<後編>シェアハウスは日本に根付くのか

前編ではシェアハウスの歴史となぜ浸透しないかに焦点を当てた。後編ではそれらを解決しようとする各事業者の取り組みをレポートする。

前編はこちら

目次

シェアハウス事業者の努力

シェアハウスを運営する企業は、事業者は新たな入居者を掘り起こそうと創意工夫を重ねており、ここ3~4年でシェアハウスのあり方も多様化してきた。

定員が5名以下の小規模なものから、100名以上の大型ハウスまでさまざまあり、規模によって入居者同士の関り度合も変わってくる。加えて、女性専用・男性専用、シングルマザー専用など対象者を細分化させ、あえて入居者を限定して募るケースも増えている。

また、特定のテーマをもつコンセプト型シェアハウスも増加した。コンセプト型シェアハウスの掲載に特化した部屋探しサイト「コリッシュ」を運営する株式会社コリッシュの小原憲太郎社長は「オープンした2011年当時の物件掲載数は10件程でしたが、今では累計600件(17年9月時点)を超えました」とその増加ぶりを語る。小原社長によると、最もポピュラーなコンセプトは「国際交流型」だという。

この、「国際交流型」のシェアハウスの歴史は古く、シェアハウス業界のパイオニアでもある株式会社ジャフプラザ(東京都新宿区)が運営する「J&Fハウス」は、シェアハウスという言葉が一般的になる以前の1999年から展開していた。

現在650戸のシェアハウスを運営する同社の荻野政男社長は「言葉の問題や偏見から外国人を受け入れない不動産会社やオーナーさんをたくさん見てきました。それなら自分で外国人を受け入れる物件を作ったほうが早いと思ったのが立ち上げの理由です」とJ&Fハウスオープン時を振り返る。当時のJ&Fハウスはどちらかというと、行き場のない外国人の駆け込み寺のような役割を果たしていたようだ。そのため、家賃は格安の2万円から(ドミトリータイプ)。

その後に登場した「ボーダレスハウス」は、日本にいながら留学できる点をアピールポイントに急成長を遂げてきた。同ハウスを運営するボーダレスハウス株式会社(東京都新宿区)の設立は2007年。以降、125棟・1244戸(18年6月時点)のシェアハウスを運営するまでに拡大した。

橋本浩平ハウスマネージャーは「入居者の国籍構成は、半分が外国人、残りの半分が日本人となるよう調整しています。また、入居審査ではコンセプトに掲げている「国際交流に興味があり、かつ交流意欲があるかどうか」を見極めています。家賃が割安だからとか、職場が近いからという理由だけで入居を希望される方がいますが、そのような場合はお断りしています」と徹底した環境づくりを行っていると説明する。家賃は3万円台~8万円台だという。

ペットをコンセプトにしたシェアハウスも一定の支持を得ている。ペット共生型シェアハウスを運営するHOUSE-ZOO株式会社(東京都渋谷区)では、滑りにくい床材や爪研ぎしづらく消臭効果のある壁紙を採用し、キャットタワーなども取り入れている。さらに、ペット専用の洗い場と洗濯機を完備し、ペットも人も暮らしやすいシェアハウスを展開している。

動物に囲まれて育ったという同社の田中宗樹社長は、HOUSE-ZOOを作った理由について、「故郷の宮城から東京へ引っ越してきた時、動物と暮らすハードルの高さに驚きました。ペット可物件は、通常の物件と比較すると家賃や敷金が割高です。さらに、物件自体が少ないことを知りました。設備などを共有するシェアハウスなら、建築コストを落とせると考え、ペット可でも低家賃を実現できると考えました」と語った。現在は東京・神奈川・埼玉で展開しており、家賃は3万円台~8万円台となっている。

この他にも、音楽スタジオつき、読書好き・旅好き向け、起業家支援などシェアハウスのテーマは多岐に渡っている。

コミユニティを求める入居者

シェアハウスの企画・運営を行う株式会社絆人(東京都板橋区)はコミユニティ作りに重点を置いている。同社の平岡雅史社長は妻と、2017年に生まれたばかりの息子さんと共にシェアハウスで暮らしている。

「本当の家族のようなコミュニティ作ることをテーマに掲げ、どうやったら入居者同士が自然に交流できるかを考えて運営しています。そのため、イベントなども入居者任せにせず、私たちで企画をしています」(平岡社長)

同社が運営するハウス「十人十色の家」は、子連れのファミリーでも入居可能。また、シングルで入居して、その後結婚して家族が増えても、そのまま住み続けられるという特徴がある。部屋のタイプはドミトリー、セミプライベート、個室の3タイプから選べ、広さは4.1~19.2帖、家賃は3万円台~8万円台だ。

また、事業者と入居者とのコミュニケーションを大切にしている会社もある。株式会社めぐみ不動産コンサルティング(神奈川県伊勢原市)だ。女性・シングルマザー専用シェアハウスの「めぐみハウス」を運営する同社の竹田恵子社長と入居者は、お互いを「めぐみファミリー」と呼び合い、ラインのグループも作ってコミュニケーションをとっている。自身がシングルマザーで苦労した経験から、そういった人たちをサポートできるような環境を作りたいと「めぐみハウス」を立ち上げた。そのため、入居者から相談を受けることもよくあるといい、まるでお母さんのような存在だ。

家賃は4万円台で、原則保証人保証会社なしで即入居可となっており、何等かの理由で急な引っ越しが必要なケースでも心強い。

もちろん竹田社長とだけではなく、入居者同士の交流も盛ん。ある入居者のシングルマザーは「帰ったら誰かいるとうれしい。一人娘がいますが、家に他の入居者がいることで子供が寂しがらないです。タイミングが合えばみんなで一緒にごはんも食べます」と話す。

プライバシーを確保したい入居者

このようにシェアハウスと言えば、充実した交流スペースが設けられ、加えて入居者向けのイベントが開催されるなど、コミュニティをウリにしたシェアハウスが多い。しかし、その利便性に共感しながらも、親密な人間関係やコミュニティに負担を感じる入居者も少なくない。そのため、個と公を明確に分けたハウスも登場している。

都内を中心に7棟70部屋のシェアハウスを運営するわびさびハウス株式会社(東京都渋谷区)が2017年にオープンした「わびさびハウス自由が丘」は、他の入居者と一定の距離感を保てる工夫がなされている。個室には2つのドアが設置され、一つ目は直接外につながる玄関ドア、2つ目のドアはシェアハウス内部につながる、という珍しいレイアウト。そのため、一つ目の玄関ドアを使えば、他の入居者と顔を合わせずに外に出たり、個室に戻ることができる。家賃は8万円台からだ。

「みんなとにぎやかに過ごすのは好きだけど、たまには他人と顔を合わさずそのまま部屋に帰りたいという入居者の声をきっかけに作りました。2つのドアが設置された物件は自由が丘のハウスだけですが、今後もニーズがあればこのような物件を増やしていきたいです」と同社の天野康伸社長は説明する。

よりプライベートを重視したシェアハウスを100棟1000室展開するのは、ライフデザイン株式会社(東京都渋谷区)だ。同社ではリビングルームなど交流スペースを持たないシェアハウスを展開している。一部のシェアハウスでは、各個室内にミニキッチンを設け、トイレと浴室のみ共有するスタイルとなっている。家賃は4万円台~6万円台だ。同社担当者は「キッチンが共有の場合、他の入居者が使っている時は待たなければいけませんでした。しかし、個室内にあれば他の入居者に気兼ねすることなく好きなタイミングで水回りを使えると好評です。カバン一つで入居できる手軽さに加え、人見知りの方も気軽にご入居頂けます」と説明する。

さらには、同一の建物内部を一般賃貸とシェアハウスに分けたハイブリッド型の物件も出てきた。都内で31棟のシェアハウスを展開する株式会社シェアカンパニー(東京都港区)が運営する「R∞F明大前」(東京都杉並区)だ。一般賃貸のワンルームにはそれぞれキッチンや浴室があり、シェアハウスとは玄関も異なるため、他の入居者と顔を合わせずに生活できる。しかし、屋上が共有スペースとして開放されており、一般賃貸とシェアハウスの入居者はそこで交流することが可能だ。屋上は、野外シアター、テーブル、チェアなどが並び、思わず長居してしまうような空間となっている。部屋数は全27戸で、うち9戸がワンルーム、残りの18戸がシェアハウスだ。家賃はシェアハウスが6万円台~7万円台、ワンルームが8万円台~9万円台。

このようにシェアハウスは形を変え、さらなるニーズに合うべく進化してきているのだ。

緩やかに広がるシェアハウス

全体数からすると、シェアハウスの数はまだまだ少ない。しかし、緩やかではあるが、根付きつつあるのも事実だ。

シェアハウスへの関心の高まりは、シェアハウスのポータルサイト「ひつじ不動産」への問い合わせ件数の増加率にも現れている。同サイトを運営する株式会社ひつじインキュベーション・スクエアの発表によると、サイト開設時の2005~2013年までの累計問い合わせ件数は約12万件だった。しかし、2013~2016年にはわずか3年間で問い合わせ件数が倍増し、21万件を超えたという。

また、2017年10月から始まった住宅セーフティネット改正法でも、シェアハウスに白羽の矢が立っている。これは、空き家などを住宅セーフティネットの登録住宅とする前提で、シェアハウスへ改修すると、1室あたり100万円も補助金が出るという太っ腹な制度だ。登録住宅は、住宅を確保する際に何らかの支障があり配慮が必要な低額所得者・障害者・外国人など、いわゆる住宅確保要配慮者に向けて貸し出されることになる。国土交通省の勝又賢人企画専門官によると、一般の賃貸住宅よりも、割安で入居できるというシェアハウスの特性が活かせるとの理由から、補助金の対象になったという。

株式会社ひつじインキュベーション・スクエアの北川大祐社長は、シェアハウスの普及についてこう語る。「2012年頃はドラマの影響やメディアによりシェアハウスがもてはやされました。結果、そこに住む人たちは“意識高い系”や“オシャレ女子”といったイメージがつき、普通に住みたいという女性たちが引いてしまった部分もあります。シェアハウスでもとにかく暮らしやすく居心地の良い家をつくることが大切だと思います。暮らしやすければ、長期間入居してもらえるはずです。そこには運営者側の企画力やコミュニティも含めた管理力が問われてくることになるでしょう」

国の取り組みにシェアハウスが採用されるなど、普及に向かわせる土台は完成しつつある。
前編でも述べたように、シェアハウス特有のトラブル、大都市圏への一極集中化など課題も残ってはいるものの、各事業者も入居者獲得に向け、現状に甘んじることなく改善を重ねている。これからは、シェアハウスへの定着率をあげると共に、需要を喚起してその魅力をいかに広く伝えていけるかが、シェアハウスを根付かせるカギと言えそうだ。

Hello News編集部 須藤恵弥子

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