
日本全国どこにでもあるインドカレー屋。個人経営っぽいのにどこも同じような外観、同じようなメニューが特徴だ。その多くは「インネパ」と呼ばれるネパール人経営のインド料理店である。従業員の多くは顔立ちがインド人ほど掘りが深くなく、どちらかと言うと日本人に近い印象で、あの特徴的な形状のネパール国旗とエベレストの写真が飾ってあれば間違いない。
どんな街にも1つはあるのではないだろうか。なぜこんなにもインネパがあるのか、その謎に迫ったのが室橋裕和の『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』(集英社)。今回は本書の内容を交えてインネパを考察していく。

ネパールはインドの北、ヒマラヤ山麓に位置し、主要な産業がないため出稼ぎビジネスが盛んだ。本書によれば、一人あたりの年間所得は1337ドル(約20万)程度(2022年 世界銀行)。国外で働くネパール人は200万人にもおよぶそうだ。
本書では、インド料理店経営者(インド人)や、什器販売業者(日本人)によって日本にインド料理が持ち込まれた歴史や、インネパがなぜバターチキンや巨大ナンのようなメニューになったのかについても語られ、その成り立ちが解き明かされていく。
また、ネパール人の「どうしたら日本人客が喜ぶか」を考える真面目な姿勢にも驚かされる。
国民性として、日本と似たちょっと「人に合わせる」要素も持っているのかなと思う。
個人的な経験に基づくと、欧米諸国やネパール隣国のインドの人たちはちょっと自己主張が強く、一緒に過ごして疲れる時がある。
お互いが自然に人に合わせる性質を持つ日本人にとって、あたりの柔らかいネパール人にほっとする感じはあるかもしれない。
「いらっさいませー」とか「ありがとうごじゃいましたー」という独特のイントネーションには癒されるし、「味はそんなでもないけど、接客がいいから行く」という友人の話も聞いたことがある。
ある人の証言によると、会社近くのインネパが事実上の社員食堂と化していたという。店員はハイボールを理解できず、何度も水割りにしてしまうのだが、閉店時間後も従業員は先に帰し、最後まで客の盛り上がりに付き合ってくれる店長の人柄に惹かれ、通い続けているそうだ。
そうやって地域に馴染んだインネパは他にも多いことだろう。
そして、本書ではカレービジネスのダークサイドにも触れている。
ネパールに限った話ではないが、ビザの取得をビジネスにする輩は後を絶たない。また、一緒に来日した家族の事情についても触れている。働き詰めの両親に、日本語がわからず日本になじめない子どもたち。こうした子どもたちの体の健康もだが、精神状態も心配してしまう。
在日ネパール人の人口は2023年6月末時点でなんと15万6千人。ネパールの隣国、インドから来日する人々も増えているが、私が接するインド人コミュニュティの人々と、本書に登場するネパール人の生活環境は大きく異なるように感じた。


来日するインド人はITエンジニアなど「技術・人文知識・国際業務」で滞在している人が多い。つまりは収入の高いエリートだ。
子どもたちをインターナショナルスクールに通わせることができるし、奥さんが働いているとしても、それは収入のためというよりも自分自身の充実のため、という印象を受ける。
調べてみると、日本のインド系インターナショナルスクールは複数ある。
インディア・インターナショナル・スクール・イン・ジャパンは東京都江東区と神奈川県横浜市にキャンパスがあり、グローバル・インディアン・インターナショナルスクールは東京都江戸川区に4つのキャンパスがある。(2024年7月時点)
対してネパール人学校については、東京都杉並区のエベレスト・インターナショナルスクール・ジャパンだけではなかろうか。ちなみに5歳から19歳までの在日インド人は5761人、ネパール人は13145人(2023年6月末時点)と、ネパール人の方が多いにもかかわらずだ。
さらに、もし両親の収入が低ければ、インターナショナルスクールに通うことは難しい。
親の都合で日本に連れてこられた子どもたちには、十分な教育環境を与えてほしいと切に願う。それは心の健康にも大きく影響するからだ。夜間中学など、利用できるしくみが届くことを祈る。
そんな知られざるちょっと哀しい話のあとは、多くの「インネパ」経営者やコックの出身地、ネパール中部の「バグルン」に著者が訪れたときのことが書かれている。
こんなにも、のどかなヒマラヤのふもとからやって来て、私たちにカレーとナンを提供してくれる人たちに少し感動してしまった。
いまやどこにでもある「インネパ」。そこで働く彼らが、どこからきて、どんな思いで日本に暮らしているのか、この本を読むまで知らなかったことがたくさんある。
インネパに入る機会があったら、お店の人になにか温かい言葉をかけたくなる。そんな一冊であった。
Hello News 編集部 柳原 幸代
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