入居者に炊飯器を届ける社長の素顔

「家賃債務保証会社が入居者に食べ物を配っているなんて聞いたことないでしょ!?」

そういって笑顔で語りかけるのは、株式会社Casa(東京都新宿区)の社長、宮地正剛さんだ。身長は173cm。スラリとした長身に、サラサラヘアがよく似合う。ギラリと光る大きな目は常に会社の中を隅々まで見渡しているようだ。

会社に一歩足を踏み入れると、広々としたロビーの一角に、驚くものが飾ってあった。ガラスケースに丁寧に収められていたのは十数枚の手紙。それは、同社がこれまで関わってきた入居者から寄せられたものだった。

「大きな優しさをありがとうございました」
「ご配慮いただき大変感謝しております」

一枚一枚にびっしりと感謝の言葉が綴られている。

2017年10月に東京証券取引所市場第二部に上場し、わずか1年後の2018年10月には一部への市場替えへと導いた同社の宮地社長に話を聞いた。

目次

「しっかり食べて普通の暮らしに戻って!」

入居者に、食品の配送をしはじめたのはいつからでしょうか。

「フードバンク支援活動」と銘打ち、2010年の3 月から行っています。

フードバンクとは、食品メーカーで出たロス食品を集めて無償で提供するという活動です。ロスといっても賞味期限は、まだまだ余裕があるものばかりで、商品には直接影響ないが、ダンボール箱が破けてしまった等の理由で廃棄対象になってしまった食品などです。

そういったメーカーの食品ロスを、弊社を通して入居者へ配布しています。ただ配るだけでなく、実は、子供がいる家庭、高齢者の家庭、電子レンジがない家庭など考慮して社員がひとつずつ箱詰めをしています。

ついこの間は、お米を届けたはいいが「炊飯器がない」ということが判明し、すぐにAmazonで炊飯器を買ってお届けしました。

始めたきっかけは何だったのでしょうか。

お客様目線に立つ取り組みの一貫として、お客様からの相談を受ける、窓口「生活相談室」という専門部署を作りました。

家賃の支払い相談に始まり、住み替え相談や行政サービスのご案内など、何でも相談に応える部門ですが、ここの担当者がフードバンクという活動を知り、私に教えてくれたのです。

すぐにフードバンクの代表にアポを取って会いにいき、食料品をいただけないかと相談したところ、先方も配布しきれないほどあるのでありがたいという話になり、さっそく取り組みをスタートしました。食品ロスを減らすことにも一役買っています。

そもそもなぜ入居者に食べ物を届けようと思ったのでしょうか。

当社は、理念に「住の確保」を掲げています。当社の保証をご利用いただいているお客様に食べ物の心配をしてほしくない。食べられないことに悩まずに、どうか通常の生活に戻ってほしい。その解決の糸口になるのではと考えました。

もう一つの理由は、社員のやりがいです。家賃債務保証会社の仕事には、家賃の集金業務があります。集金業務だけでは当社目線になりがちで、お客様からの感謝も感じられなくなります。しかし、お客様に食品を持っていくことで直接、「ありがとう」と声を掛けられることもあります。今ではそれが社員のやりがいになっており、積極的に食品の仕分けや配送のボランティアにも参加しています。

保証会社なのに仲介支援!?

昨年10月に東証一部に市場替えを果たしました。何か大きな変化はありましたか。

大きな変化という変化はありません。

しかし、上場前と比べると信用度が増し、大手とのアライアンスも組み易くなったということはあるかもしれません。大手企業から提携のお声がかかる機会は実際に増えました。

7月末で2019年度の上期が終わりますが、上期を振り返り、業績はいかがでしたか。

今年で第11期目になります。おかげさまで、保証契約件数は、前年比10%アップしました。

主な要因の一つは、10人以下、1000戸未満の管理会社に対して専門部隊を作り、積極的に訪問して営業を強化したことにあります。さらに、「家主ダイレクト」が好調で利用者数も右肩あがりで伸びており、2019年6月末時点で1万6000人以上が利用しています。

「家主ダイレクト」とは何でしょう。

自主管理オーナー向けに賃貸経営をサポートするサービスです。家賃管理を含む家賃債務保証サービスに加え、仲介のサポートも行っています。

空室があってもオーナーは、1~2社程度の会社にしか仲介を依頼できないケースが多いです。入居率をあげるには、集客力のある仲介会社に依頼するのはもちろんのこと、数多くの仲介会社にまずは物件情報を知ってもらうことが肝要です。

弊社は2万店の仲介店舗のネットワークがあります。当社がオーナーの空室情報を提携仲介会社に配信することで広く入居者を募集することが可能になります。このサービスは大変好評をいただいています。

仲介会社を増やすだけで成約が増えるとは考えにくいですが……。

仲介支援サービス以外に、募集物件のチラシ制作もサポートしています。

従来の一辺倒なチラシでは入居希望者の目には止まりにくいです。写真をふんだんに使い、デザイン性の高いチラシを仲介会社に持っていくことで成約率は変わってきます。

弊社では、デザイナーを雇用し、専門に制作する体制を整えています。

ちなみにbeforeは……

家主ダイレクトはどのような層からの反響があるのですか。

30~40代が中心です。インターネット広告からの反響が多く、毎日5件の問い合わせがあります。デジタル世代で、調査や比較などの情報収集はWEBが基本ですから、ネットでのPRが最も効果的です。

問い合わせの内容の中心は「自主管理をやりたいので、賃貸経営のやり方を教えてください」というものです。特に最近多いのは、親から相続した2代目の方からの問い合わせです。

最終面接はひとり4時間!?

今、宮地社長が一番注力していることは何ですか。

優秀な人材の獲得に力を入れています。現在社員数は、派遣社員も含め400人ほどいますが、新規ビジネスなどの立ち上げもあり人材の確保が重要課題になっています。採用時の最終面接は、必ず私が1対1で行うようにしています。

社長が1対1で最終面接をするのは珍しいですよね?

一次面接でスキルや経験の確認を行い、二次面接が最終で私が人物像を見ます。

私の面接では3〜4時間くらいの時間をかけています。就活マニュアル通りの言葉は聞きたくないので、相手の人間性を重視して、「働く意義」を確認しています。会社や仕事の話はほとんどしていません。

私自身を知ってもらうことと、相手が考える仕事のやりがいがどのようなものなのかをお互いに確認し合う時間です。

そこまで時間をかけて採用した社員は、宮地社長の人柄に惹かれている部分もあるのですね。

それは、わからないですが(笑)。

でも私自身としては、入社した社員は皆、自分の家族のように思っています。なので、下の名前で呼んでいます。

多くの企業の中からCasaを選んでくれたからには、私が保護者として責任を持つ覚悟で全力で愛情を注いでいきます。

若い社員が多いですね。新卒を中心に採用しているのですか。

最近は20代の優秀な社員の入社が増えています。社内研修でも「Casaで何を成し遂げたいか」をしっかりと考えてもらうようにしています。

最近の若い子は3年続かないという話も聞きますが、当社の若手社員は、挑戦マインドが強いですよ。目もきらきらしており、逆に良い刺激をもらっています。

最後に、宮地社長が考える家賃債務保証業界、不動産業界の未来とは。

これからの不動産業界はテクノロジーが欠かせないと考えています。

今後は、当社のビッグデータを活用しながら家主と入居者を繋ぐ、マッチングビジネスを創出していきます。こうしたサービスを通じて、入居者やオーナーがより良くなるような環境を提供していきたいと思います。

インタビューを終えて

宮地社長は面接で、面接相手が泣くまで徹底的に話をするという。自分が本来何を感じ、考えているのか、自らも考えてこなかったことにまで向き合って洗いざらい話すから、自然と涙が出てくるのかもしれない。面接によって未知の自分に巡り会う者もいるのだろう。そこまで時間をかけて面接相手と向き合う経営者は少ない。

インタビューを通して感じたことは、「業界を良くしたい」という強い気持ち。また、目まぐるしく変わる社会、業界に対して多少の危機感を持っていること。それが先を見越したユニークな取り組みを打ち出しているのだと感じた。

Hello News編集部 山口晶子

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