<前編>不動産ではなくコミュニティに投資する時代がくる~門司港サルベージ計画~

筆者プロフィール

ヤマグチリマ
住宅業界の取材・ライティングの経験を生かし、執筆活動を行う。主にコミュニティ、地域創生などの取材・執筆を行う。

「不動産」というと、利回り、投資回収、税金対策…といったお金に関係する単語を思い浮かべることが多い。

しかし、現在では「不動産」の捉え方に変化が起き始めている。

金銭的なリターンのみではなく、不動産を通して「他のもの」に価値を見出す動きがある。

今回は、2019年12月開催の「コミュニティに投資する時代」と銘打たれたイベントの一部を紹介する。北九州・門司港の物件への投資に、三者がそれぞれの想いを語る。

目次

門司港への投資

スピーカー

株式会社オリエンタル・サン 取締役 山田武男さん
2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルの再生・運営に関わっている。直近ではサブリースによる外資企業向けオフィスを展開。

門司港とは

最初に登壇したのは山田武男さん。門司港の物件を購入した経緯について話した。

門司港は、福岡県北九州市に位置し、山口県と福岡県を隔てる関門海峡に面する港。「海賊と呼ばれた男」の出光佐三が活躍した舞台として有名だ。中でも門司港駅は重要文化財に指定され、観光スポットとしても人気が出始めている。北九州市は近年では人口は減少傾向にあるが、今でも94万人という規模を持つ。

この街で山田さんは1棟の物件を購入した。

1954年(昭和29年)築で、10歩も歩くと小料理屋が並ぶ味わい深いエリアにある。直近では和菓子屋の倉庫に使われていた物件だという。内装はスケルトンで、購入時にはなぜか階段さえも取り外されていた。各階17㎡ずつの小さな物件で、賃貸で貸し出すことにした。2階部分を、後に登壇する合同会社PORTO・菊池勇太氏が成約しバーとしてオープンさせた。購入価格は改修費込みで300~400万円だった。

門司港の地価

最初に購入を検討した物件は130万円の長屋だったが、相続上の権利者が30人以上いること、また火災が起きた際には規模が大きくなると懸念し見送った。130万円で物件が買えるというと過疎地域のように思えるが、周辺の新築マンションは2000~3000万円で売られており、基本的には完売する人気のエリアだ。山が多い土地で、平地が少ない地形が影響しているという。地元の投資家の話では、「平場が売りに出されると翌日には売れる。札束積んですぐに買え」というほど、土地が売りに出ること自体が珍しいのだという。「エリアの価値に対して中古物件に割安感があることから、門司港への投資を考えました」と山田さんは話す。

山田さんが購入したのは新築の1/10の価格で購入できる穴場の物件だった。賃料設定は約3万円。借りる側からすると、たった3万円で店舗が開ける手軽さがある。門司港駅から小倉のベッドタウンまでは電車で12分。駅周辺にはコーヒーショップなどおしゃれな店が増えてきたエリアで、少し足を延ばすと綺麗な海が目の前に広がる。

首都圏からのアクセスは意外にも良く、前もって予約しておけば、東京ー大阪間の新幹線より安価な価格で航空券が手に入る。羽田空港から北九州空港までは1時間30分ほどのフライト。月に2、3回は都内に帰る移住者もいて、気軽にアクセスできる場所だという。

次に、物件を借りた菊池勇太さんを紹介する。

「街を引き上げる」投資

スピーカー

合同会社ポルト 代表 菊池勇太さん
福岡県北九州市の門司港で生まれ、大学卒業までの22年間を門司港で過ごす。
合同会社ポルトでは、不動産活用の企画・リノベーション・運営を行う。菊池さんと移住組2人の計3人で事業を展開。

事業紹介(テーマ)

菊池勇太さんは門司港についてこう話す。

「門司港は昔、港として栄えた街でした。横浜、神戸と並び、門司港の3つで日本3大港と言われたほど、貿易の取扱量が多かった港です。今でも相当な物流があり、港の機能としては大きいままですが、人口が減り高齢化しています。昔は世界中から色々な人が来て、その混ざり合いで多様な文化が生まれていきました。その歴史を踏襲し、まさに今、門司港発信で新しい文化を生み出していきたいと思い、社名をPORTO(=港)とし、門司港を中心に事業を展開しています」

他にも、会社の理念としてこのような意味を持たせたという。
・船旅の疲れが癒され、次の場所に向かって進む元気が湧いてくる陽気な港
・一人でも多くの新たな船出を見届ける

PORTOが手がける事業は数多く、飲食、宿泊業、事業支援を展開。衰退しつつあるという街の物件を、地元の学生たちがDIYをしたり、リノベーションしてホステルとして物件を運用している。先に登場した山田氏の物件ではカフェバーをオープンさせる予定だ。「物件の内装がバーに合っていること」「門司港に落ち着いた雰囲気のバーがないこと」「営業日が少なくても利益を確保できること」。また、菊池氏の飲食店好きが高じ、自らバーを営業したいと思ったためだという。

事業スキームとしては、地域や企業が「門司港サルベージ」プロジェクトに投資をし、事業を行いたい者が運営するというもの。初期投資分の返済として、月に一定額を配当していくモデルだ。

「クライアントとしては、ランニングコストだけで開業できることがメリットです」と話す。初期投資の工面や、借金を背負うというハードルを極力なくすのが狙いだ。

プロジェクト例:プロジェクトが300万円の初期投資を負担、配当として4万円の配当を毎月受け取る

※「コミュニティに投資する時代」セミナーの資料を基に編集部で作成

目指すイメージは「サルベージ」。沈没船を引き上げる意味として使う言葉だ。街を再生する際に、以前よりもさらに価値あるものに変えていく、まさに「街を引き上げる」ことだという。

順次拡大中だが、現在は5~10件を手がけている。東京だと多くはない件数と話すが、段々と衰えていく小さな街で、小規模でも新しく事業がオープンすると、『変わっていく』という事実に地域の人たちは非常に活気づくのだという。

※2020年春に「門司港サルベージ」は一般社団法人化を予定。後に登壇する藤田毅さんと、ポルトとは別事業で門司港の不動産をサルベージする

なぜやり始めたか

菊池さんは「世界中の人が笑って暮らす社会を作りたい」と小学生の頃から考えていた。

その解として、「顔が見える温かな経済」という仮説を立てた。

現在は商品を「買う人」と「作る人」の距離が遠く、複雑に入り組んでいるから、関係性作りが難しくなっている状況がある。生産する過程を含む、生産者の姿が見えないため、購買の際には値段やデザインがキーになり、商品の表面的な魅力で選ばれることになる。一方、顔が見える経済は、街でご飯を食べる際はお店の人もお客さんもみな知り合いで、必要な時には互いの店を行き来するという。「商店街はもともとはそういう風に成り立っていた。またそれを作りたい」と話す。

街の引き上げ方

では、「どのように」街を引き上げていくか。

「街に人を惹きつける魅力的なコンテンツをたくさん作り、それを面白がったり利用するユーザーを増やした後に、収益化を狙っていく」という。元になった考え方はこうだ。

街に人がいなくなるのは、「コンテンツが不足している」から

※「コミュニティに投資する時代」セミナーの資料を基に編集部で作成

ただし、コンテンツがある場合は、下記のような好循環が生まれる。

※「コミュニティに投資する時代」セミナーの資料を基に編集部で作成

とはいえ、街で商売をする人はこのような発想を持つことが少ないため、街のコンテンツ作りに投資していくのは簡単なことではないと実感しているという。

不動産投資とは何か

不動産そのものに価値があるのではなく、「そこに集まる人」が価値を持っている。

例えば、当日イベント会場になったビルは市ヶ谷駅から徒歩6分にあり、株式会社ロウプが入居し「ビル1棟まるごとモノづくりシェアオフィス」を謳う。

地下1階~地上4階建ての各フロアにシェアガレージ、シェアオフィス、コワーキングスペース、キッチン&ダイニングを展開し、モノづくりに関わる人を集客する。

このビルは、ロウプが入ったからこそ、ここまで人を惹きつけるビルになったのではないかと菊池さんは話す。東京だと特に、立地、条件が重要と考えられがちだが、結局は「そこに人が入るか」という点に価値の有無があるという。

「コミュニティを作りだすことの重要性」について語る菊池さん

さらには、「人」とは「地域に暮らすコミュニティ」のことだと話す。

「今は門司港に対してコミュニティを作っているところですが、新しいコミュニティに投資していけば、街の価値は高まると思っています。すると不動産に価値が生まれ、地域のコミュニティが活性化され、そこにある不動産にさらに価値が生まれます。このような動きをたくさん作っていきたいです」

また、「コミュニティへの投資の最大のリターンは感謝」と続ける。「衰退する地域に外から来ていだき、ここが良いと魅力を感じ、さらに物件を買ってくださるのは、地域にとっては大変嬉しいことです。地域の人々は喜んでもてなしてくださいます」。菊池さんは、縁もゆかりもない門司港で物件を購入し、活性化の1つのきっかけを作った山田さんにとても感謝しているという。

「物件によってはたった数百万円で購入でき、地域の人が歓迎してくれて、親戚が増えたような居心地を味わえます。人それぞれが、自分と関係する地域が少しでも増えてくると、世の中全体が少し良い方向に向かうのでは」と締めた。

後編はこちら

ライター ヤマグチリマ

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