ユニークなCMをガンガン流しているけれど、全容がよくわからない会社。
ーオープンハウス。
時代の寵児とも、 コロナ禍の一人勝ち企業とも、あるいは、ノルマのきついブラック企業とも、不動産業界ではさまざまな言われ方をしている。
1997年の創業で、設立24年目の2020年9月期決算の売上高は、およそ5800億円。今年9月期は、6767 億円が固いという。
2020年5月には分譲マンション大手のプレサンス・コーポレーションを傘下に収め、2023年9月期には、1兆円の売上目標を掲げる。直近では、8月5日に、銀行代理業の許可を取得し、金融・Fint ech事業への参入を発表。業界をざわつかせた。
荒井正昭社長のインタビューは叶わなかったが、今回、その右腕と称される、社長室長兼ウェルス・マネジメント事業部長の木村憲 一郎さんが取材に応じてくれた。背筋が一直線にスラリと伸びた長身で、銀縁メガネの奥で光る眼が鋭かった。(取材日:2021年3月30日)
「本気でやってるから本気で1兆円いっちゃうんですよ」と笑い飛ばす木村さんに、オープンハウスの強さはどこからくるのか、話を聞いた。
「神がかっている人」
ー木村さんは社長室長という肩書きをお持ちですが、どういうお仕事をされているのでしょうか?
木村
社長の荒井の側近みたいな仕事、というとわかりやすいでしょうか。昼夜一緒に動いています。社長秘書は別に8名いまして、私は「荒井の外交の調整役」が多いです。
木村の前職は野村證券だ。12年間の勤務で、経営企画と人事部に携わった。大手証券の中枢で金融業界の裏も表も見たわけだが、いずれは金融コンサルタントとしての独立を夢見ていたという。
しかしそれには事業会社での経験が必要だと考え、以前から付き合いのあった荒井社長に相談したところ、「うちで仕事した方が早いんじゃない? 」と声をかけられた。
オープンハウスの主幹事 は大和証券だったが、強気な木村は荒井に営業を仕掛け、親しい間柄になっていた。
ーオープンハウスへの転職に、迷いはなかったですか?
木村
金融業界、つまり、銀行、証券、保険、生保の世界にいても、社会の主役になれないと気づいたんです。「融資をする」「M&Aや上場を手伝う」はできる。しかし、会社の成長の原動力となり、社会を動かす主人公にはなれないと感じました。そんな時、オープンハウスを見ていて、どうせサラリーマンをやるのであれば、挑戦できる環境で思い切りやりたいと思ったんです。オープンハウスは、一体感や組織力を大切にする日本人らしい会社である一方で、中途入社も、性別も、国籍も、学歴も一切関係ない。超体育会系で超日系企業でありながら、評価体系と働き方は外資系。このミックスが面白い、と思いました。
自社の魅力を声高に語る木村だが、実のところ、2013年9月、オープンハウスが東証一部へ上場した時、「 この会社は“ザ ・営業の会社”であり、永続は難しいだろうと思った」と語る。
しかし荒井との交流を深める過程で、少しずつ考えが変わっていった。
「入社を決めた理由は、一番難しいと言われる、従業員、社会、株主といったステークホルダ ーの満足を満たすことを意識してやっている点でした。この点における荒井のバランス感覚はもはや神がかっていると思いました」
社長・荒井正昭への敬募が、入社の決め手となったのだ。
毎週木曜日の全員朝礼
オープンハウスの社員数は、約2400人(連結:3879人/2021年3月末現在)。新卒と中途の割合は、5: 5で、毎年200人の新卒を受け入れている。驚いたことに、荒井社長は全社員の学歴、家族構成、入社の経緯、などをほぼ全て把握しているという。
かつて、リクルート創業者の故 ・江副浩正氏が、社員が500名を超える頃まで、氏名や年齢、プロフィールを覚えていたという話を聞き驚いたことがあったが 、荒井社長の場合、その5倍の人数だ。
ー毎週木曜日、朝8時半から、全社朝礼があるそうですね。コロナ以前は、2400人、ほぼ全ての人が本社(丸ビル)に集まっていたとか?
木村
そうです。コロナ以前は、ギュウギュウになって立っていました。各業部の発表の後、荒井が話します。皆が真剣にその話に耳を傾けてます。こんなに社長のメッセージが届く会社って、もう日本にないんじゃないかなと思うくらいです。
木村をはじめ各事業部の部長らは、荒井が各事業部で話した内容に ついて全て把握している。社長の音声を録音したデータが名事業部から送られてくるため、移動中やランチタイムに聞いていると話す。
一お話を聞いていると、荒井社長の強烈なカリスマ性を感じつつも、少しブラックな印象を受けてしまいます。
木村
これだけ成長してると、やっぱりそういう見られ方をしますよね。けれど、僕らは、荒 井についていくという気持ちを共有していますし、この組織の中で頑張れば、自分も 成長できて会社も伸びて給料も上がる、というのを実感しています。荒井自身が、バブルの時に不動産業にいて、会社が成長して、自分が成長して、給与も上がって、日本が明るくなっていくっていうのを目の当たりしていました。それを今の若い子たちにも経験させてあげたいという思いがあります。手前味噌ですが、仕事を楽しいと思っている社員は多いと思いますよ。
木村の隣に座る、二木曜太が口を挟んだ。二木は入社一年目の新人で、新卒でオープンハウスに入社した。
「新卒採用のイベント会場で、一番大声で体育会系で元気良くしゃべるのがオープンハウスでした。その時に引かずに面白い、と思った人たちが入社しているのだと思います」(二木)
自分も会社も成長できる
創業期のリクルートがそうだったと、大西康之著『企業の天才」(東洋経済新報社、2021年)に描かれている。
社員たちは、男も女も関係なく夜中まで仕事をし、モーレツな営業と接待攻勢を繰り返して、売り上げを上げた。
学歴に関係なく評価され、高卒でも当時の大卒並の給料が出た。設立10年目には、400名の社員を引き連れハワイへの社員旅行を敢行。使った旅費は、平均的な大卒初任給が3万7500円の時代にあって、一人当たり15万円。会社の税引後利益が1億2000万円の時代にその半分に相当する6000万円を使ったと書かれていた。
「昔の高度経済成長の時にあったような、終電を逃しても、先輩にこの後カラオケ行くぞ、ラ ーメン行くぞって言われて、明日の数字どうすんだってなれば、明日は今日の倍やります、という昭和の雰囲気が、当社にはあるんです」(木村さん)
恐れ入った。銀座中央通り、銀座シックスにオフィスを構え、高級ホテルのラウンジのような つくりの会社の雰囲気からは想像もつかない話だった。
「軌道に乗せてくれ」
今年4月、オープンハウスでは、全社員に20万円の特別賞与が出た。夏休みは、2週間だという。「儲けは社員に還元する」という考えが根底にある。子供が産まれると、一人目10万円、二人目30万円、三人目は100万円が出る。それだけではない。子供ひとりあたりの保育費が1カ月、7万5000円を超えた場合、その費用を会社が負担。0~5歳の子供を対象に月額30万円を上限に補助するという太っ腹な制度もある。なぜそこまでするのか。
答えは明快。子供が生まれなければ住宅市場も先細りするからだ。
「こんな合理的な会社、見たことないです」(木村さん)
これを聞いて思わず、2400人もの人間が毎週本社に集まる手間や移動時間、交通費を想像し、「果たして合理的と言えるだろうか?」と思ってしまったが、この会社には、外資的合理性と昭和的体育会系の思考が、絶妙に混ざり合い、しかもそれが独特な社 風となり強さになっているのだと思った。
一荒井社長の命を受け、ウェルス・マネジメント事業部を立ち上げられたそうですね。ウェルス・マネジメント事業部は、日本の富裕層や投資家に、アメリカの不動産を販売しています。
木村
「3年で300億やって軌道に乗せてくれ」と、言われました。これは大変でした。初年度が17億円、2年目に150億円で、3年目に300億円をやってなんとか達成しました。
一国内のブランド力を生かして戸建て住宅で全国制覇する選択肢もありそうですが、 アメリカに出ていったのはなぜですか。
木村は、明確に言い放った。
木村
オープンハウスの事業モデルは 、都心の狭小地に品質のいい3階建てを建てて、それを安い価格で販売する、です。つまり、東京、名古屋、大阪、福岡をしっかり網羅すれ ば、そのほかの地域に出ていく必要はないと考えます。今後の展開として出ていくべきは海外。先進国を見回したときに、人・物 ・金が増えるところで真っ先に思い浮かぶのは、アメリカです。ですから、そのための先陣部隊としてわれわれがいるのです。
ここにも背景に、荒井の考えがある。
「日本が、業界がどうであろうと、人口が増えるエリアの不動産は伸びる」
アメリカの主にはオハイオ、テキサス、ジョージアなどの地域で一軒家を選定し、オープンハウスが一回仕入れたのち、修やリノベーションをして、入居者を付け投資家に販売する。入居者は、ローカルの賃借人が主だ。
販売後の管理もオ ープンハウスが行い、数年後の売却まで伴走する。わずか3年でこの ワンストップサービスを作り上げたことが、 アメリカ不動産の シェアを強固にした。直近ではたった1か月で、120棟の住宅を、日本の投資家に販売したと語る。
ーなぜ、それほど売れるのでしょう。
木村
簡単です。融資をつけているからです。
オープンハウスは、今から14年前の2007年8月、伊藤忠商事の子会社だった株式会社アイビ ーネット(旧社名:イトーピアビジネスネット株式会社)を買収し、不動産金融事業に進出している。この会社がファイナンス機能を持ち、投資家がアメリカ不動産を購入する際、担保をつけ融資をしている。
木村
なぜ、日本の投資用ワンルームが売れているかというと、それは融資がつくから。では逆に、なぜ海外の不動産を買われてこなかったかというと、金融機関が嫌がり融資が つかなかったからです。ですから、弊社が出した、不動産x金融の答えは、アメリカ不動産投資でした。
元証券マンの木村は、こここそが、自分の土俵だとばかりに、よどみなく話した。
木村が言うには、日本における資産は、預貯金、有価証券、不動産の三つだという。
預貯金に関しては、海外通貨の取引が自由になり、有価証券に関してもGAFAや中国株を持つことが当たり前になった。20数年前には想像もできなかったほど、個人のアセットがグローバ ルに選択できる時代になった。にもかかわらず、不動産だけが国内に限定されている。それは金融機関自体が変革できていないからだと読んでいる。
「僕は金融マン時代、国内の預貯金が外貨に変わる瞬間も見てきたし、国内の有価証券が外株に変わる瞬間も見てきました。不動産での地殻変動も絶対起きると思っています」
不動産金融に革命を!
名古屋在住の投資家、Mさんは、わずか2年3カ月の間に、13棟のアメリカ戸建て住宅を、オープンハウスから購入した。1棟あたりの平均価格は、約4000万円で、投じた額は5億円に上る。主たる購入目的は、節税だ。
アメリカ不動産の減価償却制度を活用すれば節税効果が期待できる。国内外で250室を超える不動産に投資するMさんにとって、値上かり益や毎月の家賃収入より、税金への対応が魅力となる。
「購入後の管理も現地のオープンハウススタッフがやってくれることも心強い」(Mさん)
アイビーネットを買収してから、その活用の機会を荒井は首を長くして待っていた。
金融に明るい木村の登場は、荒井の描く成長ストーリーに、まるで仕組まれたかのようにぴったりと収まった。
他方の木村は、金融マン時代、ずっともどかしさを感じていた。
「日本の金融機関は、金融庁の厳しいルール下にあり、いい商品を扱えない。世界の富裕層のナショナルバンク、グローバルバンクが日本から撤退していくのが何よりの証拠。日本のルールは面倒で願客本意ではない!」
この木村の反骨心と不満こそが、オープンハウスが不動産金融事業を構築していく上で強力な原動力となっていくと、荒井は確信していたのかもしれない。
荒井社長はどんな人?!
カリスマ社長荒井正昭から信頼される木村だが、一度だけ激昂された事を鮮明に記憶している。
以前、富裕層の顧客が、少し無理な買い物をしようとした。
「顧客が望んでいるのだからいいだろう」
木村はそう思ったが、荒井は許さなかった。
「そこまでして金儲けしようとするな」
一社長室長として、昼も夜も一緒にいるということですが、社長はどういう生活をしているのでしょうか。
木村
朝、来るのはいまだに一番早いです。基本的にスケジュールは開示していないのですが、ひょっこり営業センターにいくこともあれば、銀座線に乗って本社に行くこともあります。一緒に行動していた時、お昼にマクドナルドに入ってびっくりしました。スーパーで割引セールのお寿司を買うこともあります。ゴルフはしません。夜の付き合いもほとんどしません。
銀座六丁目に事務所があるのに?信じられない。
「社長は接待交際費も細かくチェックしています。ガチガチの超堅い経営だと思います」と木村はいう。
ーどんな人なんですか?
木村
平等であることをもっとも重視しています。皆が平等にチャンスを得られる社会でなければいけない、とよく言っています。
オープンハウスの強さをもう一つ言うなら、多様な人間が集まっていることかもしれな国籍も、アメリカ、中国、韓国、インドネシア、モンゴルなどさまざま。手を挙げれば、海外勤務の夢も叶う。英語ができる、できないは二の次。本人の強い意志と、結果を残す覚悟があればチャンスがある、という。
例えばオープンハウスには、東大卒外務省からマッキンゼーを経て入社した者もいれば、借金を抱え飛び込んできた人間、自衛隊や消防士だった者、美容師や飲食チェーン店の店長だった人間もいる。
ここでは、経歴や学歴は一切関係ないのだ。
マグナカルタ
「目標を明確に持って暖味さに逃げるな」
「行動せよ。評論家より行動しなさい」
「群れるな、そこからは何も生まれない」
「受け身になるな、自分から動け」
とはいえ、その分結果を求められる厳しい職場でもある。
同社には「毎週決算」という言葉がある。普通の会社が月次で報告する内容を、毎週報告するのだ。当然、ついていけない者もいるだろう。
「離職率は2割に満たない」というが、不動産業界の平均がおよそ15%だということを考えると、やはり少し高いと言える。
しかし、挑戦できる環境、そして平等に評価される環境、これらが揃っていることが、オープンハウスの強さなのだと思わされる。
(文中敬称略)
Hello News編集部 吉松 こころ
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