富岡レポート 2022/6

ペンネーム:ルート6
常磐エリアの精神的支柱である、国道6号線、常磐線沿線で幼い頃から育つ。
東京で不動産業に勤める40代。


2022年6月某日、僕は福島県双葉郡富岡町に出張した。
きっかけは、福島出身の友人の実家が傷んでいるようなので、手伝いにきて、という誘いに「行くよ」とふたつ返事をした軽いものだった。
富岡は2017年に避難指示区域が解除され、帰還がはじまった地域だ。
空間線量(※ある空間における放射線量を表す単位の事で、基本的に地上1メートルで測定した1時間あたりの放射線量のことです)は、2014年に1.28μSv/hだったものが、現在は0.18μSv/h程度。東京の高めの場所で0.15μSv/h程度あるので、この8年で、福島と東京は大差ない状況となった。

富岡は、福島第一原子力発電所と第二原子力発電所の間にあり、震災の時、低地部分は津波が襲い、めちゃくちゃになってしまった地域だ。
常磐線は、震災前、海岸沿いを走っていたが、津波の被害により、現在は少し内陸に移されている。このあたりは震災以降不通が続いていたが、2020年3月、ついに全線開通し、品川から仙台が一本に繋がった。

東京から特急で約3時間。福島県に入り、木戸駅を過ぎたあたりから、復興エリアの雰囲気が見えてくる。まず気づいたのは、鉄道施設の新しさだった。

常磐線富岡駅

バラスト砂利(※線路や道路に敷く小石や砂のこと)も、電柱も架線も、みんな新しい。
車窓から見える道路、電柱等も全部新品のように見えた。富岡駅や、夜ノ森駅、双葉駅などは新しい駅舎だ。
真新しい駅のホームに立つと、そこから見えるのはトラックが行き交う大きな堤防。海は見えない。
富岡駅の真新しいロータリーには、田舎の駅なのにタクシーが4台も待ってる。復興関係の乗客が多いのだろうか。

富岡町の人口は、現在1,500人弱。震災前の1割程度だそうだ。たしかに街は人の気配がないように感じたが、駅からほど近い「さくらモール」に行くと、駐車場は車がたくさん停まり、老若男女が買い物や昼食を食べに集まっていた。男性客は作業着姿が多いように見えた。

高台の新しい住宅地は、建物、道路、上下水道、電柱、すべてが新しい。住宅はほとんどすべてが新築。学校などは大幅なリフォーム工事により新築並みの外観になっている。

新しく建ち並べた家々住宅街

空き地も多いが、お店、アパート、戸建て、復興住宅が一部地域に集中して建てられていて、なかなか良い街並みに見える。街中に緑が少ないのが気になるけれど、これから植えるのだろうと思った。

公園も整備されていた

中心部を外れると、空き地が目立つ。津波の影響かと思ったら、震災後のある期限までは建物解体の補助金が出たので、避難した人たちが自宅を解体したのだそうだ。

夜ノ森駅前に行ってみたら、駅舎ばかりがきれいで、街は無人状態。解除が富岡より遅かったのが理由のようで、こちらの整備はこれからのようだ。

真新しい夜ノ森駅

ここでふと思ったのが、メディアの流す、「被災地」「鎮魂」「復興」とは少し違う感覚だ。実際に行ってみると、現地では景気の良さというか、街の勢いを感じるのだ。
たしかに夜ノ森駅前の無人地帯の不気味さはあったけど、富岡駅前は、新築が続き、作業員や車がひっきりなしに行き交って、スーパーやホームセンターでも物が売れている雰囲気があった。
コンビニはローソンが1軒だけで、17時から19時の帰宅タイムになると、レジは大行列だそうだ。
最近、美容室が1軒オープンしたらしいし、駅前に新規オープンした串揚げ屋さんに17時頃行くと、すでに客席が埋まり始めていた。
1年ほど前にホテルが1軒オープンしたというし、既存のホテルは新築なみにリニューアルして、お客を出迎えていた。

この光景には、どこか既視感があると思ったら、つくばエキスプレス(TX)のオープン時だったと思った。
新しくできた駅前は、開業当時、どこも砂漠のような更地。東京の不動産屋は、「開発に20年はかかる」と馬鹿にしていたが、2022年現在、「柏の葉」や「おおたかの森」の駅前は、周辺自治体がうらやむほど開発され、大学の進出、人口の上昇が起きている。

富岡に立ち並ぶアパートはみな、大手メーカーの鉄骨建築のようだが、あれだけの更地があるならいずれデベロッパーがRC造のマンションを建てるのではないだろうか、と素直に思った。地元の人は続々戻ってくるだろうし、なにより、莫大な公共投資で、仕事はいくらでもあるように見えた。
生活サービス業のお店も各業種1軒ずつしかなさそうだし、業種がかぶらなければ入れ食い状態なのかもしれない。串揚げ屋さんの隣でお好み焼き屋さんでもやったら作業員が食べに来そうだ。なにせ、あと数十年は廃炉作業は終わらないのだから。

東京に帰る前にタクシーで丘の上のワイナリーに向かう。
歴代の総理大臣はみんなこの町を訪れ、最近も岸田総理が来たばかりだと、案内してくれたタクシー運転手が言っていた。
丘の周りの山は美しい杉やヒノキの林で、よく間伐されている。運転手によれば除染作業で間伐されたそうだが、今、日本の山でこれだけ豊富な予算をかけて間伐されている山はないだろうと思った。もともと美しく管理された人口林だが、間伐によってより美しく育つに違いない。

ワイナリーは、街と海を見下ろせる丘にあり、クラウドファンディングで運営されているらしい。既にブドウの収穫が始まり、はじめてのワインも出荷の時を待っていると聞いた。

その丘からは、福島第2原発がよく見えた。見渡す限り海岸を覆う人工物。
巨大な発電所の建屋は、海霧で霞んで、SF映画を見ているようだ。

海の向こうに見えた第2原発

かつて日本で一番小さいと言われた富岡港は、今は軍事基地のような重厚さだ。

かつては日本で一番小さいと言われた富岡港の現在

富岡町は悲惨な災害を乗り越えつつ、実は物凄いスピードと投資によって、強靭なコンパクトシティを実現しつつあるように見えた。

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