管理会社の「働き方改革」を学ぶ③【ちんたい研究会】突撃ルポ

ちんたい研究会(※)が主催する「働き方改革についての勉強会」が、2019年7月18日(木)、東京・八重洲のカンファレンスルームで開催された。

第二回目の前回は、次の3名の講演を一部抜粋して紹介した。
(株)高知ハウス/和田英和・代表取締役社長
(株)Good不動産/牧野修司・代表取締役
(株)クラスコ/清水秀晴・常務取締役

第三回目である今回は、次の3名の講演を一部抜粋して紹介する。
(株)宅都ホールディングス/野村陽一・取締役
(株)第一不動産/保崎将士・取締役
(株)コスモ不動産/野津靖生・代表取締役

(※)ちんたい研究会について(ホームページより)

全国賃貸仲介管理業のちんたい研究会とは、賃貸仲介管理業の経営者の方を中心に有志を募り、先進的取組みを共有することを目的としたものです。会では、先進企業からいろいろな経営ノウハウや戦略・戦術を学ぶことに加え、地域・FCを超えた経営者間での『気軽に相談し合えるネットワークづくり』も大事な目的としています。ベンチマークの後、毎回親睦会を開催し参加者同士の交流を深めています。全国賃貸仲介管理業ベンチマーク会は、株式会社クレシオが運営しています。既に30回の開催実績があり、参加者数はのべ1,000名を超えるに至っています。

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目次

「愛ある管理会社」で、ともに学んでほしい

株式会社宅都ホールディングス/大阪府

管理戸数約24,400戸(2017年度)
従業員数430名
創業平成10年
改革の趣旨ビジョン経営へ 企業風土・環境の見直し
改革のきっかけ事業拡張 AI時代への対応

 (株)宅都ホールディングスの野村陽一・取締役からは、業種拡大いちじるしい中、どのように「働き方改革」を進めているかが紹介された。

同社は賃貸仲介をメインにしていたが、リーマンショック後は管理にも力を入れるようになり、やがて不動産開発やライフサポート、ホテル事業と、業種を拡大し、創業22周年を迎える現在、約20業種にのぼる事業を展開しているという。このため、「働き方改革」の対象となるのは、営業担当者だけではなく、様々な業種の人財たちということになる。

社員数は、現在430名。働き方改革を進める背景には、外部環境の変化に対する不安があるという。今後、AIの進化によって職種構造自体が変化を迫られる。だからこそ変化に対応できる「働き方改革」を早急に準備する必要があると感じていた。

まず、社長自ら20年後30年後のビジョンを「愛ある管理会社を目指す」とし、企業風土として社員が共に学ぶ「学校のような企業」というコンセプトを決めたそうだ。

こうした改革に必要なのは、社員に「メッセージとイメージを届ける」ことだという。それを届ける場となっているのが、各種の社内行事だ。運動会、クラブ活動、社内新聞、夏休みの宿題、文化祭…とまさに学校のようだ。聞くだけで楽しそうな光景が目に浮かぶ。

そもそも、これらの企業風土は、コーポレートメッセージ「楽しい暮らしを届けたい」とも合致している。“入居者ファースト”を実現するには、“従業員ファースト”が必要。つまり、顧客満足と従業員満足は一体ということなのだ。

働き方そのものにも目を向け、まず年間休日数を105日から115日に増やすことから着手した。さらに今年度は120日まで増やした。エリア内の数店舗間で人をローテーションすることで、年中無休の店舗と週休2日の店舗を稼働させ、顧客には不便を感じさせず、社員にはしっかり休みを取らせることにした。残業時間は45時間以内とし、人事がしっかりマネジメントしている。部課長には「36協定」の厳守と部下の残業時間を把握することを厳命し、そのためにグループ討議もさせるという徹底ぶりだ。

また社員に長く働いてもらうためには、キャリアアップとキャリアチェンジのイメージを明確にする必要がある。新人ドラフト制度や異動自己申告制度で異動の希望を出せるようにした。「引き留める上司をすっ飛ばして異動できる」キャリアアップFA制度も設けた。ここで出される現部署への不満や要望は、改善への指針としてフィードバックされるという。

 今年度、売上は175億円。昨年度は150億円、一昨年度は120億円というから、その成長ぶりに目を見張る。「長時間労働を排除しても、売上は伸ばせる。」…こんな心強いメッセージを受け取った。

「IT重説」のアウトソーシングで業務改善

株式会社第一不動産/静岡県

管理戸数約9,800戸
従業員数51名
創業昭和58年(1983年)
改革の趣旨IT活用によるアウトソーシング
改革のきっかけ繁忙期の長時間労働

(株)第一不動産の保崎将士取締役からは、基幹システムへの登録と「IT重説」をアウトソーシングすることで、繁忙期の業務改善が一歩前進したことが紹介された。

「働き方改革」に着手するにあたり、まず業務の棚卸を行なった。検討した内容と経緯は以下の通り。

・業務の担当者を固定すると、どうしても偏りが出るので、業務ごとにマニュアルを作り、パート社員に作業してもらうのはどうか。
→その方たちに指示・指導する時間の余裕がない。

・外部スタッフへアウトソーシングできないか。
→既存業務に追われて、改革を進めるための議論さえままならないので、一旦外へ出して軽くなりましょう、ということでアウトソーシングが決定した。

・アウトソーシング先を検索。
→地元の税理士事務所が引き受けてくれることになった。発注する仕事内容をマニュアル化して提出してくれ、おまけに業務改善の指導までしてもらえた。

依頼した業務は「契約書の作成」と「入金管理事務」で、どちらも自社の基幹システムに入力する作業だ。セキュリティの問題は、リモート操作で自社PCに接続してもらうことでクリアした。

結果、事務方の社員の残業はゼロになった。しかし、これは残業代がアウトソーシング代に置き換わっただけで、通過点に過ぎない。担当者を固定しなくともマニュアル化できれば他の者が作業できるという証明にはなった。いわば改革の「第一フェーズ」となったそうだ。

次に「IT重説」のアウトソーシングを検討した。内容と経緯は以下の通り。

・このアウトソーシングの前提として、宅地建物取引業法において『重要事項説明書に記名捺印した宅建士の代理として、ほかの宅建士が行うことができる』ことを調べた。
→在宅(個人事業者)の宅建士にアウトソーシングすることを決定。

・関係各所に是非を確認。(静岡県宅建士協会、県、国交省)
→ “代理の宅建士は組織に専任の者が望ましいが、専任でなくても違法ではない”とする静岡県からの回答を得た。
※都道府県によって見解は異なるので事前の確認が必要、とのことだ。

・在宅の宅建士を探した。
→全国版の求人サイトで募集したところ27名の応募があった。たまたま地元の方がひとりいた他は、全国の都市部在住の方だった。面談は実際の「IT重説」を実際に行うカメラ接続をWeb上で行い、画質やカメラに映る先方の環境についての改善指導を兼ねた。

・アウトソーシング先の宅建士18名を決定し、業務委託契約を結んだ。
→その後はひと月以上かけて、動画による重説レクチャーとロープレを行った。

・いよいよ「IT重説」本番を発注。
→登録者に対する発注とスケジュール管理は無料の「Googleカレンダー」で行い、1件当たり千円という値付けで合計136件を発注した。

結果
直前に「対面重説」を希望し直した1件のほかは(回線不良などの微小なトラブルはあったものの)すべて実施でき、アウトソーシングについて、まずまずのGoサインだと認識しているという。

緻密な準備の労をいとわず、業務改善が一歩ずつ着実に進んでいる姿に、学びの要素がたくさんあると感じた。「第一フェーズ」と位置づけた「契約書の作成」と「入金管理事務」のアウトソーシング化では、マニュアル化に成功しているので、今後それを誰が行うことにするのか、が「第二フェーズ」の工程となるだろう。

管理事務まるごとアウトソーシングで業務改善

株式会社コスモ不動産/香川県

管理戸数約3,200戸
従業員数26名
創業平成2年(1990年)
改革の趣旨事務業務アウトソーシング
改革のきっかけ人手不足・繁忙期の長時間労働

香川県の丸亀市、坂出市、観音寺市での3店舗展開で約3,200戸を管理する (株)コスモ不動産の野津靖生社長からは、事務業務を丸ごとアウトソーシングすることで、思い切った業務改善を進行中であることが報告された。

これまで、現場には以下に列挙するような問題が山積みだったという。

・基幹の「賃貸管理システム」は入金管理のみに使用され、その他の必要な情報が登録されておらず、また操作できる人も限られていた。

・オーナー様への送金明細書が着金日までに送れない。

・駐車場の管理状態が登録されていないので、空き状況を尋ねられても答えられない。

・「重説」はワード、「契約書」はエクセルで作成するが、ミスが多く、見直し・修正に時間がかかる。

・業務が属人化していて情報共有されていない。後任に仕事を移譲したいが、毎日やることが多くて残業続きだから、辞めてしまう……。

「働き方改革」関連法が施行されるというのに、どうしたらいい?業務改善できる糸口が見いだせずにいた3年前、三好不動産のグループ会社「全国賃貸管理サポートセンター」が、賃貸管理の事務代行を受託していることを知った。

真剣に導入を検討し、数度の打ち合わせを経て、まずデータ入力業務の委託契約を締結。次は業務スキームを構築し、管理業務の委託契約を締結した。そして2018年1月より、「全国賃貸管理サポートセンター」への業務委託がスタートした。

結果として、以下のような業務効率化ができた。

①「賃貸管理システム」に必要な情報が登録され、スマートな管理に一変した。契約書はチャットワークで依頼し、当日中に電子印付きの契約書一式が届く。あとはダウンロードして印刷するだけ。 

②毎月提出してもらえる業務報告で、必要なデータが可視化され、物件種別ごとの管理戸数や入居率などを把握できるようになった。

賃貸管理業の草分け的存在である「三好不動産」のノウハウを自社業務に活用したことで、人事採用や社員教育といった、これまでの悩みをカバーすることができた。

そして「働き方改革」関連法への対応として、長時間労働の是正など労務管理への対策を考える余裕も生まれた。

そこで同社は、今後次のような展開を考えている。

8月以降、「入居者との電話対応」をアウトソーシングする。管理業務のアウトソーシング先「全国賃貸管理サポートセンター」との間でリアルタイムに情報を共有してもらうことで、入居者への対応が万全になり、社員の残業負担がかなり減る。

業務効率化・残業ゼロへ向けて、改革は着実に進み、無理に人を採用しなくてもジョブローテーションが可能になるという。このため今後は、余力を持って「相続ビジネス」などより採算性の高い新たな領域にチャレンジしたいと考えている。

業務のどこまでをアウトソース化するか、は様々な現場判断があるだろう。同じ管理業でも、強み弱みはそれぞれ違う。しかし、そこを互いに補完し合えたら、業界全体にとって底上げができる、という期待を感じることができた。

3回にわたり、2019年7月18日(木)ちんたい研究会主催の「働き方改革についての勉強会」についてのルポをご紹介したが、これにて終了となる。 現場に活かすヒントとなることを願いたい。

Hello News編集部

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