
2025年1月28日、岡山県吉備中央町の住民のPFAS(ピーファス)血中濃度が米基準の7.6倍だったことが報じられた。
吉備中央町の円城浄水場では、2023年にPFASが高濃度で検出された。それを受け、町は2024年11月から12月にかけて、希望者を対象に公費による血液検査を実施したのだ。PFASのうち有害性が指摘されるPFOA(ピーフォア)やPFOS(ピーフォス)を含む7種類について調べた結果、血液中の濃度は、7種類の合計で平均1ミリリットルあたり151.5ナノグラムだったという。この数値は前述のとおり、アメリカ基準の7.6倍で、検査を受けた人の9割近くがこの値以上だったという。
PFASとは
PFASとは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称で、一万種類以上の物質があるとされている。
PFASは耐熱性、耐油性、耐水性に優れた合成化学物質群で、中でもPFOSとPFOAは、2000年代はじめ頃まで、食品包装、衣類等の撥水加工、焦げ付かない調理器、歯間フロス、化粧品、泡消火剤、カーペットや家具など、さまざまな製品に使われてきた。
だが、この合成化学物質は「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれている。
なぜなら自然界で分解するのには数千年かかるからだ。人体に対しても蓄積性があり、PFOSは半減までに5年、95%を排出できるまでに40年かかるという。

PFASの人体への影響
実は、アメリカでPFAS産業の中枢にあった企業では、1950年にはマウスの実験でPFASが血液中に蓄積することを発見していた。動物実験や人体実験、従業員への被害調査を続け、20世紀が終わるころにはPFASの有害性を示す膨大なデータが積みあがっていた。それにもかかわらず、企業はその情報を公表しなかった。
ことが明らかになったのは、一人の酪農家と弁護士の執念の努力があったからだ。牛や付近の動物が死ぬことを不審に思った酪農家は、企業の廃棄場を疑う。その原因をつきとめるために弁護士に相談したことがきっかけとなり、徐々にこの深刻な脅威が明らかにされていった。また、弁護士は調査結果を政府機関に送り、対策を講じるように求めた。
のちに企業と和解し、企業の費用で約7万人もの被ばく住民の健康調査が始まった。
そして7年を経て、次の6種の病気との関連性が確認された。
- 妊娠高血圧症ならびに妊娠高血圧腎症
- 精巣がん
- 腎細胞がん
- 甲状腺疾患
- 潰瘍性大腸炎
- 高コレステロール
また、日本の母子を対象としたケーススタディでは、PFAS曝露が子どもにおよぼす害を関連付けた
- PFASは出生時体重の減少に関連している
- PFOAは生後6カ月の女児の精神発達を阻害する
- PFOSは胎児の成長で重要な役割を果たす母体の脂肪酸レベルを低下させる
- PFOSとPFHxSに子宮内で曝露すると、子どもの免疫系を損傷し、乳児期の感染症抵抗力を減少させる可能性がある
PFASは成人よりも子どものほうが曝露しやすく、妊娠中の母がPFASに汚染されている場合は臍帯血を経路としてPFASが胎児に移動する。また、乳児には母乳からPFASが異動する。
その他のPFAS類においても、多くのリスクが判明している。
PFASはどうやって体内へ入るのか
工場、軍事基地、民間空港、ゴミ処理場、排水処理場などの施設からPFASが排出されると、河川や土壌、地下水が汚染され、汚染した土壌で育てた作物、汚染した河や海で育った魚、それらの食物連鎖で動物や人間も汚染されることとなる。
また、水道の水源となる河川やダムが汚染されれば、水道水も汚染される。
一般的にわたしたちが口にする水はほとんどが水道水なので、汚染されていない飲料水を確保することは、被ばくを防ぐ上で最も効果的な方法となる。
世界の状況
2009年以降、生態系や人体への懸念から、こうした化学物質の規制は国際的に進み、日本を含む180カ国以上(2023年11月現在)が加盟している「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)で、PFOAは製造・使用、輸出入の原則禁止(附属書A)、PFOSは製造・使用、輸出入の制限(附属書B)に指定され、日本を含む多くの国で製造・輸入等が禁止されている。
それでは各国の基準を見てみよう。
アメリカでは2018年に環境保護庁(EPA)長官が、PFAS汚染は「国家的な危機」だと宣言。2024年4月には水道水のPFAS基準を従来の合算で70ng/Lから、PFOS、PHOAそれぞれ4ng/Lと、大幅に厳しくした。

EU諸国では2019年、すべてのPFASの10年以内の廃絶を発表した。これは国連「持続可能な開発目標」(SDGs)の「すべての人に健康と福祉を」にある「2030年までに、有害物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる」にも適っている。
アメリカとヨーロッパでは、PFASがもつリスクについてマスメディアが活発に報道し、NGOや市民団体もSNSなどで啓発に加勢している。
アメリカの酪農家と弁護士が企業の環境汚染を暴いた話を前述したが、それは2019年に映画化されている。主演とプロデュースを務めたのは、環境保護の活動家という一面も持つマーク・ラファロ。アベンジャーズのハルク役といえばわかるだろうか。こうした映画を通じてますますPFASの認知は進むだろう。PFASの真実を描いた映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』は日本でも2021年12月17日に公開されている。
日本では、2024年12月1日にNHKスペシャル「調査報道新世紀File8 追跡“PFAS汚染”」が放映されていたが、その他にテレビでPFASの話題はあまり見かけない。ニュースですらあまり話題になっていないように思う。
日本の現状
日本では長らくPFASの基準は設けられていなかった。2020年にようやく水道水や河川での水質管理上の暫定目標値をPFOSとPFOA合計で50ng/Lと定めた。ただし、2025年現在、この基準値を超えた場合に水道事業者らに基準値以下に下げる法的義務はない。
2024年12月環境省は、水質検査をはじめ、基準となる数値を超えた場合の改善を法律で義務づける方針を決めた。基準となる数値は現在の暫定的な目標値と同じ50 ng/Lとし、2026年4月から施行される見通し。
日本でPFAS濃度が高いのは、東京都では立川市、調布市、渋谷区など。立川市の高汚染は、地理的に考えて横田基地が寄与している可能性が極めて高いが、立ち入り調査が許されていない。
大阪府摂津市は地下水のPHOAが21,000 ng/Lと、基準値の420倍にあたる非常に高い値。これはPHOAの汚染源であった工場があるため。
冒頭でお伝えした岡山県吉備町吉備中央町の場合は、山中の資材置き場に野積みされていた使用済み活性炭が原因とみられる。これを調べたところ、最大で450万ng/LのPFASが検出されたという。活性炭に付着したPFASが流出し、河平ダムに続く沢の水を汚染していた。
沖縄の嘉手納町の地下水では、合計で2,100 ng/Lという結果が出た。こちらも米軍基地の泡消火剤が原因と考えられるのではなかろうか。
環境省では、全国のPFOS及びPHOAをHPで公開している。PFAS調査は都道府県の任意となっているため、秋田県、新潟県、栃木県、群馬県、富山県、石川県、山口県、香川県、長崎県からの報告はなかった。
また、NHKでは環境省が公表した令和4年度のPFASの調査結果をマップ化しており、MAP上をクリックすると、数値が見られるようになっている。
まとめ
日本ではまだPFASの認知度が低く、規制が十分とは言えない状況だが、世界ですでに健康へのリスクが認知され、警戒が強まっている。
特に、水道水の汚染は深刻な問題だ。日本でも一部地域では基準値を大幅に超えるPFASが検出されており、飲料水を通じて日常的に摂取してしまう可能性がある。浄水器を選ぶ際には、PFAS(PFOS・PFOA・PFHxSなど)の除去能力を持つ製品を選ぶことが重要だ。
Hello News 編集部 柳原 幸代
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