【対談】東京・池袋のボロビル再生請負人<前編>

イベントはイベントスペース「S&C」からウェブセミナーとして生配信された
※写真は別のイベントの様子

山田武男


1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

聞き手 菊池勇太さん


北九州市門司港に店を構える印鑑屋の六男として生まれた。現在は門司港を拠点に宿泊業やアイスクリーム屋、コミュニティスペースの運営を手がけている。地元で様々な事業に挑戦する彼は今、その活動の幅を広げ映画の制作に取り組む。門司港を舞台とし、この地の魅力を外に発信することに力を注いでいる。会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

菊池
本日は “S&Cラボ”という社会人の方と学生の方とを交えて行っているイベントです。今回のテーマは「不動産」です。そもそも不動産って馴染みがあるけど、「仕事の内容をそんなに知らない」ということもあり、「実際不動産業ってどうなの?」とか「今ってどんなことされてるんですか?山田さん」というお話を聞いていきたいと思います。

実は山田さんは、S&Cのすぐ近くにある、今年の夏から僕たちがアイスクリーム屋さんを開いた物件のオーナーさんでありまして、その物件を買った経緯とか「なんで門司港にお店を始める人の応援のために、物件を買ったのか」というお話も伺っていきます。

それではまず簡単に、山田さんから自己紹介をお願いします。

菊池さんが経営するアイスクリーム屋さん

山田
株式会社オリエンタルサンの山田と言います。東京の池袋、最近は外国人ばかりいるような最先端の街におります。

菊池
たしかにダイバーシティという言葉でいうと最先端ですよね。

山田
池袋の中華屋さんって、日本人の舌に合わせてないんですよ。客の九割五分くらいが外国の人なんで、香辛料がすごく効いています。

菊池
東京に住んでいるけど海外みたいな感じですね?

山田
そうそう。そういう不思議な池袋に会社があります。私は1980年生まれで、ちょうど40歳になったところです。生まれは横浜ですが、茨城のニュータウンで育ちました。なので、門司港みたいな古い街はすごく憧れています。

ちなみにニュータウンには、ねずみとかいないんですよ。ゴキブリすらいない。

菊池
そうなんですね。

山田
15歳くらいになって、初めてゴキブリを見ました。

菊池
めっちゃ都会人(笑)。茨城なのに都会人!

山田
そういうところで育って、大学は東京農業大学の造園科学科で、庭とか公園の設計などを勉強していました。ちょうどその頃は、超不景気で。

当時、他の大学の人たちと付き合っていて、二歳上の建築学科に行っていた先輩方が不動産業界に行ったんですよ。そうしたら、割と高給取りになっていて…。「こりゃすげえな」っていう単純な憧れがありました。あと、不良債権ビジネスに興味がありました。当時、産業再生機構ができた頃だったんですよね。九州だと「九州産業交通」とかが産業再生機構の案件でした。企業再生にすごく憧れていたんですよ。

菊池
ダメになった会社を立て直す…ということですよね?

山田
そうですね。実態は、不良債権再生は大リストラだとか資産を売るとかしないといけないんですけど、残った人たちがまた生活していくために会社が残って新しい事業を作るというのは、面白そうな世界だと思ったんです。

そして2004年、ちょうど16年前にクレジットカード会社のグループの不動産会社に入ったんです。そこがちょうど不良債権の中でも不動産に特化してやっていた。キャリアのスタートはいわゆる競売屋さんでした。

菊池
なるほど。よくある銀行の担保になっていて、破産した人の担保物権を売り買いするという。売り買いというか…買う。

山田
当時、競売は安く買えた。今は安くは買えないですよ。競売はすごく値上がりしていて、一般市場並みです。民事執行法っていう法律が買う人を守ってくれるんですよ。

僕らが業界に入るだいぶ前は、ヤクザが占有したり、怖くて買えない時代があったんです。民亊執行法が整備されてしばらく経った頃が、自分が業界に入った頃なんで、怖くないように仕事ができる時代がきました。

ただ逆にその分、仕入れがキツくなって。川上に昇るっていうんですが、銀行の債権を買おうとか、融資してしまおうとか。金融屋さんっぽい考え方でビジネスしてるような会社だったんです。菊池さんは、競売の事件記録とか見たことありますか?

菊池
ないです、全然。

山田
すごく面白いですよ。あれって調査しに行く人が記録するんですけど、「いつからお住まいなんですか?」とかいう話から始まるんです。なんか小説みたいなんですよね。「昔は車の工場をやっていたんだけど取引先が潰れて、そのあと妹が家を出てしまって…」みたいな結構リアルな話(笑)。

これは全国民が見れる記録なので、僕らが特別なわけではないです。裁判所に行ったら誰でも見れます。

菊池
へー、なんか半沢直樹みたい。

山田
事件ごとにファイルがあって、結構分厚いんですけど不動産資料とか、途中債務者のインタビューとかあって。それを読むのが好きでした。やっぱりリアルな世界なので(笑)。

でも安く買ってきた競売物件というのはボロかったりします。勉強になったのは、不良債権になる物件は、中途半端な物件が多いんです。学生の頃は、門司港レトロみたいなところで古いビルをカッコいいホテルに改修したりとかに憧れていました。今でも実際やってるじゃないですか。でも、あんなのは不良債権ではない。

駅から徒歩25分くらいあって、私道の奥の奥にあって、接道も微妙で、昭和40年代に建てられたような、一階は店舗、二階は自宅なんだけど、違法増築だったりとか。全くときめかない物件が、不良債権のことが多い。「これどうすんの!?」みたいな。

菊池
わりとどうしようもない感じなんですね。「なんでここで営業やってたの?」っていうくらいのクオリティーで。

山田
そう!なんか明治時代に建てられた煉瓦の建築でちょっとステンドグラスのあるような…みたいな物件ワクワクするじゃないですか?ツタが絡んで…みたいな。そんな物件ないんですよ。

鉄骨で新建材で、それがちょっとカビてて、本当にワクワクしない。ただ、それを何件も何十件も、買えても買えなくてもシュミレーションするんですよ。「買ったらこうしよう」「ここを直そう」って。「こういう貸し方しよう」とか「こういう売り方しよう」とか「ここは一部壊そう」とか。その反復練習は当時すごく経験になったんですよね。

菊池
業界初心者の頃ですね?

山田
そうです。あと全国に投資してたので、知らない土地に切り込んでいくんです。誰も手を出さないところに買うので、知ってる人がいないところに行ったりする。そうすると、現地の業者に「すみません、これ管理してもらえませんか」って飛び込みをするんですよ。今の自分が、北九州であんまりビビらないのは当時それをやってたからですね。

菊池
なるほど。飛び込みでね。

山田
そうそう。やっぱりその土地にはその土地の流儀があるし、こっちのやり方で動いてはくれないので、20代の頃は怒られながらやっていました。それも経験になっていますね。物件をどうするかも大事ですけど、現地の人といかにうまくやっていくかも大事。

菊池
それが山田さんのキャリアで基盤というか。今ではボロビルの再生ばっかり請け負っているのが山田さんの特徴ですよね。

山田
そうですね。キャリアの原点です。そのあと1年くらいホテルの開発をやったりとかして。オリエンタル・サンを立ち上げる前は8年くらい事業用の物件などの、いわゆる資産家の資産を活用するというコンサルをしていました。簡単に言うと賃貸管理会社です。不良債権を最初にやって、賃貸管理をして今に至る…のが一応キャリアです。

菊池
一般的な不動産業のイメージって、大規模な開発をしたり売買したり、それこそ地元だったら賃貸住宅の管理というか仲介も不動産屋さんの仕事みたいになってますけど、山田さんは何をしている人なんですか?

山田
世の中でいちばん目につくのは路面に出てる仲介会社ですね。窓ガラスに募集が出てて、「売ります/貸します」みたいな。あれはいわゆる仲介業なんですよ。世の中のかなりの割合がそうですね。あと、マンションを建てるのはデベロッパーと言われていて、資本が必要なんですよ。不動産業界は、リスクを取る人たちとサービスする人たちに分かれています。

自分のポジションはサービスをする人です。リスクを取る人は、例えば大手の不動産業者さんがマンションを建てるみたいに、自分のリスクで土地を買って、マンションを建てて、それを売って、差額で儲けるみたいな商売する。これは花があるけれど、リーマンショックとかが起きると一発KOみたいなところがあります。

その点で仲介業は、リスクが少ない。高い買い物なので取引の責任は持つんです。「これは安全ですよ」「ここが危険ですよ」と説明して売るっていうのが仲介業。これには売買も賃貸もある。売買仲介専門!賃貸仲介専門!ができるのは、福岡の中心や東京だけで、門司港のような場所は仲介と一緒に管理をする業者が多いです。

菊池
管理業ってどんなことするんですか?

山田
簡単に言うと、ひと月のアパートの家賃収入が100万円なら、2万円とか3万円とか毎月いただいて、入居や退去、修繕とかを行います。修繕の場合は実費でもらう、みたいなことをやるのが管理です。

菊池
山田さんは基本的に管理が多いのですか?

山田
僕は基本的な管理屋さんですね。ただ、今、門司港に投資してるように、だんだん投資を増やしています。やっぱり賃料収入っていうのはすごく経営が安定します。だんだんその割合を増やしていきたいなっていうのが2年目の今です。

菊池
なるほど。でも元々は、ビル再生とか、再生したボロビルの管理をしてお客さんをつけてケアしていく…っていうのが山田さんの業務に当たるのですね。

山田
そうですね。賃貸って必ずしも買わなくてもよくて、サブリースっていう方法があるんです。一括借り上げするんですよ。6万円で借りて8万円で貸すと、2万円がうちの利益になります。これだと買わずに済むのですが、家賃の負担をしないといけないので、空室を覚悟する必要があります。そこは賃貸管理をしてきたノウハウでいかに空室を出さないかという工夫や、入居した人にいかに長くいてもらうか、というノウハウはあります。これは当社が今、神田で貸してる物件なんですが、神田の駅徒歩2分のすごく良い場所です。神田っていえば、東京駅から一個の駅なので、良い場所なんですが、築50年のエレベーター無しの6階。

菊池
めちゃくちゃ条件が悪いじゃないですか(笑)。

山田
ハァハァ言いながら階段を登る(笑)。

菊池
徒歩2分くらいしか良いところがないですよね。

山田
でも、山手線駅から徒歩2分といったら、20万円くらい出さないと借りれないような場所ですが、実はこの物件は、8平米しかないので、門司港ならありえないと思うけど、2人くらいで働けるオフィスで8万5000円です。家具付き、光ファイバー完備なので、入居した日からパソコンひとつで業務をスタートできます。

菊池
門司港の物件を買った経緯っていうのは、僕と山田さんの共通の知人がいるんですよね。そこで山田さんは初めて門司港を訪れて、初めて見た時、どうだったんですか?門司港って聞いて印象はありましたか?

山田
門司港は、電車が好きなので、門司港駅の看板が真っ先に浮かびました。

菊池
なるほど。国の重要文化財の駅ですね。山田さんは、鉄ヲタだから。

山田
友達がいるからっていう理由で、本当に地縁もなく来ました。大学時代の友達が北九州市若松に物件を買っていたんです。この間なんか銀行の跡地を500万円で買ったとかいうから、「は?500万円!?」みたいな。

銀行は金庫を置かないといけないので、建物がかなりちゃんと作られているんですよ。他の建物より壁が厚いとか、そんなのが500万円で買えるとかあり得ないって思いました。

菊池
話を聞いて興味はあったんですか?

山田
興味というか、確かめたかったんです。安いといっても、全国には安い物件がまだまだあるし。でも、友人から聞いた物件の概要があり得なかったんですよ。貸せるわけがないし、投資がすごくかかる。「いくら建物が良くても、内装に2000万円かかるけれど、賃料はそんなに上がらないでしょ?」って。

この利回りじゃ合わないと思って行ってみたら、ほとんどスケルトンで貸してて、「寒いじゃん!」って言ったら「いや、ストーブおけばいいじゃん」って。冷暖房とか断熱とか、そういう当たり前に思っていたものが当たり前じゃなかったんですよ。賃貸物件の概念を覆されました。「嘘でしょ」みたいな。

菊池
「こういう感じでいいんだ」「こういうやり方もあるんだ」って感じですね。

山田
スケルトンのお店でも、貸せるんだって思って。500万円で全然利回ると聞いて、それはすごいと思いました。当社の神田のサブリース物件だって、敷金を払って内装費を払うと、あっという間に100万円はかかるんです。ところが門司港では、売り物件が130万とかなんですよ。200万で所有権やぞ、土地建物がついてくるんだ、ていうのはちょっと考えちゃいましたよね。「なんでおれ東京で借りてるんやろ?」って。

菊池
地方投資がちょっと面白いなって思ったんですね?

山田
ただ、やっぱり怖い…。知らない土地、友達がいるというだけだと。そこで冷静に考えました。北九州市は今、人口が94万人います。調べてみると、将来過疎化するって話が出てきますが、自分が育った茨城の街が3万人だったんです。100万人が過疎化するって、どんだけ時間かかるんだよって思いました。

元々安いから利回りも高いし、3〜4年で回収できることを考えると「その間に北九州が死ぬのかな?」って。調べてみると、門司港のマンションとか、新築は3000万円くらいで売っている。

菊池
普通の不動産は結構高いですよね。

山田
そう。たまたま中古が安いだけなんだって気付いて。3000万円の隣に200万円の建物が普通に建っているというのが、すごい現象だと思ったんですよ、「これは買いでしょ!」って。物件というより、都市がいいと思った。

菊池
そうですね、地方っていっても…。

山田
インフラは高速道路があるし、門司港から小倉まで10分ちょっと。

菊池
空港も近いし。

山田
北九州のモノレール、超かっこいいじゃないですか。小倉の駅の中に入ってくモノレールとか超かっこいい。

菊池
鉄道ファン目線(笑)。あと門司港は観光地の側面もあるし、自分も住んでいて思いますが、北九州市の人口がいる上に、門司港って観光地だから外からの人が来るって考えれば、事業立地として悪くないですもんね?

山田
おそらく、そもそもリノベーションマーケットがなかったんだと思っています。自分はプロなので、新築か中古かは、あんまり関係ないんですよ。中古でもリノベーションすれば直せるので。日本人は新築主義みたいなところがありますが、中古物件を貸してきた自分としては、全然ありだと思います。値段が10分の1ですからね。お金をかけて直せばいいと思います。

菊池
よくわからんけど、安いし買ってみるか…みたいな(笑)。

山田
安いし、あと目の前で友達が「俺、店をやる」と言っていたから。

門司港周辺の賃料って3万円とか、5万円いかないくらいじゃないですか。出店料がすごく安い。例えば東京だと賃料20万円の審査って、結構厳しくやらないといけなくて。もしかして「嘘言ってるかもしれない」とか、資料の信ぴょう性とかかなり見るんです。ところが3万円だと「まあなんとかなるやろ」みたいな。目の前の人が借りるということは、利回るっていうことだから貸しますよ。

今までは、物件を買ってから賃貸募集してたんですよね。「貸せるかな、どうかな」って不安だった。誰かが「やります」って、借りる人が先立ってるっていうのは、すごく強いんですよ、賃貸物件としては。

栄町デルタ

菊池
たしかに、だってもう借りてくれますもんね。その人が。

山田
そう。そこでリスクがほとんどなくなっちゃうので、そこで買わないバカはいないんですよ。「金払うって言ってるのになんで買わないの?」みたいな。ハードルが非常に低いから、そんなのお店ができるに決まっている…みたいな話だったんです。

菊池
そうですよね、実際に山田さんが「買った」っていう話を間接的に聞いた時、まず「よく買ったな」って思いましたもん(笑)。

山田
自分がびっくりしたのは、「お店をやりたい人がいるんだ!」ということ。地方都市って、ヨボヨボのおじいちゃんとかおばあちゃんがシャッター街を歩いてるみたいなイメージだったので…。

菊池
まあ…それは事実ですけど(笑)。ただ、門司港にはお店をやりたいっていう人は多いですね。今も物件を探している人が何人もいます。

山田
そりゃそうですよね、94万人もいたら若い人も当然いるわけで。

菊池
まあ移住っていうのもありますからね。あと年代もさまざま。出店したいっていう人でも、若い人もいれば、いわゆるセカンドライフって言われる定年してからお店を門司港で始めたいっていう人も結構いるんです。

既存の不動産会社じゃできないこと、東京の不動産会社がしないようなことを、山田さんはやったんだと思います。

ボロビル再生請負人 山田武男

後編はこちら

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