<前編>愛知宅建協会主催「賃貸管理業実務セミナー」レポート

公益社団法人愛知県宅地建物取引業協会は12月14日(月)、「賃貸管理業実務セミナー」を開催した。

対象は、愛知県で賃貸管理業に関心を持つ不動産会社で、100人ほどが参加した。セミナーは、参加者からの質問に答える形で行われ、「賃貸管理業を行うのはどれくらい大変なのか?」「民法改正で退去時の原状回復ルールはどう変わったのか?」「従業員への成果報酬はどのような基準にすればよいのか?」「長くオーナーと付き合うためのポイントは?」など寄せられた質問に登壇者が回答した。

登壇者プロフィール

一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会
会長 佐々木正勝 さん
昭和48年、日本列島改造論真っ只中に、不動産の世界へ足を踏み入れた。50年近い管理業の中では、3度、管理オーナーの葬儀で弔辞も頼まれるほどに家族ぐるみの信頼関係を築いてきた。

一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会
専務理事 岡田日出則 さん
2020年5月で不動産業を始めて30年になった。高校の同級生だった奥さんと未経験で始めて、4万1000円の物件を借り、たった二人での船出だった。神奈川県横浜市都筑区でおかだハウジングを経営。

公益社団法人愛知県宅地建物取引業協会
副会長 二村伝治 さん
奥さんと4歳と2歳の娘のふたりの4人で起業。廊下で子どもを遊ばせながら夫婦でマンションの清掃をしたという時代も。夜間の電話は自宅に転送された創業期を乗り越え、現在では1000人の社員を抱える会社に成長した。

一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会
理事 光岡新吾 さん
大学生の時、父親の命令で宅建資格を取る。31歳で独立し、最初は売買仲介からスタートした。愛知県豊田市を中心に800戸の賃貸住宅を管理する。

株式会社Hello News
代表取締役 吉松こころ
2003年、全国賃貸住宅新聞に入社。以降、賃貸住宅業界で生きる人々を取材している。2015年4月に独立し、HelloNewsを設立した。

質問1:賃貸管理業を始める場合、誰でも最初は1人で全ての業務を行う必要があると思うのですが、どれくらい大変なことなのでしょうか。正直、とても不安です。

光岡社長
正直言って本当に大変です。賃貸管理の仕事はとてもたくさんあるので1人ならやりたくないという気持ちになるのはよくわかります。

私が賃貸管理を始めたきっかけは、周囲に管理業をやっている社長が多くいたことでした。皆さんをよく見ると経営がとても安定しているのがわかりました。管理業を始める前は、1人で売買仲介をやっていたのですが、安定とは程遠いものがあり、管理業に関心を持つようになったのです。

管理をやろうと決めた後は、それまで通り1人でやろうとは思わず、人を採用しました。私も年を取りますので、自分でできないことは任せようと思い、社員に頭を下げたり、下請けさんと一緒になったりで解決してきました。

賃貸管理をやると腹を決めれば、仕事は本当にいくらでも取れます。私はそうして人を育てながら、30年間やってきました。人を雇用すると、自分自身の人間修養にもなりますし、会社も知らないうちに大きくなって、おのずと社員に感謝できるようになってきたように思います。

1人では解決できない仕事は何と言っても家賃滞納です。それと退去立ち合いがよく揉めます。クレームがいっぱい来るのは想像以上でした。

そういった意味でも、賃貸管理業は1人でやるのではなくて社員さんを入れて、雇用と納税をして社会に貢献するような会社を作ってくといいと思います。

質問2:退去時の原状回復について、民法改正により新たなルールができました。従来の慣例と新たなルールの違いにより気を付けなければならないことは何でしょうか。

佐々木社長
原状回復は、皆さまも毎日のように現場でご苦労されていると思います。特約や原状負担の割合が正しいのか、あるいは消費者契約法に違反するのか、第三者の方に見てもらって本当に正しいのかというのを考えていくのが一つのポイントではないでしょうか。また、説明時には、事前の承諾を借り主と消費者の双方からきちっといただくのも大きなポイントだと思います。連帯保証人さんには常々、連絡を取りながら、「こういう風になりますので、引き続きよろしくお願いしますね」というのも良いでしょう。

私は、賃貸契約書の他に、別札でA4を1枚用意し、連帯保証人承諾書というものをもらうようにしています。既にやっている方もいるとは思いますが、この内容はいたって簡単です。

「賃借人・佐々木正勝がこの度、お借りする下記次第の物件について、契約期間満了あるいは契約条件が変更になった後も、私は残置物の処理を含めて全て連帯保証をなすことを承諾いたします」というような内容を別紙でいただければ、民法が変わっても連帯保証人はいわゆる有効ということになります。そういうものをやっていただければより有利になると思います。

質問3:不動産業から賃貸管理業へ取り扱い業務のウエートをシフトしていきたいのですが、従業員への成果報酬はどのような成績を基準として考えればよいのでしょうか。

二村社長
まずは私の会社のことを少しだけお話しします。管理というのは守りの世界でありまして、仕事を取った、取らない、というような競争の世界ではないんですね。しかし仕事を取らないと前へ進まないわけですから、弊社で言えば、数少ない営業社員についても、新しい建物の管理委託を取ったときには、成果報酬ということでいくらかの手当は付けています。

ただし、情報収集の方法によって金額が変わっています。今現在管理を受けているオーナー様が2棟目の管理を委託してくる場合があります。それから工務店さんには多くの情報網があるわけですが、そこから次々に出てくる紹介の場合もあります。これらは、一見ではなく継続的な紹介があると考えられるので、成果報酬の手当が他より多くなっています。

また、一番報酬が大きいのは、やはり自分自身の足で稼いだ情報です。一から契約まで進んだものについては、それなりの報酬というものを考えております。

しかしあまりにも手当を大きくしてしまうと、他の部門、例えば清掃やメンテナンスなどから「われわれはないのか?」というような話が出てしまいます。管理以外の部門は、管理委託で受けたその業務をこつこつと丁寧にこなしていくものですから特別な報酬はありません。しかし、金額は少ないのですが、清掃回数が週1回だったものを週2回に増やすというようなことがあれば手当をつけたり、管理委託料を上げていただけたりした場合にも、成果報酬という形の手当を付けています。

質問4:物件を管理することをきっかけにして、オーナーの相続まで仕事として関わっていければ、大きなビジネスチャンスになると思います。長くオーナーと付き合うためのポイントは何でしょうか。

二村社長
オーナーの相続までつながれば大きなビジネスチャンスになると考えていらっしゃるようですが、私にとっては相続が最終的な目的ではありません。私は、オーナーとのお付き合いは50年続けるというビジョンを掲げています。

なぜ50年かというと、新築で管理を受けた建物の50年先というのは、建て替えの時期だということです。この時に、50年間その物件と付き合ってきた一人として、「そろそろ建て替えましょう」と言えるようになります。また、もしかしたら「立て替えるために何かアドバイスをください」というお話になるかもしれません。すると、設計から建築、そして最終的にはまた新しくできた建物をそこから50年、管理するという流れを作ることができるのです。私は、こういうビジョンを掲げていますので、その過程の中で当然ながら相続というものが出てくると考えています。

50年というと少なくとも1回、多い方だと2回、相続というものが出てきます。弊社は賃貸管理業を始めてから36年が経ちますが、30年過ぎた辺りからこの相続という話が出てくるようになりました。私たちは賃貸管理会社という立場で、オーナーさんから息子さん、息子さんからお孫さんにどういう形で相続するのが一番いいかというアドバイスを、弁護士や税理士と一緒にしています。

相続の相談をしてもらえるようになるには、信頼関係を結ぶのが一番です。オーナーとのコミュニケーションが大切になるわけですが、ただ単に仲良くなるというようなことではありません。数年前から相続の準備をしてオーナーさんにお話ししておくことと、設備が故障しないように先手先手で対策を取っていくというのが鍵になります。そういうオーナーさんが欲しがるような情報をどれだけ多く提供できるか。これがオーナーさんと長く付き合っていける秘訣ではないのかなというふうに私は考えています。

Hello News編集部

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