住宅選びの基準が変わる?省エネ性能表示制度

日本の住宅は、どうやら寒いらしい。
世界の断熱基準から遅れを取っている日本。しかし、2024年4月、省エネ性能表示制度が始まり、省エネ性能ラベルの表示が努力義務となった。
今、カーボンニュートラルの実現は世界的な課題だが、CO₂排出量全体の約3分の1を占めるのが実は「住宅・建築物」だ。
省エネ性能が高い住宅に住むことは、快適な温度で暮らせるだけでなく、エネルギー消費・CO₂排出の削減にも貢献するのだ。日本の寒い家について考える。

目次

東京の家は寒い?

私は寒さが苦手だ。雪国・青森県出身ではあるが、冬の厳しい寒さに耐えられず、東京へ上京することを決意した。
上京したのは3月末。軽装でも暖かく過ごせることがうれしかった。青森の3月は春の気配すら感じられない。
しかし、一夏を超えて東京にも冬が訪れると、想像していたよりもずっと寒かった。特に、室内の寒さが厳しかったのだ。「青森より暖かいはずの東京の冬が、なぜこんなに寒いのか」という疑問を抱いた。青森は、外は危険な寒さだが、室内は温かいのだ。しかし、やがて「冬は室内も寒い」ということにすっかり慣れ、ストレスを感じながらもなんとなくそれを受け入れていた。私も従順な東京人になったのだ。

住宅の外皮性能の基準値

住宅の省エネルギー基準のひとつである外皮平均熱貫流率(UA値)とは、室内と外気の熱の出入りのしやすさの指標で、住宅の内部から外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値で、値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示す数値だ。

※より詳細な地域区分関しては国土交通省の「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令における算出方法等を定める件」をご覧いただきたい。

地域によって基準値は異なる。東京は6地域なので0.87W/㎡K、青森は3地域なので0.56W/㎡K だ。なるほど。寒い地域の住宅の方が、省エネルギー性能が高いというわけだ。
 
冬に室内で感じる違和感の正体はこれだった。北国では、室内の暖房が強力とはいえ、風呂場などで感じる寒さも、東京よりも感じにくく、温度差のストレスも少なかったように思う。このUA値0.31W/㎡Kの差は、体感的に相当大きいと思われる。
 
東京の住宅も外皮性能をもっと上げてくれたらいいのに!と思うのは何も私だけではない。

Oさんの悲劇

ここに、東京都にお住いのOさんを紹介する。1987年(築38年)の1Rマンションにお住まいのOさん。築38年ということは、1980年制定の基準なので、断熱等級は2、UA値は1.67W/㎡K(6地域)だ。現在の基準は0.87W/㎡Kなので、その差は0.8W/㎡K!かなり熱が逃げる建物だといえる。
 
断熱性能の低さは電気代に表れる。一人暮らしであるにもかかわらず、冬場に電気代が跳ね上がっている。なぜならば「部屋が寒いから」。

エアコンや暖房機器を使った結果、2024年2月の電気代は15,093円だ。

ちなみに2024年2月は、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による補助金制度があったため、3.5円/kWh値引きされていた。Oさんの2024年2月の消費電力は502kWhだったので、値引き金額 502kWh×3.5円=1,757円を追加すると、実際は16,850円の電気代がかかっていたことになる。
 
ちなみに、Oさん宅はオール電化ではない。このほかにガス代もかかることを考えると、冬場の光熱費は痛い出費となる。
 
Oさんは寒くない家に引越したいと考えている。では、どうやったら断熱性の高い部屋を見つけることができるのか。
 
車を選ぶときは燃費を気にするのに、住宅を選ぶときは燃費を全く気にしなかったのはなぜでしょう?

省エネ性能表示制度が努力義務に

EU全土では2008年より、「家の燃費」を表示する証明書である「エネルギーパス」の表示が義務づけられていた。それに遅れること16年、2024年4月に日本でもようやく「省エネ性能表示制度」がはじまった。
 
「省エネ性能表示制度」とは、省エネ性能で建物を選べるようにするため、住宅・建築物を販売・賃貸する事業者に、「省エネ性能ラベル」の表示を努力義務とする制度だ。
 
Oさんも、「省エネ性能ラベル」を見れば、省エネ性能がわかり、寒くない家を選べるというわけだ。
 
とはいえ、努力義務の対象は、2024年 4月1日以降に建築確認申請を行う新築建築物、およびその物件が、同時期以降に再販売・再賃貸される場合だ。4月1日からすべての既存建物に省エネ性能ラベルが表示されるというわけではない。省エネ性能ラベルが表示された建物が世に出てくるのはもう少し先だ。

省エネ性能ラベル

省エネ性能表示制度の発行物は、全2種類。「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」がセットで発行される。
 
不動産ポータルサイトやチラシ広告に使用されるのが「省エネ性能ラベル」だ。ここでは、分譲一戸建て、分譲マンション、賃貸住宅、買取再販住宅など、住宅の省エネ性能ラベルで項目を説明しよう。

※2023年9月時点
❶エネルギー消費性能国が定める省エネ基準からどの程度消費エネルギーを削減できているかを見る指標(BEI)を、星の数で示します。
❷断熱性能「建物からの熱の逃げにくさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」の2つの点から建物の断熱性能を見る指標です。
❸目安光熱費住宅の省エネ性能に基づき算出された電気・ガス等の年間消費量に、全国統一の燃料等の単価を掛け合わせて算出した1年間の光熱費を目安として示します。
※住棟ラベルでは非表示。任意項目のため記載がない場合もあります。
❹省エネ性能の自己評価、第三者評価省エネ性能の評価が販売・賃貸事業者による自己評価か、評価機関による第三者評価かを示します。
❺建物名称省エネ性能の評価対象がわかるように物件名を設定します。必要に応じて、棟名や部屋番号も掲載します。
❻再エネ設備あり/なし再エネ設備(太陽光発電・太陽熱利用・バイオマス発電等)が設置されている場合に「再エネ設備あり」と表示できます。
❼ZEH(ゼッチ)水準エネルギー消費性能(❶)が☆3つ、断熱性能が「5」以上で達成のチェックマークがつきます。
❽ネット・ゼロ・エネルギー(ZEH)ZEH水準の達成に加え太陽光発電の売電分も含めて、年間のエネルギー収支がゼロ以下で達成のチェックマークがつきます。
※第三者評価(BELS)の場合のみ記載
❾評価日評価された省エネ性能がいつ時点のものかを示します。
出典:国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」

❷の断熱性能の家の形のマークで表される。UA値とηAC値それぞれについて地域区分に応じた等級で評価し、どちらか低いほうの等級を表示される。例えばUA 値の等級が「5」、ηAC値の等級が「4」の場合、性能表示ラベルで表示するレベルは「4」となる。
等級ごとのUA値、ηAC値は下記の通り。

出典:国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」

「4」で省エネ基準を、「5」以上で誘導基準を達成する。

日本においては、2025年4月からは新築住宅の省エネ基準適合義務化が始まる。適合していない住宅は建てられないことになるのだ。そして30年までには、新築はすべてZEH水準へ引き上げられ、50年にはすべての住宅の平均がZEH水準となる計画だ。

出典:国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」

高性能賃貸住宅の誕生

さて、国の計画はわかりました。でもそんな省エネ住宅を建てられる人は限られているのでは?と思いますよね。
それを危惧した企業がある。株式会社ウェルネストホームだ。同社は2012年の設立以来、世界基準の高気密・高断熱住宅をつくっている会社だ。これまで1200棟※を超える戸建て住宅をつくってきた同社は、2023年、ウェルネストホーム仕様の高性能賃貸住宅・「ウェルネストルーム」を商品化した。

※2023年時点 

WELLNEST ROOM 名駅南A棟を例に説明しよう。

写真提供:株式会社 WELLNEST HOME

2LDK3戸、1LDK3戸からなる木造3階建てのこの賃貸住宅は、UA値が0.27W/㎡Kなので、冬に暖房はほとんど使わなくてもいいはどの高断熱住宅だ。
もちろん再エネ設備もある。太陽光パネル20kWと、蓄電池30kWhを搭載。さらに、驚くのは、次世代型HEMS(ヘムス)「Haiot System(ハイオシステム)」を導入していること。Haiot Systemとは、発電量、蓄電量、温湿度などをリアルタイムに計測し、Iot技術を用いて室内の機器を自動制御する仕組みだ。エネルギーのムダ遣いを防ぎながら、快適な環境を、人の手を介さずに保つのだ。
 
もともと消費電力が少ない上に、エネルギーを効率よく利用できるので、この建物では90~95%は太陽光で作った電気だけで生活できるというわけ。月間300kWhまでの電気代は家賃に含まれている。オール電化だからガス代もかからず、灯油も不要。一般的な住宅と比較して20分の1ほどしかCO₂を排出しないという、まさに「ゼロカーボン住宅」なのだ。

まとめ

断熱性の高い住宅は、CO₂の削減、電気代の削減に貢献することはもちろんだが、居室間の温度差が少ないから「ヒートショック」も起こりにくい。ヒートショックとは、温度の急激な変化で血圧が大きく変動による健康被害で、東京都健康長寿医療センター研究所の研究によれば、2011年の1年間で約17,000 人が、「ヒートショック」に関連して急死したと推計されている。
つまりはこうした健康被害も防ぐことができる。健康で、快適に暮らせるということだ。
 
これからは、住宅を選ぶ基準として、省エネ性能表示ラベルを活用し、「高省エネルギー住宅を選ぶ」ということを意識していただければと思う。
住宅選びも、わたしたちが持続可能な社会の実現に向けてできることのひとつなのだ。

Hello News 編集部 柳原 幸代

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