<第2回>Jリートは日本の不動産を救うか?!市場規模17兆円の現況を徹底

西村明彦 さん

1990年大学卒業後、山一證券を経て不動産会社、ファンド会社などで様々な職種を経験。2009年に商業用不動産コンサルティング専業の(株)不動産戦略研究所を創業し現在に至る。プロ間のブローカレッジと相続対策の助言を得意としている。

登場人物
田中さん(男性、50歳):不動産アセットマネージャー
西村さん(男性、52歳):ベテランの大手証券マン
清水さん(男性、63歳):マンション大家で不動産ファンドアレルギー
かな子さん(女性、29歳):株式投資歴5年、Jリート初心者のOL
まなぶ君(男性、20歳):投資クラブ所属の大学生
あゆみさん(女性、20歳):投資クラブ所属の大学生

前回までのあらすじ
Jリートの魅力や現物不動産との違い、今後の発展の可能性などを議論してもらう座談会を開催。前回は、バブル崩壊後時代の要請として誕生、発展したJリートの歴史と概要について解説しました。第二回目は、「Jリートで働く人たちの給料は高いのか?」と言う質問からスタートします。

目次

Jリートで働く人の給料は高い?!

田中
Jリートで働く方々の給料は、都銀並みでしょうか。ただ、専門職に近いので安定した職業です。Jリート間での転籍もよくあり、例えば住友、三菱、三井、みずほなど渡り歩いている人もいます。 

西村
証券会社勤務の私から見ると、Jリートは半官半民ビジネスマンですよ。倒産はほぼあり得ないから羨ましいかぎりです。 

あゆみ
半官半民というのはどういう意味ですか? 

田中
Jリートは会社なので利益をあげなくてはいけません。また、投資家に配当ばかりしていても立ちゆきません。そこで政策として、税前利益の90%以上を投資家の配当に回せば、残る利益に対する法人税を免除されます。これを「導管性の具備」と呼びます。 
①導菅性要件…法人段階で課税されないための要件のこと。J-REITでは配当可能利益の90%以上を投資家に分配することや筆頭投資主の保有比率が50%以下であることなどがある。(不動産投信情報ポータルより)

清水
法人税を払わなくいいなんて、ずるい!

田中
そうなんです。普通の不動産賃貸業者よりも、Jリートは税制上優遇されているんです。

(一同神妙な面持ち)

まなぶ
そうすると三井不動産の株式を買うよりも三井不動産スポンサーのJリートの投資口を買うほうが法人税分得だということですよね? 

西村
大変鋭いご質問です。投資家として税制も勉強されている証拠です。ただそれは少し話がずれています。Jリートに法人税を課すと、配当原資が少なくなり金融商品として魅力が失われます。税務当局としては法人税免除の代替に投資家から配当税を吸い上げます。これは一律20%で株式と同じです。

かな子
ということは、三井不動産株式の配当利回りと三井スポンサーJリートの配当利回りのどちらが高いか?になりますよね?

西村
その通りです。

かな子
不動産投資家の選択肢としては、①現物不動産、②Jリート、③上場不動産企業株式の三択があるということになりますね?

西村
そうです。私が先ほどJリートは半官半民イメージと申し上げたのは、税務優遇の他にもう一つ理由があります。それは実質倒産に至らないということです。過去には破綻したJリートもありましたが、優良Jリートに救済合併されています。
仮に、今後破綻し解散するJリートがあったとしても資産をすべて売却すれば投資口全てが熔けてしまうことにはなりません。従業員は実質いないのでリストラ費用も発生せず、投資家には魅力と言えるでしょう。

あゆみ
それを聞くと私は断然Jリート派です。 

まなぶ
現物不動産を保有するよりも、よさげな気がしてきました。 

清水
現物不動産よりJリートだって?!何言ってるんだ、君達は!

Jリートは破綻しにくい?!

田中
Jリートが破綻しにくいのは、借入比率を50%を目処にしているからと思います。不動産業者や個人投資家が現物不動産を購入する場合は、借入比率100%が通常です。借入比率が低くなったのはリーマンショック後からです。金融庁から借入比率を50%程度にせよとお達しがありました。20億円の賃貸マンションを買う場合、頭金10億円を増資で賄い、10億円を低金利で市中銀行から借入するのです。

清水
なるほど、それはかなり健全やね。ところで運用会社に勤務する社員の給料はどう賄うの?

田中
Jリートは運用会社に運用を委託しています。その運用受託報酬の中から支払われます。

清水
配当を少なくして運用会社にたくさん払うのでは? 

田中
Jリートの決算は年2回です。年に2回有価証券報告書の開示義務があり、そこに運用会社への委託費用、諸経費内訳、取締役、監査役報酬規程なども載せています。ですから明朗会計です。

かな子
それは安心ですが、運用報酬はどのような算定方法になるのでしょう?

田中
預かり資産額の0.3%から0.5%程度とお考えください。1000億円規模のJリートならばAUM報酬が年間5億円ほど掛かっています。
②AUM…Assets under managementの略。運用資産残高のこと。

西村
だからJリート投資は投資信託でなく、個別銘柄で買うべきなんです。投資信託だと投資信託運用会社への報酬が発生します。すると投資家サイドでは不動産運用会社、投資信託運用会社の両方に報酬を支払う形になるからです。

かな子
確かにそうなりますね。個別銘柄を買えば、実質運用コストを削減出来るのですね。

清水
それにしてもAUM報酬コストの他に仲介業者やPM業者、建物管理会社にも報酬を払うわけですよね?なんだか上流でうまく鞘抜きされているイメージが拭えないな。

田中
様々なコストをコントロールするのがAM会社(アセットマネジメント会社)の役割の一つです。外注先に対する牽制機能を働かせるための存在と言っても過言ではありません。

西村
有価証券報告書には工事の発注先、仲介会社、PM会社(プロパティマネジメント会社)への報酬額まで記載されています。非常に透明度が高いと評価できます。

特徴はミドルリスク-ミドルリターン

あゆみ
西村さんはJリートへの評価が高そうですが、私達個人投資家にとってJリートはどの様に捉えればよいですか?

西村
Jリートは債券と株式の中間的商品設計になっており、“ミドルリスクミドルリターン”なんです。先ほど申し上げた3つの選択肢の中で投資家のニーズに最もヒットしていると思います。例えば、地方銀行なども余資運用としてJリート投資に傾斜しています。平均分配金利回りが3.3%ですから、国債のマイナス利回りとの比較で投資しないという選択肢はあり得ないでしょう。
これは蛇足ですが、私募リートというプロ投資家向けの未上場リート市場がありまして、こちらのセクターも活況です。理由は次の通りで、例えばプロ投資家である金融機関がJリートに投資した後に相場が崩れて大きな含み損を抱えたとします。実損でないのに会計上のルールにより特別損失を計上しなくてはならない。これは流動性のある上場リート投資のネックになります。
一方、未上場リートの場合、流動性が低いので時価は不動産鑑定士が算出しますから、会計上の損失反映にラグが生じます。プロ投資家は長期運用することで相場崩れに対応できる私募リートを好む傾向にあることだけは知識として知っておいてください。流動性が高いことが課題になることもあるのです。

田中
今の西村さんのお話は個人の方にはかなり難解だと思いますが、私からも付け加えると、流動性が低い金融資産と言われていた不動産は、Jリート誕生により流動性が高まって繁栄しました。不動産に流動性を与えたことは、Jリート誕生以前の人々からするとほとんど革命なんです。一方で流動性が低いからこそ現物不動産を保有したいという富裕層のニーズもあります。

清水
ええこと言いますね、その通り!私は代々地主でまだ両親が健在です。不動産を保有しているのは積極的動機というよりも消極的動機です、相続税対策として仕方なくやっています。

かな子
お金持ちは不動産が好きなのかと思っていました。意外です。

清水
もちろん嫌いではありません。しかし現金や上場株式を相続するよりも流動性が低い分、相続税評価が低いために相続税対策には有効なんです。

あゆみ
大変興味深いお話です。

まなぶ
不動産は実に奥行きがあります、流動性に目を付けた不動産アービトラージ戦略ですね?

清水
アービトラージ…なんですかそれは?

第三回に続く。

Hello News編集部

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