「住宅性能体感キッズ」が突きつける、賃貸住宅の品質向上

※本記事は「武蔵TIMES 平成30年/9月号」(発行:武蔵コーポレーション)に掲載された「吉松こころの不動産最前線」に加筆修正を加えたものです。

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「住宅性能体感キッズ」の時代

「住宅性能体感キッズ」。

リクルートのSUUMO編集長、池本洋一さんに、今後の賃貸経営で気になるキーワードを聞いたところ、返ってきた答えがこれだった。

これから数年以内に大学生になったり、新社会人になる子どもたちは、住宅性能表示制度開始以降に生まれている。

住宅性能表示制度とは、2000年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく制度。特に三本柱のひとつ、「様々な住宅の性能をわかりやすく表示する『住宅性能表示制度』を制定する」ことが知られている。様々な住宅の性能とは、具体的に「構造耐力、省エネルギー性、遮音性等」を指し、池本さんの言う「住宅性能体感キッズ」とは、生まれた時からこれらの性能が非常に高い恵まれた環境で育ってきた子どもたちのことを表す造語だという。

※引用元:一般社団法人住宅性能評価・表示協会

つまり、「結露」なんて見たこともなければ触ったこともない。「隙間風」に震えたことなんて一度もないという世代だ。

そういう子どもたちが賃貸住宅に入居してきたらどうなるだろうか。

「寒くてたまらない」、「隣がうるさい」、「エアコンを長時間つけていたら、びっくりするほど電気代が高くなった」、そんなクレームがバンバン上がってきそうでヒヤリとする。

劇的に進む賃貸住宅の省エネ化

「こういう若い人たちの違和感が源泉となって、賃貸住宅の品質は向上していかざるを得なくなるんじゃないかと予測しています」と池本さんは語る。

これから賃貸住宅を建てるオーナーであれば、この「住宅性能体感キッズ」の登場を念頭に置いた企画が絶対に必要だというわけだ。

2020年には、2017年4月に施行された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が改正され、住宅、非住宅すべての規模で適合義務化となる。

※引用元:国土交通省

国は、「建築物部門における省エネルギー対策の抜本的強化が必不可欠要」を掲げ、建物の省エネ化を強烈に推し進めていく姿勢を打ち出している。小規模建物であれば、あくまでも努力義務とはなっているものの、一方で「住宅トップランナー制度」という制度が設けられ、年間150戸以上新築する事業者に対しては、必要に応じて大臣が「勧告」「公表」「命令」を下すとしている。

原発が止まり、火力発電所に依存する状況下において、各住戸での省エネ対策は至上命令とも言えそうだ。

改正省エネ法と2020年問題

あまり報道されていないが、省エネ法が改正される2020年以前と以降とでは、1981年(昭和56年)の建築基準法改正によって建物が「旧耐震」と「新耐震」に明確に分けられたほどのインパクトを生み出すとも言われている。

つまり、2020年以前に建てられた、改正省エネ法の基準を満たしていない建物は、将来的に「既存不適格」になってしまう可能性があるというわけだ。そうなると売るに売れない、市場価値も大幅下落ということになりかねない。

世界の賃貸市場を取材し、現地を見て回る池本さんによれば、北欧の賃貸住宅は「光熱費込み」が一般的だという。

「大家さんからすれば、省エネ性能の高い賃貸住宅を建てるのも、性能の低い賃貸住宅を建てるのも、入ってくる家賃は同じになります。そうなると、光熱費がかかる住宅は手残りが少なくなるので、省エネ性能の高い賃貸住宅を建てようとするインセンティブが働きます。本来は日本も光熱費込みにしていったほうが、住宅の品質は上がっていくのではないでしょうか」(池本さん)

2020年まで残り1年。2020年といえば東京五輪のイメージが先行するが、「省エネ法改正」も賃貸オーナーにとっては忘れられない重要な転機になりそうだ。

Hello News編集部 吉松こころ

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