脱炭素社会に向けた取り組みと展望

2024年を振り返ってみると、住宅分野において脱炭素社会の実現へ歩みを進めた1年だったと思う。

目次

1.省エネ性能表示制度の導入

これまでは、賃貸にせよ売買にせよ、住む家の性能は目に見えなかった。住んでから「部屋が寒くて電気代がかさむ…」などと気づく。
しかし、2024年4月に開始された省エネ性能表示制度によって、新築建築物の販売・賃貸の広告に省エネ性能ラベルの表示が努力義務とされた。これにより、購入者や賃借人は、エネルギー消費性能、断熱性能や、1年間の光熱費の目安などを見た上で住宅を選択することが可能となる。
 
住宅のエネルギー性能の表示は、欧州では2006年頃から開始されている。日本は20年近くの遅れをとり、ようやく努力義務として開始されたのだ。
 
さらに、今後は住宅性能が引き上げられる。2025年4月から、省エネ基準適合が義務付けられ、基準(断熱等級4)に達していない建物は建築できなくなるのだ。5年後の2030年からは、新築基準は断熱等級5へと引き上げられる。このように、住宅性能は段階的に引き上げられていく予定だ。

住宅の性能が上がれば、冷暖房などへのエネルギー消費が抑えられ、電気代の軽減やCO₂の削減が期待できる。
省エネ基準が上がることは、地球環境にとってとても大切なことだ。しかし、ZEH基準になったとしても、それでもなお、日本の断熱基準は欧米に比べて低い。

壁や窓など、住宅の外皮を介して住宅全体の熱がどれくらい逃げやすいかを示す数値「UA値」は数値が高いほど、熱が逃げやすいことを表す。そのUA値で見てみると、東京の省エネ基準は0.87W/㎡Kと、ドイツや英国に比べて2倍以上も断熱性が低い。
 
鳴り物入りで始まる制度が…実は各国の周回遅れといった状況である。日本の住宅の質を真剣に考え直すときが来ているのかもしれない。

2.省エネ部位ラベルの導入

2024年に導入されたものがもう一つある。「省エネ部位ラベル」だ。11月に運用が開始された省エネ部位ラベルは、既存住宅の省エネ設備を明示するラベル。窓もしくは給湯器が規定の条件を満たしている場合に発行でき、販売や賃貸の広告に表示できる。これにより、既存住宅も省エネ性能の高い部位や再エネ設備の有無など、省エネ性能で建物を選べるようになる。
 
将来ご自宅の売買や賃貸をお考えの方や、賃貸オーナーの方は、資産価値や入居率を高めるためにも、断熱改修や高効率な設備の導入を検討してみてはいかがだろうか。2050年カーボンニュートラルに向けて、国は省エネ住宅を推進し、断熱改修や高効率な設備にも補助金が出ている。2025年度も国からの支援は引き続き行われる(後述)
 
こうした省エネ改修や省エネ設備への補助金は意義があると思う。初期費用はかかるが、長い目でみればエネルギーコストが抑えられるからだ。

2023年から続く電気代の補助は、ただただ、お金を浪費するだけだ。電力の消費が抑えられる生活を実現しなければ、エネルギー資源の少ない日本は、いつまでもこの負のループを続けることになる。

3.アメリカやドイツに学ぶこと

前述のとおり、日本の住宅の断熱基準は低い。つまり、冬は家が「寒い」。 この「寒い家」を「快適な家」に変えていく発想は、実は日本以外では当たり前のことである。
ヨーロッパやアメリカでは、全部の部屋を暖かくしなければ基本的人権侵害になるという考え方で、全館暖房が一般的。WHO(世界保健機関)は2018年、寒さによる健康影響から居住者を守るため、寒い季節の室内温度として18℃以上を強く勧告している。低い室温においてはさまざまな健康リスクがあり、中でも「ヒートショック」は、家の中の温度差によって引き起こされるため、日本の冬のようにリビングだけ暖かくて、トイレやお風呂は寒いとなれば、ヒートショックのリスクが高まる。
寒い家や、部屋に温度差のある家は「人権侵害」ということだ。
 
アメリカドイツでは、古い建物は価値が高いとされ、築100年以上の建物でも改修を重ねながら大切に使われ続けている。一方、日本では、性能の低い家を建てては30年ほどで壊すというサイクルが繰り返されてきた。もちろん地震の多さといった事情もあるが、そろそろ日本も長寿命な家づくりへ舵を切るべき時ではないだろうか。
「築古だから価値がない」ではなく、アメリカやドイツのように、「性能がいいから築古=古くて価値がある」と言われる住宅が増えることは、地球環境にとっても必要なことではないだろうか。
実際、この考え方に基づいて、政府も本腰を入れた支援策を打ち出している。

4.政府の補助金制度

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、政府はさまざまな施策を行ってきた。近年の燃料価格の上昇もあり「エネルギーコスト上昇に強い経済社会の実現」に向け、省エネ性能に優れた住宅の普及を促進するため、住宅や設備の省エネ化を支援する方針を示している。

5.2025年の脱炭素はどうなる?

2024年は、住宅にいかに省エネルギーで住むことができるか、というところに焦点があたっていた。しかし、国際的には原材料の調達から廃棄までの、サプライチェーン全体でCO₂を削減する動きがひろまっている。

CO₂を削減するためには、まずはCO₂をどれくらい排出しているのかを算定し「見える化」する必要がある。
 
日本でも、国交省支援のもとゼロカーボンビル推進会議が設置され、建築物ホールライフカーボン算定ツール「J-CAT®」(Japan Carbon Assessment Tool for Building Lifecycle)が2024年5月の試行版を経て、10月に正式版が公開された。
仕様登録をすれば、ツールを無料で使用することができる。
 
ホールライフカーボンの考えから、建材にもCO₂の削減が求められ、すでに環境配慮型のコンクリートなども商品化されている。
 
建築分野にかかわらず、あらゆる分野の企業が提供する商品やサービスにCO₂排出量を表示する動きも広まってきた。

カーボンフットプリントである。カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products)とは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクルを通して排出される温室効果ガスの排出量をCO₂に換算し、商品やサービスにわかりやすく表示する仕組みのこと。
 
例えば飛行機。JALのHPでフライトを検索すると、CO₂の推定排出量が表示される。(写真左)
日常的にCO₂排出量が「見える化」されれば、企業だけでなく個人の環境に対する意識も高まり、持続可能な行動へとつながることが期待できる。

出典:環境省

フランスのCasino社では、鱈4切れの包装(包装自体は26g)を製造するために、37gのGHGを排出しており、現在のリサイクル率(38%)は分別により89%まで向上する。また、トラックでの輸送距離は3,000kmという環境負荷を色で示している。(写真右)
このように、住宅から食品包装まで、暮らしのあらゆる場面でCO2の見えるかが進んでいる。「見える化」することで、生活態度が地球環境に与える影響を実感できるだけでなく、よりよい選択をするためのヒントも与えてくれるのだ。

まとめ

地球環境への負荷を軽減する取り組みは、決して一部の専門家や企業だけの課題ではなく、政府に丸投げするものでもない。私たち一人ひとりが、エネルギーの使い方や住宅の選び方を見直し、日常生活の中で持続可能な選択を意識することが、社会全体の変革へと繋がるのだ。

Hello News 編集部 柳原 幸代

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