<特別編>ボロビル再生請負人のつぶやき

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特別編「福岡ミラクルマーケット」

全国約2万1,500地点を対象に実施された「令和元年都道府県地価調査」が2019年9月19日に発表された。国土交通省によると、三大都市圏以外の地方圏でも商業地が平成3年以来28年ぶりに上昇に転じるなど、全国的に地価の回復傾向が広がっているという。

私はこの数ヶ月、ある投資物件を検討するため、何度か福岡を訪問した。発表では、福岡県内でも地価の優劣は大きく差が出たようだが、今回は私が気になっている2つの都市について考える。

山田武男


1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

地価上昇地点が多数あった糸島市

地価が上昇した地点が多数あった糸島市は、福岡市中心部から車で40分ほどにあり、近年、人口が大幅に増える人気のエリアだ。

市内では、新興住宅地が広がり、次々に新築が建っている。

旧帝大である九州大学は昨年、糸島市に近い、福岡市西区に移転した。

筆者は今月、九州大学伊都キャンパスを訪れたが、未来都市のような広大なキャンパスの周りは、学生マンションで溢れ、新築とともに古民家を改修して貸し出す事業者がいるほど活況だ。

また、今年5月、糸島高校前という駅が新設された。糸島市から請願駅という形で要望していたものが実現し、25億円の予算は市が負担した。

地方都市の新駅設置は稀で、人口増を物語っている。

この糸島市は、福岡市中心部から30~40分程度に位置し、風光明媚であることから、もともと東京でいう湘南のようなリゾートエリアであったらしい。だが、20年ほどかけて、福岡のIT経営者を中心に移住者が増えてきた。

観光スポットの二見ヶ浦には、カフェやレストランが一体開発され、海外とみまがう景観が形成されている。

インスタ映えする撮影スポットが配置され、夕日で有名な当地を盛り上げている。

山にも白糸の滝など観光資源があり、多くは糸島の中心市街から車で30分以内で行くことができる。

元来九州は食が豊富だが、糸島も例外ではない。JAが経営する直売所には、平日午前からたくさんの客が集まる。7割ほどは福岡市内から買い物に来るらしい。

たくさんの種類がある糸島野菜や近海でとれた魚など、夕方にはほとんどなくなってしまうほどの売れ行きだ。

しかも安い。筆者が訪れた時は、大きな鯛が700円で並んでいた。汐サバ、うるめイワシなどの高級魚も、数百円で並んでいた。

筆者が複数の移住者に移住の理由を聞いたところ、全員が「子育て」を挙げていた。

前述の自然の豊かさや食の豊富さなどと合わせて、福岡という大都市に隣接している点がUターン、Iターン者を引き付ける所以だ。

また、東京の大手IT企業から独立、移住した方に聞いたところ、PCがあればどこでもできる仕事であることも理由になっている。現地では、地元有志の活動により、ベンチャー向けのシェアオフィスなども整備されている。

市内で地価上昇と下落が見られた北九州市門司区

こうした「勝ち組」都市がある中で、地価の下がっている都市もある。筆者がここ最近注目しているエリアのひとつ、北九州市の門司区だ。

明治時代から国の重点的な港として整備されてきた「門司港」は、関門海峡の入口に位置し、毎日たくさんの船が行き交っている。

小説「海賊と呼ばれた男」の、出光佐三の地元としても有名だ。

また、門司港レトロ地区の再開発も成功事例として有名である。市長の肝いり事業として、7年と300億円の予算をかけたレトロ地区。焼酎のCMでも有名な門司港駅など、明治のレトロな風景を再生し、中国や韓国からの観光客が目立つ観光スポットだ。今年の公示地価も門司港レトロ周辺の土地は値上がりしている。

ただ、このレトロ地区、歩き回って2時間程度は楽しめるが、1日、2日と滞在できるような場所ではない。

一方で、レトロ地区以外の旧市街地は「衰退」という言葉が頭に浮かぶエリアだ。

地価も下がり続けており、アーケード街はシャッターの閉まっている店が多く、地方都市にありがちな風景が広がっている。

ただ、この門司港エリアが、不動産投資に値しないエリアかというとそんなことはない。

レトロ地区周辺を中心に新築マンションが分譲され、旧市街地内も更地が出れば数日で売れてしまう(地元投資家談)。駐車場つき戸建ては3,000万円近くする物件ばかりだ。

もともと山がちで平地が少ないうえ、積極的に売りに出す地主が少ないためだ。

小倉駅まで13分で行けることから、ベッドタウンになっている。

近年の北九州市はじわじわと人口が減っているが、それでもまだ94万人もいる政令指定都市なのだ。

また、港湾機能は今も健在であり、大型船の接岸するコンテナ港もある。関門海峡の水先案内人は「関門パイロット」と呼ばれ、年収の高い仕事だ。こうした港湾関係の高所得層が門司港エリアに多数住んでいる。

この門司港エリアの再生に取り組むのが合同会社ポルトの菊池勇太社長だ。

菊池氏は門司港で育ち、数社を経て、現在は門司港のゲストハウス「PORTO」を運営しながら、九州各地の地域再生に取り組む若手起業家だ。

前述の門司港レトロだけでは、滞在時間が短く、エリアとしての魅力に乏しいため、周遊できるスポットが必要だと、商店街をはじめ、数々の店舗開発をしかけてきた。

最近では、商店街にカフェ兼地元大学生の活動場所の店を開店させたほか、PORTOコミュニティの仲間が経営するカフェやショップを商店街に次々にオープンさせたりしている。PORTOの宿泊客や地元の常連が通う店ができ始めてきた。

面白いのは、こうした物件は、小型物件の賃貸なら3~5万円で借りることができ、出店者のハードルが低いこと。購入でも200~500万円程度で入手することができる。3,000万円の新築のすぐそばに300万の戸建てが売られているのだ。

狭小な店舗物件や、接道のない戸建てなど、不動産としては癖のあるものばかりで、前述の新築物件とは性格が異なる。だが、適切なリノベーションを行えば、出店意欲のある若者、Iターンした移住者、民泊など需要はあり、東京では考えられない利回りが得られる(もちろん少額な賃料ではあるが…)。

地方再生のきっかっけになる物件を購入し、地域活性化に貢献できるのであれば、これ以上ない社会貢献ともいえる。

一部エリアの地価上昇のニュースに踊ったものの、高額な投資はできないのであれば、こうした隠れた地方物件に投資するのはいかがだろうか?

ボロビル再生請負人 山田武男

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