三菱商事から博報堂というキャリアもさることながら、驚くべきは、オーナー歴10年超の間で、自ら内見案内をしたという人数です。その数、なんと500人を超えたそうです。
「オーナーは住む人の人生を預かっている」と語る馬橋令さんのモットーは、「大家業は人間業」。本特集では、馬橋さんに、仲介会社の社員だからできるオーナーとの付き合い方や、オーナーから信頼を獲得するための提案時の考え方について聞きました!
馬橋 令 さん(まばし りょう)
兼業型の自主管理大家。三菱商事、博報堂勤務を経て38歳でFIRE(早期リタイア)。博報堂時代2度の「H 社長賞」と「デジタル広告賞」を受賞。上場企業を含む数社の取締役や監査役を歴任。客付仲介業者対応、定期借家契約の実務に精通し、全国のオーナーに向けた講演も行っている。
- 其の壱 オーナーの経営方針を確認せよ!
- 其の弐 チャンクダウンとアクションを具体化せよ!
- 其の参 物件に関するデータを数字で示せ!
- 其の四 商圏の市況データを把握せよ!
其の壱 オーナーの経営方針を確認
まず、仲介会社の社員さんに取り組んでいただきたいのは、オーナーに「どのような賃貸経営をしたいのか」を聞いてみることです。「追加投資を抑えながら入居率を上げ利回りを良くすることが最優先」なのか、「できれば早期に満室にして短期で売却したい」なのか、あるいは「長期で保有する方針。良い人に長く入居してほしいので入居審査は念入りに。長期入居のための妥当な設備投資なら厭わない」なのか、オーナーと一口に言ってもスタンスも目指す姿も十人十色ですから、顧客であるオーナーの目指すゴールを確認することが大事です。次に、その経営方針を実現するために、具体的にどのような手を打っていくべきなのかを考えていきましょう。
其の弐 チャンクダウンとアクションの具体化
オーナーから「家賃を上げつつ入居率を上げてくれ」という、一見ハードルの高い要求をされることがありますよね。このような時は“チャンクダウン”をしてみましょう。
チャンクダウンとは塊を小さくすること。例えば、会社で社長から、「今月、仲介手数料で300万円稼ぎなさい」と言われた時に、その300万円を「5万円の部屋を60室決める」というふうに分解して考えることを言います。そうすると60室を決めるためには、ポータルサイトに物件を掲載するにしても、どのような物件をどのようなキャッチコピーで紹介し、どのような体制と目標でセールスをしていこうか、など具体的にその道筋を考えることができますよね。ゴールという大きな塊を、一つひとつの具体的アクションに分解すれば実現性も高まります。これと同じことを、オーナーへの提案においても実践してみるのです。
例えば仲介会社の皆さんは、オーナーに「家賃アップ、入居率向上のためには、リフォームをしましょう」と、漠然と言っていることはありませんか?
ここはもう一歩踏み込んで、具体的に伝えてみましょう。まずは、今のお部屋の状態を説明し、それが若い人のニーズと乖離がある場合、どこがどう違うのかを伝えます。そして入居者ニーズに近づけるためにはどんなリフォームや設備交換が必要なのかを話し、そのためにはいくら費用がかかるのかを説明します。その上で、投資した金額に対し、どれくらいの家賃アップや退去抑止が見込めるのかを伝えてください。そうすれば、この投資が決して悪い投資ではないことがオーナーに伝わります。要は、大きな目標をチャンクダウンして、とるべきアクションの具体化を行い、担当者とオーナーが一緒に進んでいく、事業パートナーとなれるような関係作りが大切なのです。
其の参 自分の物件・入居者を数字で知ってもらう
「日本全体で人口が減少」というニュースを目にしますが、物件のオーナーにとって本当に大事なのは、所有物件の商圏です。私はよく「賃貸経営は500m(メートル)商売」と言っていますが。例えば東京23区の1つである世田谷区で考えてみても、千歳烏山と下北沢と二子玉川とそれぞれの商圏では、近場の人口動態や最寄り駅の乗降者数、近隣大学の新入学生の数など、日本の人口より大切な数字があります。入居者数も年齢などの入居者属性もニーズに適合する物件もかなり異なります。
例えば駅では2駅、距離で言うと3キロ余りしか離れていない、似た間取りで似た家賃の、三軒茶屋と渋谷の物件における実例を紹介します。
三軒茶屋 | 渋谷 | |
20代2人入居 | 31% | 13% |
平均年齢 | 30歳 | 36歳 |
入居人数 | 1.8人 | 1.5人 |
私と管理会社とで調べたこれらの数字および、申込書の内容からわかるのは、若い方が同居する傾向が、渋谷よりも三軒茶屋の方が強いこと。一方で、渋谷は全国レベルで知名度があることから、隣接する区からの移転よりも、地方など遠いところからの転入が多いという特徴があります。
こうしたリアルなデータがわかれば、募集広告のコピーの書き方や訴えかける内容をどうするか、どんな設備投資が妥当なのか、といったことの判断材料になります。仲介会社の皆さんであれば感覚値で理解していることを、ぜひオーナーには見える化して示してあげてほしいのです。
其の四 商圏の市況データを知り尽くす
同一商圏の空室率の推移、大学や大きな法人や工場があればその人数、平均家賃相場などの市況をお伝えすることは必須です。さらに一歩進んで、ポータルで何件PV(閲覧数)があったか、内見が何件あったか、仲介会社からの物確の入電件数の推移等もお伝えするべきでしょう。反響が少ないなら打つ手を追加していきます。
私の知っている北陸のある地方都市の地主系オーナーに、主要企業の転勤単身者における一世帯当たりの家賃補助の上限と許容平米数のデータを全て把握している、という人がいます。例えば◯◯證券新潟支店、◯◯広告会社新潟支社、◯◯機械新潟支社はそれぞれいくら、とリスト化しているんです。首都圏からの単身転勤者が好む設備などを用意することで、周辺相場より割高な家賃を正当化し、選ばれています。このような理想的な賃貸経営を実現するためのデータの把握は非常に大切です。
賃貸営業のプロ、この物件を一番よく知っているプロ、この商圏のお客様のことを一番知っているプロというプライドをもって、オーナーとお付き合いしていただきたいと思います。
大事なことは
仲介会社とオーナーが同じ方向を向いて満室経営に取り組むことが大事。指示をする・指示を待つとか、単にお金を払う側が上で貰う側が下とか、そのような関係性ではなく、精一杯良いお部屋をご用意して、良い方に長く住んでいただくために、仲介担当者とオーナーはワンチームであるべきだと思います。
「賃貸経営は500m商売」ですから、その限られた商圏でNo.1になるための行動をオーナーと一緒に目指せばいいのです。その商圏でNo.1なら、世界でもNo.1。
ぜひ「ご自身の商圏で、世界一の仲介会社」を目指してください。
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