重大な健康被害で大家に賠償判決も、未だ残る鉛製の給水管

水道メーターイメージ

山口県の30代男性は、アパートの水道水に含まれる鉛により深刻な健康被害を受け、車いす生活を余儀なくされている。山口地裁は「症状は水道管から溶出した鉛に起因する」と認め、大家側に約700万円の賠償金支払いを命じたと大きく報道された。

前回の記事では、有機フッ素化合物 PFAS の水道水汚染について取り上げた。だが、水道水の安全を脅かすのはPFASだけではない。かつて広く使われた鉛製給水管が、今もなお日本各地に残っているのをご存じだろうか?

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鉛製給水管とは何か、そのリスクとは

鉛製給水管(なまりせいきゅうすいかん、以下、鉛管(えんかん))は水道水を建物に引き込むためのもの。1980年代以前の建物に多く使用され、加工しやすさと耐久性から鉛が採用されていた。しかし鉛管の中に長い時間水が滞留すると鉛が溶出し、特に子どもの発達に悪影響を及ぼす健康被害のリスクがあることがわかっている。現在では新築での使用が禁止されており、自治体による交換事業も進められている。

鉛管が使用され続けていると、水道水の安全性が確保されない。特に夜間や長期不在の後に使う水は、鉛濃度が高くなる。そういった水は飲まずに流してしまうか、掃除などに使用するようにしなければいけない。鉛管の劣化によっても鉛の溶出量が増加するため、古い鉛管は特にリスクが大きい。

2004年、厚生労働省が鉛管の全廃を目標に掲げたことで、ようやくリスクが認識されるようになったものの、2023年時点でも約203万件が使用されている(公益社団法人日本水道協会調べ)という。

WHOは鉛中毒のキーファクト(主要な事実)として、次のように発信している。

  • 鉛への曝露は身体の諸器官に影響を与える可能性があり、特に幼い子供や出産適齢期の女性にとっては有害です。
  • 鉛は、脳、肝臓、腎臓や骨に分布します。鉛は時間の経過とともに歯や骨に蓄積されます。 人体への暴露は血液中の鉛を測定して評価します。
  • 2021年には、鉛への曝露が主な原因で、世界中で 150 万人以上が心血管系への影響により死亡したとされています。
  • 骨に含まれる鉛は、妊娠中に血液中に溶出し、発育中の胎児が鉛に暴露する原因となります。

WHO ファクトシート 鉛中毒 2024年9月27日より抜粋

WHOは飲料水中の鉛のガイドライン値を0.01mg/L(10µg/L)と定めており、日本の「水質基準に関する省令」で定められた鉛の基準値も0.01mg/L以下であることが求められている。

遅々として進まない鉛管撤廃

なぜ危険な鉛管が今も使われているのか。
まず、給水管の管轄は、水道事業者である市町村と、建物の所有者とに分かれている。

市町村の管轄範囲は、道路の地下に埋設されている水道管および、水道メーターの手前まで。

住宅、マンション、アパートなど、建物の所有者の管轄範囲は、水道メーターから先の建物内の配管。水道メーター以降の配管トラブルは個人(建物の所有者)の責任となり、鉛管の交換も個人の責任となる。費用負担の問題から交換が進まず、古い建物を中心に鉛管が残存している状況が続いているのだ。

大家側に700万円の損害賠償命令

2025年2月14日の報道によると、自宅アパートの水道水が原因で健康被害を受けた男性が、アパートの大家に損害賠償を求め山口地裁に提訴。鉛中毒が「水道管から溶出した鉛に起因する」ことが認められ、2022年に大家側は約700万円の支払いを命じられた。(2025年2月14日読売新聞オンライン)

大家の責任と対策

この裁判で大家が損害賠償の支払いを命じられた理由は、建物の給水設備は大家が維持管理する法的な義務があるためだ。水道メーター以降の給水管も前述の通り、建物の所有者である大家の管轄となり、安全性確保も大家の責任である。
築年数が古い建物では、給水管の素材が鉛管である可能性があるため、1980年代以前に建てられた物件を所有している大家は、早急に給水管の調査を行うべきだ。もし鉛管が使用されている場合は、ポリエチレン管やステンレス管などの安全な配管に交換する必要がある。

鉛管を使い続けることに法的な罰則はないものの、リスクは大きい。

  • 健康被害リスク
    鉛中毒の可能性(特に幼児や妊婦に影響)
    神経障害、発達障害、貧血、高血圧などの健康リスク
  • 法的責任リスク
    住民(入居者)からの損害賠償請求
    裁判で責任を問われる可能性
  • 不動産価値の低下
    古い鉛管が使われていると、売買や賃貸契約時に敬遠される可能性がある。
    鉛管の交換を行っているかどうかが、不動産の評価に影響することも。

まとめ

鉛製給水管の問題は、2004年に掲げた目標を達成できずに今もなお続いている。まずは、住民・大家・自治体、それぞれがこの問題を認識し、私たちの暮らしに欠かせない安全な水環境を確保するために行動することが求められている。

各自治体では、鉛製給水管を使用している人へ個別に周知したり、鉛管の対策として朝一番や、旅行などで長期間水を使用しなかった場合は、バケツ1杯くらいの水を、トイレなど、飲み水以外に使用することを呼びかけたりするなどの対策を行っている。中には取替工事に対する助成金を交付している自治体もある。

健康を守るために、そして未来の安全のために、私たちができることから始めよう。

Hello News 編集部 柳原 幸代

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