オンラインが「主」の時代を生きる

目次

「来年の採用は、もっとデジタルで行こうぜ!」

年明け、三好不動産の三好修社長に一冊の本を紹介された。

「年末、幹部には全員読むように言ったんだ」とのことで、タイトルは『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社)だった。

てっきりコロナ後のオンライン社会本格到来を書いた本だと思ったが、実際にはコロナ前の2019年3月に書かれた本だった。

読んで驚いた。

〈現在、多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」を積極的に取り込んでいますが、そのアプローチは、「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。例えば、「オンラインでも実店舗のような接客を」とか「無人レジを一部導入してみる」といった取り組みです。〉(P2)

不動産業界で言うなれば、オンライン内見や、無人仲介、IT重説がそれにあたる、と思ったが、世界を見渡すとその考え方自体が既に遅れているという。

〈米国の一部地域、中国都市部、エストニアなどに代表される一部の北欧都市では、既にオンラインとオフラインの主従逆転が起きています。考え方のベースはオンラインであり、こちらが「主」。オフラインは「信頼獲得可能な顧客との接点」という位置づけで、こちらは「従」です。〉(P2)

オフラインがそもそもなくなる、存在しなくなる、ということを、本の中では具体的な企業やサービスの事例を挙げて書いていた。

三好社長はこの本を読み、来年の採用について方法を大きく変えることを決めたそうだ。

「全体をデジタルで考えて、その一部としてリアルを考えていく」とし、これまで70名ほどを集めて6~7回行っていた会社説明会をオンラインで配信し、興味を持ってもらった学生に、直接きてもらって質問をしてもらったり、面談をしてもらうようにしていくという。

「目標は4万人。東京でも福岡でもどこでも観られるようにします」(三好社長)

社内で夕方開催してきた宅建の勉強会もオンライン配信にし、24時間、好きな時間に好きな場所で、どういう形でも聴けるようにしていくという。

「価値観を変えていかないと、私たちのお客さんはもっと早くに変わっています」(三好社長)

「オンライン」と「オフライン」の主従関係が変わる

三好社長が言うように、「全体をデジタルで考えて、その一部としてリアルを考えていく」ようになっていくのかもしれない。

本の中では、主従関係が完全に逆転している中国の北京や上海の事例が紹介してあった。その実態は驚くものだった。

スーパーを例に挙げよう。

実店舗のスーパーは、何のために存在するかというと、新鮮な魚が泳いでいてそれを捕まえて捌き、パック詰めするところを見せるエンターティメントの場、または購入前の過程が分かる場、さらには顧客が買い物をする行動をカメラで写し、どういうところで悩んだり、どういうふうに選択をしていくのかをAIが学ぶ場だったりする。

実際の顧客の行動はというと、好きな場所からネットで注文し、家にいるだけ。30分以内に配達員が購入したものを届けてくれる。

中国人の友人によれば、購入時にはいろいろな電子クーポンがついてくるし、買った内容をAIが見て料理のレシピまで送ってきてくれるしで至れり尽くせりだそうだ。

「タピオカミルク1杯だけ、ポテトフライ1袋だけ、りんご1袋だけでも30分以内には届くので、実際のスーパーに行くことはないですよ」とのこと。

『アフターデジタル』には、こういった配達の拠点は、3キロ圏内の住宅価格が上昇しているという興味深い記述もあった。

宅配のあり方も変わる?!

ひるがえって、日本の食糧事情はどうだろうと考えていると、1月11日付の全国賃貸住宅新聞に、こんな見出しを見つけた。

「クックパッド 生鮮宅配ボックスの導入急増 FJネクストが27棟に設置済み」

1月11日付の全国賃貸住宅新聞の3面

クックパッドが自社で運営するクックパッドマートの受け取り場所として、生鮮宅配ボックスをマンションの共有部に設置していて、導入するマンションの総戸数が2万戸を突破したというものだった。

「いつの間にそんなことに!!」と思い、早速、宅配ボックス最大手のフルタイムシステム、原周平副社長に何が起きているのか話を聞くと、導入された宅配ボックスは同社の製品ではないと断りつつ、今起きているのは、「EC会社が自社専用のボックスを置き、ユーザビリティを上げようとする動き」だと教えてくれた。

コロナ禍において、通常時でもフル回転の宅配ボックスはさらにその役割が増している。

フルタイムシステムでは、昨年1年間で預かった荷物の個数は、5453万7680個で、前年の約4000万個の1.36倍になった。年末、台車にたくさんの荷物を乗せて駆け回っていたドライバーさんたちの姿が思い起こされる方も多いだろう。

ちなみに宅配ボックスは、荷物の再配達を防ぐ役割があり、同社が荷物を預かったことで削減できたドライバーの労働時間は、1199万8290時間に相当すると評価されている。

そんな中にあって、よりスムーズな受け取りを実現できるようにと、メルカリや楽天、スーパー各社などが自社の顧客だけが使用できる専用ボックスを設置するというのはかなり納得できる話だ。

ということは、今後、マンションなどの共用部にずらりと、「◯△社専用宅配ボックス」といったものが並ぶ可能性も出てくるのだろうか?!それはさしずめ「マンション内無人商店街」といったところか。

今後、もしかすると、マンションのスペースを巡る獲得合戦、というのも起こりうるかもしれないと思った。またそれがマンションの付加価値になっていく可能性だってあるだろう。

人々の行動が変わり、働き方が変わり、テレワークが進んで、宅配環境、物流環境も大きく変わった。少し先の世界を覗きながら、新しい賃貸経営のイメージネーションを働かせる時である。

Hello News編集部 吉松こころ

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次