<新社会人へのエール>“フーテンの寅”がブラック銀行で学んだこと《番外編その2》

今回は4月25日号で掲載した、梅沢励さんの人気コラム「6つの“家”を持つ“現代版フーテンの寅”が伝授する『多地域居住ライフ』のススメ」の番外編のつづきをお届けする。日米に家を持つ自由な暮らしの達人、励さんという人間を作るのに影響した銀行員時代の話をもとに、“現代版フーテンの寅”を解剖していく。

梅沢励
日本に2つ、アメリカに4つ、合計6つの家を持ち、4台のマイカーを乗りこなして自由な移動を繰り返す“現代版フーテンの寅”こと、梅沢励さん。東京、千葉、マイアミ(フロリダ州)、オーランド(フロリダ州)、ジャクソンビル(フロリダ州)、アトランタ(ジョージア州)を行き来する「多地域居住」の暮らしは、今年で16年目に突入した。5年前、グリーンカード(永住権)を手に入れ、生涯アメリカ居住を宣言。オンラインアパレルショップで生計を立てながら、週末は、アメリカ国内の催事場で日本から運んだ飴玉やグミ、チョコレートを売りさばく気ままな暮らしを楽しんでいる。

目次

マニュアル化された人生

マニュアル化された仕事が大嫌いでした。

すべてのことはマニュアルに書いてある。それが銀行です。ブリタニカの百科事典みたいなマニュアルが棚にずらーって並んでいるんです。みんながそれを使う。ただ、どこに何が書いてあるかなんてさっぱり分からないです。だって百科事典だもの、、、しかも日本語だけど、日本語に見えない。まったく読みたくない、面白くないもの。

仕事で分からないことがあると、まず言われます。

「マニュアルは読んだか?」

どこを読んで良いのかすら分からないのにです。

例えば、システムにはこのような入力フォームがある。この数字の箇所にひとつずつ番号を入力していく。

1番「0」
2番「1」
3番「1」
4番「0」

1番は何を意味するのか?ってのがマニュアルに書いてある。この場合、1番には個人なら「0」、法人なら「1」を入れる。この作業が50番まで続いていく。

また、貸出期間を記入する場合もマニュアルに書いてある。でも、例えば30日に貸し出し、毎月25日払いだったら、どうなるのか。21日に貸し出した場合、翌月25日から支払いが始まるのか。マニュアルによると、初月に支払いが無い場合は、30番に「1」を入れておかないといけない。でないと、21日に貸し出すとすると、4日後に支払い日が来る。4日後に支払いが来ていいのか?それとも翌月から支払いをするのか?

「あーーーめんどくせーーー!!! どっちでもいいじゃないか!」と思うんだけど、、、それを決めなきゃイケナイ。

マニュアルが改訂されることもよくある。そんな時は、それをちゃんと読んでおきなさいって言われる。

この言葉は、僕の中では下記の様に聞こえる。

ブリタニカを全部読んでおくように。そしてある月に、新種の昆虫が発見されたら、一部、ヨーロッパに生息している昆虫がアジアでも発見されたので、アジアでも生息と表記が変えなさい。そして聞かれる。「お前、この昆虫はヨーロッパだけじゃないだろ!アジアでも生息ってこないだFAXで改訂版が来ただろ!ちゃんと読んでないだろ!マニュアルは読んでるのか!!!」

読んでないよ、、、そんなの知らないよ。まったく。あーあー。

しかも、その昆虫ってさ、ゴキブリみたいなやつだったら「そんなのどこにでも生存してるじゃん、東京に生存してるの昔から知ってたし」と言っても、「そんなのマニュアルには書いてない!!!マニュアル通りにやれ!」と。

「やれやれだぜ」って思うんだけど、「教えていただきましてありがとうございます。もっと一生懸命ゴキブリについて研究したいと思います」って態度で示すわけ。まぁ僕も悪気があってやってなかったし、真剣に取り組んでいたと思うけど、客観的に見てみると、変な感じが今でもする。この状況を見て、友人からは「お前の会社は、学校みたいだね」っていつも言われていた。

マニュアルを作ると、それしかできない人間になる。

マニュアルがあることで自分で考える力が身に付かない。銀行は世の中がAI化すると、人が必要なくなると言われている。今まさにそういう時期を銀行は迎えている。そんなの20年も前から知ってた、信用作業は得点性だもの。

一緒に仕事をする人からはたびたび言われた。

「何をすればいいのですか?」

僕はいつも言う。

「自分で考えて行動しなさい」

それができないなら、右足を1歩前に、左足を1歩前に、交互に続けて、落とし穴があったら、そのまま落ちろ!って。

そうは言っても誰も落とし穴には落ちない。自分で考えて行動するからです。それができるのに、「何をすればいいですか?」って聞く。

「これをしたい、あれをしたい、このようにしたいけど、どうでしょうか?」と聞かれれば、僕の持っている狭い知識と浅い経験から考えられるベストなアドバイスをいつもしてあげる。それを精いっぱいやる。

ある時、言われたことがある。「この人って何も教えてくれない人でしょ?」って。

まさにその通り、自分から進んでやらない人にとって、僕はまったく何もしてあげない人だと思う。

でも、僕を叩けば、色々なものが出てくる。「叩きに来いよ」と思う。困っていれば助けるけれど、僕からこれをやれあれをやれとは言わない。

マニュアルが好きなら、マニュアルがある会社に行くのが良いと思う。そして、そのマニュアルに従って、落とし穴に導かれるのだ。

勘違いエリートばっかりだった

形式化しているような敬意を払ってくるから、みんな自分は偉いと勘違いする。

お客さんは銀行員に頭を下げる。だって公共的な役割を果たす銀行との取引ができなくなると困るから。それは警察も先生も一緒。ちなみに、彼らの飲み会はヒドイ。自分が一番偉いんだと思ってるらしい。人を馬鹿にする傾向にある。それはお客さんのせいでもあると思う。みんなが頭を下げてくるから、人を蔑んだりするんだと思う。

僕はちょっと気を抜くと、自分が偉いと勘違いしそうで、嫌だった。別に数万人いるうちの1人でしかないし、バッチが取れればただの人。ある日僕は、赤坂見附の駅近くを軽自動車をぶっ飛ばして営業に行くところだった。信号が赤に変わり、横断歩道を人が歩きだすと僕は思った。「邪魔だ!俺は急いでいるんだ!跳ね飛ばしてでも進みたい」。

はっ!と気が付いた。僕は頭がおかしくなっているかもしれない。。。。と。

僕の上司も勘違いしていた。「数千万円くらいの金でガタガタ抜かすな」くらいに顧客を馬鹿にする。自分のお金ともなれば、数千円でも出し渋るくせに。有名大学を出て有名銀行に就職したくらいでエリート気取りだ。大型店舗で働いて若くして役職がつけばまた更にエリートだ。

上司にヘコヘコしてるくせに部下に厳しい。気持ち悪くて仕方ない。こんな糞みたいな人が世の中からエリートと呼ばれる。世の中も知ってる、こんなやつは糞だということを。そして自分たちも知っている上司が糞であることを。でも自分が糞になっていることを分かっていない。

間違った常識

「港の見える丘銀行 はみ出し銀行マンシリーズ」は、銀行員の日常を描いた小説だ。その後にテレビで放送された「半沢直樹」のドラマもそうだったが、まったく笑えないし、むしろ、思い出すことが多くて、ドキッとすることが多かった。

同僚が病気で倒れるシーンなんか、ホントに怖いと思ったし、その後の冷遇も当然だと思った。銀行の常識。怖いところだ。

僕が「サラリーマンをずっと続けることは是であるのか」と大きく心を揺さぶられた本がある。

『金持ち父さん 貧乏父さん』だ。このロバートキヨサキの本を教えてくれたのは、取引先の副社長だった。「金持ちトウサンって知ってるか?」と言われて、「この人、金を持ち出して倒産でもするんじゃないか!?」って疑ったんだけど、よくよく聞いてみるととってもいい本だった。

うん百億円を振り込んできた大金持ち

ある日、大金持ちのお客さんに出会った。

初めて会った時、開口一番「お前のところの投資信託で2億円損した!」と言われた。

そして、「損をしたことに文句を言ってるんじゃない!損をしていることを教えてくれないことに腹を立てているんだ!」と怒られた。また、「半年に1度、手紙で損益報告がを送っていると前任者に言われたぞ!ふざけるな!!!」と。

それは申し訳ないということで、銀行が作る日報を、毎日朝10時にメールで報告をすることにした。これは毎朝の日課になった。どうせ読んでないと思っていたけれど、「読んでるよ」と言って、褒めてくれた。

そのお客さんは、ある時、口座に数千万円入れてくれた。このお金はすべて絵を買うための資金ということで、日によって増えたり減ったり、時々うん億円も入る時もあるそうだ。それからというもの、僕は振り込みの領収書を届けることが日課になった。

その人の会社は原付で5分の所にあるけれど、いつ会社に来るか分からない。届けに行くと、秘書がいて、その人に通帳を預けるのだけれど、できれば本人に渡したい。。。

そこで、秘書に銀行のディズニーの柄のついたボールペンやノートなどお土産を持っていったりしていたら、秘書からこの人が来るタイミングを教えてもらえるようになった。「あと15分で会社に来るって言ってるわよ」なんて裏情報を。

連絡があったらなりふり構わず、原付を飛ばして5分で到着。何食わぬ顔をして「受け取りサインください」ってやってたら「何でお前いつもいるんだ!?」 って。ふふふ。。。

そのうち、話をしてくれるようになって、買ってる絵の話を聞いたり、作った博物館の話を聞いたり、さらには美味しいケーキ屋の話を聞いたりして。絵は観賞しに行ったし、博物館も訪れたし、ケーキ屋もスーツで30分並んで買ったりした。この人の書いた本も全部読んだ。ちなみに、スイーツを全種類買って、女性行員にあげたらすごく喜ばれた。その代わり一口ずつ全部味見させてもらった。結構有名なお菓子屋さんだったらしい。表参道にあるお菓子屋で、真昼間にスーツを着て並んでいるのは僕だけだった(笑)

そうこうしていると、ある日、「外資系の銀行との取引を辞めて、お前んところにすべて預ける!」って言われて、うん百億円が一気に口座に入ってきた!

ドーン!

すげー!

何がすごいって、通帳に桁が入らないわけよ。手書きでゼロを増やして書いたんだけど、なんか嘘くさいなー(笑)でもちゃんと入ってますから!僕が手で書きましたから!って(大笑)

今思えば、その人は僕に色々と仕事をくれたと思う。

現金を運ぶ仕事もした。口座から下ろした3億円が重いから運ぶのを手伝ってくれと言われて(笑)。ショッピングバッグみたいなのに入れて運んだ。映画みたいだなー!って言われたけど、僕にとってはただの重い袋でしかなかった。

また、仲間を紹介してくれたり、息子の口座を紹介してくれたりもした。彼とつながる仲間はみんな大金持ちだったし、個性がすごく強かった。だからかもしれない。銀行は彼らの動きについていけなかった。ある時、お客さんからの計らいで、僕は自分の担当でもない支店の口座の得点を獲得できた。ただ、実際は僕の得点にはならなかった。その理由は、銀行の事情でしかなかった。お客さんには深々とお礼を伝えたけれど、その支店からは何も言われなかった。

僕が毎朝10時にメールを送ったり、お客さんのところに原付を飛ばしていったりというコツコツやってきたことの結果なのに。自分は銀行からもう少し評価されても良かったと思うけれど、当時の銀行には僕の行動を評価するシステムがなかったんだと思う。

目標の100倍やったら、どんだけの評価が来るんだと!わくわくしたのに。

という訳で、評価方法がないからこの件についてはオフレコードとされた。そりゃねーよなぁー。

そして僕は銀行を辞めた。

梅沢励

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