帝国ホテル、月額36万円は高いか、安いか

「帝国ホテル」と「アパート」という、まるでウエディングドレスにビーサン、とでもいうような真反対の二つの言葉が日経新聞の1面を飾ったのは、今年2月1日の朝だった。

見出しには、

帝国ホテル客室 アパート転換 
99室、食事・洗濯定額

とある。

記事によると、客室フロアの一部を改修し、99室でサービスアパートメント事業を開始するという。専属のサービスアテンダントが24時間付き、食事や洗濯などを定額で提供するだけでなく、無料の朝食や、ホテルラウンジでのコーヒーや紅茶の提供、駐車場やフィットネスセンター・プール・サウナの利用、さらにはビジネスラウンジの利用などの帝国ホテル内の至れり尽せりな設備やサービスをフル活用できるとあった。

約30㎡で月額賃料は36万円だそうだ。

コロナによってホテル業界が受けた影響は、日本を代表する帝国ホテルであっても例外ではなかったのだと思わされる。

「ありえない!」

記事を読んだ不動産業界紙の元記者が電話をかけてきた。

「0がひとつ足りませんわ!360万円の間違いでしょう?帝国ホテルというブランドがあって、そのサービスを受けられて、日比谷の一等地に住むステータスを味わえて36万円ですよ!安すぎる。激おこです!」

実際、発表と同時に申し込みをしたというある名古屋在住の大家さんは、「申込みしましたが、2~3時間で完売したそうです。キャンセル待ち700人だそうで、諦めました」とうなだれていた。700人もキャンセル待ちが出るとは、帝国ホテルは値付けを間違えたのだろうか。

目次

ホテル業界が起こす価格破壊

不動産の世界において、値付け、つまり賃貸であれば「家賃」、分譲マンションであれば「販売価格」を言うが、これは非常に重要な仕事の一つだ。例えば新築の賃貸マンションがすぐに満室になったとしても手放しに喜べない。

「設定した家賃が安すぎたのではないか?」と指摘され、値付けをした社員の評価が急降下することはしばしば起こる。値付けのミス、というのは不動産会社の社員にとって、時に出世をも左右する痛恨のミスなのだ。

帝国ホテルの発表から1ヶ月後くらいに、今度は三井不動産ホテルマネジメントが、ホテルに住むプランを発表した。

全国12都道府県にある35のホテル、三井ガーデンホテルズやsequenceから毎日好きなホテルを選べて、月額15万円の固定使用料で宿泊できるという。

「ご利用のイメージ」として、


とあったが、こんな優雅な生活が、15万円でできてしまうなんて、東京の賃貸相場を考えたらお得過ぎる。

しかし分譲や賃貸の世界で経験豊富な三井不動産グループが値付けを間違うとは思い難い。

前述の大家さんは、「covid-19により業界を越えた再編が早まったということ。賃貸マンション業界VSホテル業界VS元気なシニア住宅業界。きっとそのうちオフィスや鉄道業界も参戦しますね」と語った。

今後、ホテルをはじめとした、さまざまな企業の参入で、不動産業界は新しい競争にさらされるのだろう。それにより、価格、サービス内容、申し込みの受付方法や契約の形態など、あらゆる面でブラッシュアップされていくのかもしれない。そして、それはとても良いことだと思われる。

家具付き賃貸が普及するか?!

帝国ホテルや三井不動産グループが行ったこれら破格の価格設定により、既存のマンスリーマンションやサービスアパートメントの業界はどのような影響を受けているのだろうか。

マンスリーマンションの募集サイトを運営する、セプトの今泉竜社長にマンスリー業界の状況を聞いた。

── ホテル業界からのライバル参入で、入居に影響はありますか?

「影響ないですよ」

── コロナの影響は?

「それはあります。都心型のマンスリーマンションは出張や転勤、ホワイトカラーの方々の移動が激減したことで苦戦を強いられていると思います。しかしマンスリーマンションの多くは、郊外の工場地帯が多く、そこは入居率が多少下がっている程度です。工場勤務の人たちは在宅ワークができるわけではありませんから、工場周辺のマンスリーマンションはやはり必要とされています」

── 帝国ホテルが打ち出した料金は安すぎませんか?

「決して安いとは思いません。妥当と思います。30㎡程度の賃貸マンションなら、帝国ホテルがある千代田区周辺でも25万円くらい出せば存在します。ホテルには、キッチンがありませんし、洗濯機も付けられないことを考えれば、妥当な価格設定だと思います」

── 帝国ホテルのアパートはどういう人が利用すると思いますか?

「都内のマンスリーマンションであれば、20万円台が多いと思いますので、そこより高く、かつホテルのサービスが受けられることに堂々と経費が使えるのは、通常の出張族ではなくて企業の役員クラスでしょう。そういった意味でもマンスリー業界のターゲットとは異なります」

── マンスリー業界のターゲットとは?

「ビジネスホテルを使う人と、一般賃貸を借りる人の間にいる人たちです。6000円のビジネスホテルに30連泊したら、18万円で、部屋の大きさは13.5㎡程度です。一般賃貸を借りると金額は安くなり、部屋は広くなるけれど、敷金や礼金、家具が必要となります。なので、それらが全部ついてホテルより安い部屋を探すのが通常の出張族です。マンスリー業界が対象としているのはそういった層です。そもそも対象が違うのでホテル業界の参入はそれほど問題視していません」

今泉さんは最後に、こう語った。

「日本は諸外国と比較し、ホテルをマンスリーやウィークリーで利用するというスタイルがなさすぎたと思います。今回のコロナを機に、そういった利用法が増えていくのは、住まいかたの多様化としていいことではないでしょうか」

今泉さんが運営するセプトでは、マンスリーマンションの募集に際し、短期利用を打ち出しつつも、さらに長期で利用したい人には「家具付き賃貸」として貸し出すこともあるという。

カバン一つで移動できる「家具付き」を求める人は、昨今増加傾向にある。

「家具付きも海外では当たり前の貸し方です。日本は畳の張り替えがあるので家具が付いていると邪魔だとして家具付きが普及してこなかったと言われていますが、それも現代社会とは合わない話です。今後は、家具付き賃貸の普及も後押しされるのではないでしょうか」

コロナが加速させた業界再編と貸し方・借り方の多様化は今後も注目したい流れだ。

2021/02/22 18:30~20:00 撮影:旅人大家 村瀬さん
京都の法観寺に続く道向こう10年、いや100年でもここまで人がいない京都はないかもしれない。

Hello News編集部 吉松こころ

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次