仲介店倒産増加は本当か!?

2020年2月27日発行の日本経済新聞朝刊2面に、こんな記事が載った。

不動産仲介首都圏で倒産増加
引っ越し難 減る賃貸契約

朝から「この記事の倒産増加は本当か?」という問い合わせが多数寄せられた。業界で仕事をする企業の経営者にとっては、確かに肝を冷やす内容だった。

しかしながら、私が取材して見聞きしている話と記事の内容に相違があると感じたため、この原稿を書くこととした。

現場取材でそれほど仲介が落ち込んでいるという話は聞かない。ただ、企業の転勤や支店設立が減っているという話はある。ある家賃債務保証会社の社長は、「札幌の申し込みが半減した。支店経済圏の札幌では、法人入居者があまり動いていないのではないか」と嘆いていた。

これは人口減少や経済の先行き不安から、企業が人の異動やエリア拡大を抑えていると考えられ、記事にあるOYOの影響とは思いにくい。

合わせて時差通勤のように転勤の時期をずらす「時差転勤」の話もよく聞く。昨年の1〜3月の「引っ越し代高騰」は、かなり企業経営者の心理に影響していると思われる。実際に4月の東京支店開設による東京進出を検討し社員の部屋を探していた福岡の広告代理店社長は、「通常の3〜4倍の引越し代を払うのはバカらしい」と支店開設時期を繁忙期明けにずらしたと話した。

OYOについては、新規の受けつけはストップ、借上も途中解約が続出、ソフトバンクの提携解消、CEOの勝瀬博則氏退任など、ネガティブニュースに事欠かない。2019年11月28日に発表された、「OYOTECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社 第1期決算公告」では、売上高は、3597万6000円 、経常利益は、マイナス11億1243万4000円(総資産は、76億2052万1000円)と、なかなかに厳しい状況が明らかになった。

2月7日には、ホームページ上で、日本における事業初年度の統括を発表し、現在も「壮大な実験」の過程にあるとして、事業拡大には意欲的である。しかし業界内では、すでにOYOのビジネスモデルに対し、「日本の商慣習には合わない」というレッテルが貼られてしまっている。

とはいえ、「家具・家電付き」「敷金・礼金・原状回復費なし」「気軽な引っ越し」が可能な世界があるんだということを、一般消費者に気づかせたインパクトは大きかった。2018年12月16日に札幌で起きた不動産仲介店社員によるスプレー爆発以降、「よくわからない費用」に対する消費者の反応は、ここにきてかなり敏感になってきている。良くも悪くも色々な部分で情報がオープンになった今、OYOのシンプルで明朗な会計スキームは一定の評価を得たといえる。

そして逆に、空き状況の問い合わせをして、お店に行って、受付票を書いて、車に乗って現地に行って内見して、また戻って説明聞いてハンコ押すという一連の流れがネット社会に合っていないと考える若者が増えたのも事実だ。

そんな中で仲介店が生き残る道とはなんだろうか。

仲介店が軒を連ねる商店街
写真はイメージです

日経新聞の記事には、帝国データバンクがまとめた2019年の不動産業の倒産件数(首都圏)は104件で、前の年に比べ約6%増えたとあった。6%ということは、6.24件の増加でありこの数字が多いの少ないか、また昨年に比べどれくらい新規出店があったのかなど、記事だけではわからないことが多い。いずれにしろ今回のコロナ問題もそうだが、いのいちばんに影響が出てくるのは中小企業だ。そうでなくとも従前から人件費高騰、人手不足に悩まされており、ここにきて法人などの人事異動が減れば受ける影響は小さくないだろう。

賃貸の業界では、人口が減る中で、「仲介店だけで食べているところはいずれ経営が難しくなる」というのは10年以上前から言われていた。仲介もスマート仲介、無人内見が当たり前になる中で、仲介店の存在自体に疑問が投げかけられる事態は、今に始まったことではない。しかしながら実際には、営業成績が上がれば独立して仲介店を開業する、という流れは常にありそれが止まる事はなかった。

「仲介店の倒産」と一方で、「大手管理会社からは仲介が減っているという話は聞いていない」の二つの事象から考えられるのは、二極化、そして淘汰の波だ。

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会は、数年前から「建物管理から資産管理へ」と銘打ち、賃貸不動産経営管理士の育成やオーナーの資産コンサルタントとしての役割の重要性を強く打ち出してきた。これを機に、オーナーに対して様々な提案ができる資産管理会社へと舵を切った管理会社は多く、こういった企業が信頼され、管理受託を増やしてきた。その管理会社が行う賃貸仲介に、仲介のシェアが移ったという考え方もできる。

加えて、オーナーと入居希望者を直接結びつけるサイトも増えている。ジモティやメルカリにまで不動産情報が載っているという。瑕疵や説明責任の部分でトラブルが起きているとも聞いてはいるが、参入は今後も増えると考えられる。

入居者が支払う仲介手数料には、広告料や紹介サイト手数料が含まれ、また消毒や鍵交換などの負担もある。全くしがらみのないネット会社が「直付け」サービスを提供することで、消費者の利便性を高まっているともいえる。

情報のオープン化、ネット化、加えて人口減、住み方や暮らし方、家族構成、そして働き方が激変する中で、既存の仲介店舗のスタイルでは勝ち残るのが難しくなってきている。だからこそ、これまでどんな対策をしてきたかが問われる時代になっている。

異業種を見渡せば、ネット社会にあっても実店舗を増やし続ける「ほけんの窓口」のような企業もある。これまで見え難かった保険料の中身や理解しにくい部分も、窓口で丁寧に説明していることが高評価につながっているという。情報の非対称性が言われる保険業界だけに、情報を開示し、わかりやすくしたことが勝因だと大手損保会社の社長は語っていた。不動産業界もそういった転機に立っていると思う。

また自戒の念を込めていうと、一般紙がこういう記事を書く前に、我々のような業界紙記者がもっと力をつけ、情報を発信していかなければならないと痛感した。

今回のコロナのニュースでもそうだが、メディア側の発信によって人々の心は揺れ動く。今朝、寄せられたたくさんの問い合わせを見てもそうだ。こういった時こそ正確な情報が必要なんだとメディアの端くれにいる私自身思い知った次第だ。

Hello News編集部 吉松こころ

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