<前編>賃貸業界よもやま話

目次

業界DEEP①

「孫さん以降、不動産テックにお金が流れなくなっています」

不動産業界向けにチャットボックスを開発する創業1年のベンチャー企業の社長がうなだれていた。

「孫さん以降」というのは、ソフトバンクグループ傘下のZホールディングスが2019年11月にOYOLIFEから資本を引き上げて以降、という意味だ。

「3年前に起業していたら全然違ったと思う。テクノロジーやITが遅れた不動産業界はブルーオーシャンで、商社や銀行がバンバン出資していました。その流れが今、ピタッと止まってしまいました」

ベンチャーキャピタルの間では、「不動産テック」というだけで「(資金を)出すな」となっているという。要は「孫さんでさえできなかったじゃん」という評価なのだという。

3〜4年前に登場した不動産テック銘柄が大きく伸びていないもその理由だと語る。

当時、電鉄系や商社などの大手企業が数千万単位の費用を出して応援していたが、電子錠やアプリ開発、シェアリングエコノミー関連などで頭ひとつ抜けたところが出ていない。

そんな話を聞いた翌日、創業20年を超えたある間取り制作会社の社長と話をしていて、思わず人生訓の響きを感じてしまった。

「コロナ中、ITの会社なのに全くリモートワークができなかったんですよ」

「え?なぜですか?」

「お客様である不動産会社の社員さんからひっきりなしに電話が来て…。弊社の間取りソフトの使い方についてのお問い合わせにずっと電話や訪問で対応していました」

この会社が20年間、不動産業界で事業を継続してこられたのは、ITとアナログを上手に組み合わせたからなのだろうと察した。テクノロジーがすごいだけでは、不動産業界でシェアを取るのは難しいということだろうか。

業界DEEP②

孫さんほどの経営者が、なぜOYOを成功させることができなかったのか。賃貸業界の人たちはその理由が分かっている。

「確かにスマホ一つで契約ができてシンプルな料金形態は画期的だった。しかし、自由に引っ越しができるには一定数の空室がないといけないが、オーナーから借り上げる以上、入居率は維持しないといけない。このジレンマを想定していなかったのではないか」

「家具家電付きで都心のおしゃれな物件と謳っていたけど、家具や家電にコンセプトやテーマ性がなく、おしゃれとは言えなかった」

「オーナーに営業に来る社員があまりにも業界のことを知らなすぎでした。原状回復といってもその言葉さえ知らなかったです」

ある10万戸近くを管理するサブリース専門企業の幹部は、こんな話をしてくれた。

「OYOLIFEの前CEOの勝瀬さんと名刺交換した際、“サブリースって知っていますか?”と聞かれ、驚きました。うちはサブリース会社なのに……。業界マーケティングとかしないのかな……」

これらの話を聞き、駅をジャックするなどの派手な宣伝広告とはうらはら、OYOは賃貸業界の相関図や歴史までは調査をしていなかったのだと知った。そこで思い切って、当時OYOの幹部だった人に、「業界団体に加盟したらどうですか」と勧めたことがある。

その時の回答は、“メリットがない”だった。今思えば、“賃貸業界の一員として馴染む”だけでもメリットだったのではないかと思わざるを得ない。

しかしながら、「家具・家電付き」「敷金・礼金・原状回復費なし」「気軽な引っ越し」が可能な世界があるんだということを一般消費者に気づかせたインパクトは大きかったし、非対面や無人仲介が進む中でOYOのスキームは、業界に風穴を開けたと思う。

業界DEEP③

インパクト勝負でいったらOYOに負けず劣らずだったスピリタスは、2020年5月、アパート不正融資について行うはずだった記者会見をドタキャンした。一時期、約9平米の狭小アパートを作る会社として新聞や雑誌でも取り上げられ、話題になっていた企業だ。かなり狭いが都心のど真ん中に安く住める、ミニマリストに好評、などその斬新さが若い会社員層の心を掴んだのだと、どの記事も絶賛していた。

りそな銀行の元社長が顧問に入ったことで、2012年の創業ながらマスコミ、金融機関からの信用を得ていたようだ。

「その方はシーラ(元エスグランドコーポーレーションの杉本宏之氏が代表)でも顧問をやっていましたが、シーラに確認したところ、レピュテーションリスク(評判リスク)が怖いので既に辞めてもらったと話していました」(東京の大手調査会社)

不正融資があったかどうか、誰が主導したのかは明らかになっていないが、その話に乗った投資家も投資家だと思う。住まいを提供するという自覚や倫理観がないまま、2018年におきた“かぼちゃの馬車”問題同様、「利回り」と「家賃保証」に目が眩み、勉強もせずに賃貸経営に乗り出した投資家オーナーが大勢いたのだろう。

品性を疑う話は他にもある。

ある業界関係者から聞いた話によると、非常事態宣言中に「オーナーさんから毎月の送金額を50%以下に設定し、収支明細を作成、送金してほしいと言われました。仲間の大家がこの方法で持続化給付金を申請して税理士からもOKをもらっているからできるだろうと詰められました」。管理を任せてあげるからと言い、そんな要求をしてきたオーナーもいたそうだ。多くのオーナーは真面目に経営をしている。一部のこういった人々により、またも賃貸業界のイメージが悪くなるのは残念だ。

Hello News編集部 吉松こころ

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