アメリカでは、タイニーハウスと呼ばれる家が密かに注目を集めている。タイニーハウスとは、余計な物を手放しライフスタイルに合わせ自分好みにアレンジした小さな家のこと。タイニーハウスに住む人々の輪は年々広がりをみせ、人々の心に影響を与え始めている。
本特集では、タイニーハウスとは何かという基本的なお話から、国内での現状なども交えてご紹介する。
精神的な豊かさは家の大きさでは図れない
そもそもタイニーハウスはどのような家を指すのか。タイニーハウスに特化したメディアを発信するYADOKARI株式会社(東京都中央区)の相馬由季部長は「明確な定義はありませんが、一般的には20平米以内・1000万円以内で購入できるものと言われています。車輪つきで移動が可能なタイプもあります」と説明する。
タイニーハウスが受け入れられる背景として、大きな家に住めば必ずしも幸せになれるとは限らないという事実に人々が気づき始めたからだと、株式会社ツリーヘッズ(山梨県北杜市)の竹内友一社長は指摘する。
一般的に大きな家に住むには、ローンを組むことが多い。ところが、その返済が終わる頃には大規模な修繕が必要になる。そうなると、一生の大半を“家のために働く”ことになりかねない。このことに疑問を抱いた人々が、大きな家と余計な物を手放して、小さな家でシンプルな暮らしをする道を選択したというわけだ。また、2007年のサブプライムローン問題に端を発する金融危機も、その流れを後押ししたという人もいる。
竹内社長によると、タイニーハウスの制作を専門に手がけ、その普及のためにワークショップを開くなど、国内ではパイオニア的存在だ。竹内社長によると、タイニーハウスムーブメントの発端は、1999年にアイオワ大学の美術教師ジェイ・シェイファーさんが約10m²のタイニーハウス(TheELM)を建てたことに始まったといい、翌2000年に彼がアメリカの情報誌ナチュラルライフで、賞を受賞したことで注目され全米中に広まっていったという経緯がある。
2017年には、アメリカでタイニーハウスに住む人々と暮らしを紹介するロードムービー「Simplelife」を制作。物を手放したことで、たくさんの自由を手に入れた人たちの言葉や暮らしが写し出されている。取材を続ける中で「限られたスペースの中では、好きなものしか置けないので住まい手の個性が現れます。カップひとつにしても、ひとつひとつにストーリーがあり、選りすぐりのものだけが置かれていました。そこには自分の時間を多く持てるようになり、大きな家に住んでいた頃よりも満たされた生活を送っている人たちに出会いました」と竹内社長は語った。
竹内友一社長は2010年に株式会社ツリーヘッズを立ち上げて以来、現在までに40棟のタイニーハウスとツリーハウスを制作してきた。依頼人の8割が商業目的で購入し、ホテルや店舗として使われているといい、残りの2割は休憩小屋や住居の一部として使っているそうだ。住むという観点でみると、普及にまだまだ時間がかかりそうだ。
タイニーハウスに出会える場所
日本では、車輪がついた移動中のタイニーハウスに偶然遭遇できるチャンスを除けば、お目にかかれる場所は限られている。そんな中、タイニーハウスを用いたホステル「Tinys Yokohama Hinodecho」(神奈川県横浜市中区日出町2-166)が2018年5月にオープンした。
1棟14㎡のハウスには最大4人まで宿泊でき、シャワーやトイレも完備。ホステルは5棟にわかれ、うち1棟はカフェ・バーだ。宿泊価格はドミトリーが3600円から。そして1棟貸し切り(4人まで宿泊可)は1万8000円からの設定だ。予約は同ホステルのホームページやホテル予約サイト「Booking.com」などから受け付けつけている。ゲストの7割が日本人で、残りの3割は外国だといい、海外からは新しいもの好きの台湾人などアジア圏のゲストを中心に予約が入っているという。
遊休地活用の裏技
同ホステルの企画・運営を行うYADOKARI株式会社の相馬部長によると、今回のプロジェクトは、京浜急行電鉄株式会社(東京都港区)から線路高架下の遊休地活用について相談を受けたことが始まりだったという。
「10年ほど前まで日出町一帯は風俗街として知られていました。そのあと一斉摘発が行われ、街は再生に向けて動いています。そのような背景があったので、街おこしの一環としてタイニーハウスの活用を京浜急行電鉄株式会社さんへ提案しました」(相馬部長)
そして今回の提案が受け入れられたため、同社が京浜急行電鉄株式会社から土地を借り、ホステルをオープンさせた。
高架下という特殊な場所だが、こういった場所でこそタイニーハウスを活用するメリットが大きい。「将来的に移転させることになっても、車輪がついているので移動が簡単です。さらに扱いとしては車両にあたるので、使用用途が限られ住宅が建てられない土地でも住むことができてしまうんです」と相馬部長は言う。つまり、店舗、オフィス、住宅いずれにせよ置ける場所が広がるという裏技的メリットがある。ちなみに、線路の真下ということもあり、騒音も気になるところだが、ハウスの扉をしめると、通過音はかすかに聞こえるものの、ほぼ気にならないレベルだった。
相馬部長は「今まではタイニーハウスを気軽に体験できる場所がありませんでした。まずは1回泊まってみることでタイニーハウスがどういうものかを知ってほしいと思います」と語った。
タイニーハウスを使ったホテルやそれらを専門に制作する会社が、ひとつ、またひとつと増え始めている。しかし、その存在は多くの人にとって未知のものだ。暮らし方が多様化するなかで、その選択肢のひとつになるのか、ならないのか。答えはまだ出ていない。
Hello News編集部 須藤恵弥子
コメント