高齢者の「孤独死」年間推計6万8000人
警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が2024年推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにした。2024年1~3月に警察が取り扱った死体は暫定数で6万466人。うち、自宅で亡くなった一人暮らしの人は2万1716人。その中で65歳以上の高齢者は1万7069人だった。季節などを考慮せず単純に1年間に置き換えると、約6万8000人の高齢者が独居状態で死亡していると推計される。
年齢構成を見てみると、一番多い年齢層は70代だが、65歳以下の、いわゆる現役世代も全体の2割を占めている。
世帯構成の変化
ここで、世帯構成の推移を見てみよう。孤独死の対象となり得る「単独世帯」は、1986年は全体の18.2%だったのが、2022年には32.9%にまで増加。孤独死予備軍ともいえる「夫婦のみ世帯」の24.5%をあわせると、全体の6割近くを占める。
単身世帯は今後も増えることが予測されており、厚生労働省によれば2050年には44.3%に達する見込みだという。これは、5世帯に2世帯が単身世帯になるということだ。
つまりは、孤独死のリスクのある世帯はこれからも増加するということ。こうして見ると、孤独死は決して他人事ではなく、誰にでも起こり得る問題だといえる。家族形態が変化していく中で、地域のつながりや相互支援の重要性を再考する必要があるだろう。
賃貸住宅における孤独死
ここからは日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会の「第8回孤独死現状レポート」を見てみよう。同協会が孤独死保険に加入している被保険者、入居者を対象に、2015年4月から2023年3月までに「賃貸住宅居室内で死亡した事実が死後判明に至った1人暮らしの人」のデータだ。
孤独死の割合は男性83.3%、女性16.7%と圧倒的に男性が多い。死亡時の平均年齢は、男女ともに61~62歳と、平均寿命と比較すると、20年以上も早く亡くなっている。
年齢で見ると60代が最も多く、2,000人を超えている。しかし、60歳未満の現役世代の割合も高く、およそ4割を占めている。この数字からも孤独死は高齢者だけの課題ではないことが分かる。
死因でもっとも多いのは病死で、男女ともに60%以上を占めている。
この中で注目すべきは自殺者の割合だ。令和4年(2022 年)の全国民の死者数のうち、自殺者が占める割合は1.4%※。男女別の割合で見ると、男性1.8%、女性0.9%だ。それと比較して孤独死に占める自殺の割合は、男性が8.7%、女性が13.5%と、突出して高いことが分かる。
※令和4年中における自殺の状況 厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課/厚生労働省令和4年人口動態統計より算出
孤独死者と全国の自殺者の割合とを比較すると、40代までの割合が高い。特に女性の20代では36.4%と全国の自殺者よりも20%以上も高いことがわかる。若くして社会から孤立していることを思うといたたまれない。
発見までの平均日数は18日。また、3日以内に発見される割合は女性が47.0%、男性が38.9%と、女性の方が10%ほど高い割合となっている。これは、孤独死そのものが男性の割合の方が高いことからも、男性よりも女性のほうが他者と関わる頻度が高いと言えるのではないだろうか。
高齢者の4人に1人が入居を断られる現実
高齢者を「受け入れていない」賃貸オーナーが約4割。
これは、65歳以上の物件専門の不動産会社、株式会社R65が全国の賃貸オーナーを対象に、2024年3月に行ったアンケート調査の結果だ。「受け入れていない」オーナーは約4割(41.8%)、「積極的に受け入れている」オーナーは、2割未満(19.0%)となった。
2023年6月に同社が行った、賃貸物件探しの経験を持つ高齢者500人に対するアンケート調査では、高齢者の4人に1人(26.8%)が、年齢を理由とした賃貸住宅への入居拒否を経験していることが明らかになった。また、関東エリア(1都6県)では32.2%と、全国の1.2倍多くの高齢者が年齢を理由に入居を断られている。
また、同社が不動産管理会社を対象に実施した調査では、4社に1社で高齢者の入居可能な賃貸住宅が「全くない」と答えている。賃貸オーナーのアンケート結果では、約6割のオーナーは高齢者の受け入れを拒否していない。にもかかわらず、高齢者が入居できる物件を取り扱っていないということは、不動産会社にそれを躊躇せざるを得ない理由があるということだ。
高齢者が安心して入居できる社会にするためには、不動産会社の協力は不可欠だ。高齢者向け物件を取り扱ってもらわねばならない。しかし、不動産会社や賃貸オーナーの不安を払拭しなければそれは実現しない。政府の支援や地域のサポート、高齢者の入居に関する具体的なガイドラインの策定など、高齢化社会に向けた包括的な対策が必要だと考えられる。
まとめ
孤立死のリスクファクターとして「一人暮らし、低所得、無職、社会的孤立、セルフネグレクト、高齢者」などが挙げられるが、私たちは例外なく老人となるのだから、「高齢者」においては、誰も避けては通れない。
自身でできる対策としては、デイサービスに通うなど、市区町村が行っている支援事業の利用や、地域のグループ活動に参加するなど、社会とのかかわりを持つことだ。
また、民間企業にはさまざまな見守りサービスや孤独死保険などがある。あまりも種類が多いので、どんなサービスがあるのかを日頃から調べておくといい。
孤立・孤独の予防や支援に関しては、国も動き始めた。令和6年4月1日、孤独・孤立対策推進法が施行。「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」、「相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会」を目指すとしている。
また、令和6年3月8日「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。
要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備や、居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進、住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化などの対策を実施予定で、居住サポート住宅については、施行後10年間で10万戸の供給を目標としている。
これから先、単独世帯がますます増える日本においては、孤独死は増えるだろう。一人で死ぬことは構わないが、人に迷惑がかかるのは誰しもいやなもの。とはいえ、自分でお墓に入ることはできないのだから、死ぬときには必ず誰かのお世話にならざるを得ない。
腐敗する前に見つけてもらえる体制を整え、独り暮らしであっても、穏やかな最期を迎えたいものだ。
Hello News 編集部 柳原 幸代
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