けている。
出生率は1人の女性が一生のうちに産む子どもの数を表した指標で、総人口を維持するためには、出生率はおおむね2.07を保つ必要があるとされる。2.07を下回るようになれば、いずれ総人口が減少することを意味するのだ。
2023年の出生率は1.20で、前年の1.26よりも0.06低下。すべての都道府県別で前年よりも低くなっているが、最も低いのは東京都で、1を下回りついに0.99となった。

しかし、これは新しい問題ではない。1947年に4.54だった出生率は1974年に2.07を下回り、以降、出生率の回復には至っていない。日本の総人口が減少することは、1974年にすでにわかっていたと言える。

少子化と人口減少の実態

1人あたりの女性が生む子どもの数が1.20にまで減少し、生まれてくる子どもの数は、ピーク時の4分の1程度にまで減少した日本。現在の人口と、今後の予測を見てみよう。

日本の人口は2010年をピークに減少しはじめ、国勢調査による2020年の人口は1億2615万人であった。
死亡中位とした場合の2070年の推計は、出生中位推計で8,700万人、出生高位推計では9,549万人、出生低位推計では8,024万人になると推測される。
1953年の日本の人口は8,698万人、1948年の人口は8,000万人(いずれも総務省「日本統計年鑑」より)であるから、人口が減ったとて、「昔に戻るだけではないか」と思われるかもしれない。しかし、これからやってくる急激な人口減少では、人口構成がかつてとは全く異なるのだ。

年齢構成の変化

人口ピラミッドの変化を見てみよう。
1950年の年齢構造を見ると、年少人口(15歳未満)が多く老年人口(65歳以上)が少ない「富士山型」だ。

2020年になると少子高齢化が進み「釣鐘型」となり、2070年は「壺型」になると推計されている。見てのとおり、上が重くて下が細い不安定な構造は、高齢者が非常に多く、若年層が極端に少ない人口構成がわかるショッキングな形状だ。

2070年に0~14歳が総人口に占める割合は、出生中位推計の結果によると9.2%。1割を切ってしまうのだ。このとき、65歳以上が総人口に占める割合は38.7%。なんと、2.6 人に1人が65歳以上ということになる。

迫りくる静かな危機

出生率の低下は、私たちの暮らしにゆっくりと深刻な影響を及ぼす。すでに人手不足を実感している企業も多いことだろう。年金や医療などの社会保障制度の負担増加による持続可能性も懸念される。地域によっては、過疎化による地域経済の停滞や、インフラの維持が困難になる可能性もあるだろう。
 
2024年4月、民間の有識者グループ「人口戦略会議」は、1729ある自治体のうち744の自治体に消滅の可能性がある」とした分析を発表した。
20~39歳の女性人口の将来動向に着目し、その減少率に応じて9つの人口特性に分類している。「消滅の可能性がある」とされた744の自治体は、2050年までに20~39歳の女性人口が50%以上減少すると推計された自治体で、同会議では「消滅可能性自治体」と呼んで警鐘を鳴らしている。
「消滅」が現実となる前に、少子化に歯止めをかけることはできるのだろうか。

子どもを産み育てたい社会にするために

人口戦略会議の提言「人口ビジョン2100」(2024年1月)では、日本政府の少子化対策の遅れや、地方創生の取り組みが不十分だと指摘。スウェーデンやフランスが、家族政策などの強化をはかり出生率を回復させたことや、ドイツが若者世代の仕事と子育ての両立を可能とする働き方改革に取り組み、2011年に1.36だった出生率が5年間で1.60にまで急上昇した例をあげた。
日本の取り組みに遅れはあるものの、まだ挽回は可能。決して諦めず、世代を超えて取り組まねばならないと説いた。
 
また、同提言では「若者や女性が希望を持てる環境づくり」を重視しており、若者世代の結婚や子どもを持つことに対する意欲低下の背景についても触れている。「自分は子どもも家庭も持たないだろう」と考える未婚女性は、3分の1を占めるという。若者世代の多くは子どもを持つことをリスクや負担として捉えている。なぜなら、共働き世帯が全体の7割を超える現代においてもなお、出産による女性の負担は大きい。出産時に女性が退職したり、働き方を変えたりせざるを得ないケースが多い。それにともない収入も減少する。
また、子育て世帯が2人目の子どもを持つことを躊躇する理由として、夫の育児参加が期待できないことがあげられている。こうした一つひとつの課題に、行政も企業も向き合っていかなければ、少子化の流れは到底変わらない。
若者や女性が希望を持てる環境づくりがなによりも大切だという声も忘れてはいけないだろう

同提言がのぞましいとする未来の姿は次の5つ



① 一人ひとりが豊かで、幸福度が最高水準の社会
国民一人ひとりの豊かさや「幸福度」、「Well-being」が世界最高水準の社会。例えば、国民一人当たりの「可処分所得」。また、子育てに充てる「可処分時間」や社会における「格差の小ささ」、「健康寿命」の長さ、などの指標が考えられる。

②個人と社会の選択が両立する社会
結婚や子どもを持つかどうかは、個人が自由な選択によって決めるべきことです。少子化社会とは、その「個人の選択」と、社会経済全体が持続し成長することを目指すという「社会の選択」とが“対立”している状況と言える。少子化の流れが変わるということは、この個人と社会の選択が“両立”している社会を実現することに他ならない。

③多様なライフスタイルの選択が可能な社会
学び、働き、家庭や子どもを持つこと、といった自らのライフスタイルを、年齢や環境にかかわらず多様に選択できるような社会。

④世代間の「継承」と「連帯」を基礎とする社会
現世代に求められる責任という視点において、将来世代に社会・地域が確実に引き継がれ(継承)、世代を超えた「つながり(連帯)」がある、未来に向けて安定した構造を有している社会。

⑤国際社会において存在感と魅力のある国際国家
国際的な政治・経済・文化などの面で一定の発言力・影響力と魅力を有し、国際貢献をなし得る国家。

まとめ

少子化という現実は、社会の構造そのものを問い直すきっかけでもある。
子どもの有無や結婚の有無にかかわらず、私たちには、これからの若者が希望を持てる社会を、ともにつくっていく責任があるのではないだろうか。

Hello News 編集部 柳原 幸代

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