正直者は通用するか。漫画『正直不動産』にハマル人々

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闇の多い不動産業界

家やマンションなどの不動産は、私たちの暮らしと切っても切れない存在だ。しかし、その取引に際しては、専門用語が多く、不透明さを感じる人は多いはずだ。実際、消費者にとって都合の悪いことはひた隠し、いいことばかりを並べ立てる詐欺師まがいの営業マンの言葉に踊らされ、不動産で失敗したという人は少なくない。

そんな闇だらけの不動産業界を描いた『正直不動産』が話題を呼んでいる。主人公いわく「嘘ついてなんぼのイカれた世界」の中で、本当のところを次々と明らかにしていく物語だ。

実情を赤裸々にしてしまう作品だけに、業界当事者からは敵視されているのでは!?と思いきや、そうでもないらしい。「ダークな不動産業界をよくしていこうと考える不動産会社の方から作者に会いたいと連絡があり、実際に会うこともあります」と語るのは、同作品の編集を担当するビッグコミック副編集長の田中潤さんだ。業界関係者から見ても、リアルに描かれていると言われる同作だが、それもそのはず、話のネタ元はまぎれもなく現場から来たものなのだ。

現場取材による現実さながらのストーリー

そんな話題作の原案を担当しているのが、詐欺をテーマにしたマンガ『クロサギ』の原案者としても知られる夏原武さんだ。夏原さんは、大手・中小不動産、ブローカー、買い手・売り手・貸し手・借り手などあらゆる立場の人物に取材を行い、その数は一話平均10人以上にのぼるという。

話を聞きに行ったからといって、全ての人が表と裏を語ってくれるわけではない。だが、情報を掴む方法はある。「A社のことを知りたければ同業他社のB社に行くことです。うちでは違法なことはしていないけどA社ではこんなことをしている、と自社以外のことであれば話してくれるものです」

その一方で、ざっくばらんに包み隠さず教えてくれる人もいたという。作品は当事者から聞いた数々の事実を元に創られているため、限りなく現実に近いフィクションとなっている。

主人公の永瀬財地は、口八丁で不動産会社のトップ営業に登りつめた営業マン。しかしある日を境に嘘が上手くつけなくなってしまい、今までとは正反対の正直営業をしなければならなくなった。そんな状況に悪戦苦闘しながらも、まっとうなやり方で奮闘する姿を描き出している。

正直な営業はどの業界でも通用する

夏原さん自身は、もともと不動産業界について「賃貸ですら、実際には存在しない条件の良い物件で客の来店を促す“おとり物件”があるくらいなので、正直な業界ではないと認識していました」という。しかし、実際の取材で、誰もが知っている大企業でさえグレーなことをしている現実を知って、驚いたそうだ。例えば、聞かれないことは答えないという客泣かせの態度は、突き詰めれば、動く金額が大きいために、多くの手数料を稼ごうと、金儲けに走りやすい不動産業界の風潮によるものだと夏原さんは指摘する。

「とはいえこの作品は告発マンガでもウンチクマンガでもありません。誰もが関わらざるを得ない不動産への向き合い方、不動産取引に関する知識の大切さを知ってもらいたい。正直な営業が大切なのは、不動産以外の業界でも同じではないでしょうか。誠実でいるからこそ得られる大きな果実もあるということを伝えていけたらと思っています」

共感の裏側にある社会の縮図

編集担当の田中さんは作品の見どころについて「本音で不動産業界の裏側をズバズバ話してしまう主人公をコメディとして楽しみながら、不動産取引で損をしない実践的な知識を得られるところです」と説明する。

編集部には、「自分も営業職なので心に刺さった」「不動産がらみで嫌な経験をしたことがあるので、スカッと爽快な気分になった」といった読者からの声が寄せられているという。また、ある人材派遣業出身の読者が投稿した『正直不動産』の書評文には、 「私の会社も顧客主義をうたいながら実際はそうではなかった」という嘆きの声があった。 この文章からは、不動産営業の現場と似たような境遇にある企業が業種を問わず存在していることがうかがえる。 

昨今は、サービス残業、パワハラ、名ばかり管理職など数々の問題を抱えるブラック企業がメディアをにぎわせている。ブラック企業となってしまう理由の多くは、会社の利益が優先されていることである。『正直不動産』にはそんな社会の縮図が詰まっている。だからこそ業界をこえて読者の共感を得ているのだろう。

Hello News編集部 須藤恵弥子

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