この連載では、これまで5回にわたって「子育て世帯にオススメの街」を調査してきました。2児の子を持つ親として、街や駅を歩きながら強く思ったのは、「生活の利便性」よりも「子供の安全性」が重要だということでした。
子どもと一緒に街を歩けば、「街灯はあるかな」「歩道は広いかな」「この段差は嫌だな」「自転車のマナーが悪いな」「この道は車がスピードを出しやすいな」…こんなことばかり頭をよぎります。例を挙げればキリがありませんが、子供がこの街で暮らしていくにあたり、どんな不安があるかを知らず知らずのうちに考えていました。その中でも私がもっとも重視したのは、駅の「ホームドア」の設置の有無です。
駅の安全性は多くの人々の日常生活に直結する重要な問題です。子どもたちが毎日通学で利用する可能性が高い場所だからこそ、ホームドアの存在は大きな安心感をもたらします。しかし、現実には多くの駅でまだホームドアが設置されていない状況があります。
そもそも現在、私が住んでいる街、木場の駅にホームドアは設置されていません。そのため、子供と電車に乗るときは、必ず手をつなぎながら、子供には壁側を歩かせます。地下鉄はホームに電車が到着する際、吹き込んでくる強い風にあおられてフラフラと子供が線路側に寄っていってしまわないかと、いつも不安に思っています。
読者の皆さんには、「ちょっと心配しすぎじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんね。ただ、今年に入ってからもJR埼京線北戸田駅でホームから転落した女性と男児2人が列車にはねられ、搬送先の病院で死亡するという事故が起きています。また14年前の話ですが、JR原宿駅で小学6年の男児が携帯ゲームに夢中でホームから転落するという事故も発生しています。
こうした事故を防ぐため、国土交通省は「2025年度までに駅全体の3000番線、および、1日平均利用者数が10万人以上の駅の800番線にホームドアを設置する」と目標を掲げ、2022年時点で全体の2484番線、10万人以上の駅の493番線への設置を完了しています。
こうした動きの中、都営地下鉄は2024年2月20日、すべての駅にホームドアを導入しました。
2020年3月にいち早くホームドアの整備を完了した東急電鉄の調査では、「ホームドアの整備により、ホームから線路に落ちる転落事故の件数は2014年度の131件から2020年度は5件に減少。また輸送障害件数は、2014年度の32件から2021年度は13件に減少」したとのことです。子供に限らず、視覚障害者や酔っ払い、ながら歩きなの不注意による落下など事故要因は様々ですが、誰にとってもホームドアは安全を提供してくれています。
そんな中、東京都の小池都知事は2024年8月23日、「ホームドア整備を加速する官民一体の協議会(第1回)」に出席。記者会見で「鉄道は、都民生活を支える欠かせない移動手段であり、ホームドアは都民の命を守る最も有効な施設。整備の加速に総力を挙げていかなければならない。(中略)創意工夫を持ち寄って、更なる加速策を検討し、スピード感をもって実施していきましょう」とコメントしました。
そこで、実際にどのような取り組みを始めているのか、東京都に確認したところ、「ホームドアの設置費用や車両の改修費用、維持管理費などの予算を考えながら、国や鉄道事業者と協力して、当初の目標である2025年末までに設置率100%になるよう進めていきたい」と話したものの、具体的に何をするかは、まだ未定とのことでした。
2024年10月23日、東京メトロが東京証券取引所のプライム市場に上場します。東京都は保有している株の売却益により約1600億円を取得し、この売却益をホームドアの整備費用にあてる可能性があるとの報道がありました。もしそうなれば、ホームドア設置は急速に進んでくれるのかもしれません。
しかし、都内を走る電車は稼働時間が長く、改修工事ができるのは終電から始発までの短い時間しかないこと、一部の駅では構造上、ホームドアの設置に耐えられる強度で作られていないことなど、普及を進めるには、課題が多いのも事実です。とはいえ、ホームドア設置は小池都知事が東京都知事選の際に掲げた公約のひとつ。肝いり事業とも言われているため、今後どれだけ早く普及が進んでいくのか、その動きに注目していきたいと思います。
それまで、しばらくはホームでの手つなぎを続けることになりそうです。
Hello News編集部 鈴木 規文
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